#3

快は走った。

そして位置情報に記されたホテルの前までやって来る。


「ここか……っ」


そして自動ドアを抜け中に入るとすぐ横にダイニングがあるのを見つけた。

もう一度送られた写真を見返してみる。

背景にテーブルなどが並んでいる事からダイニングで撮られたものだと確信した。


「……っ」


恐る恐る大きな扉を開ける。

そして目に入った光景は写真の通りだった。


「よく来たなぁ、待ってたぜ創快!!」


両手に拳銃を持ち捕らえた愛里と純希の両者の頭に突き付けているルシフェルが笑いながら立っていた。


「与方さんっ!!」


思わず愛里の名を叫んでしまうが二人とも気絶しているようで反応はなかった。


「いやぁお前の事だから来ないかもと思ったぜ、ビビって逃げちまうんじゃねーかって心配だったんだ」


快の恐怖に怯える表情など気にも留めずルシフェルは語り出す。


「だがお前は逃げずにちゃんと来た、そこは評価してやろう」


偉そうに言うルシフェルに快は得体の知れない恐怖を更に強く感じた。


「あの、さっきヒーローになれって……何をさせるんですか……?」


震えながらも目的を聞いた。


「というか何が目的なんですか、何で俺の正体知ってるんですか……⁈」


明らかに人間の姿だと言うのにやけに詳しい事が不気味だったのだ。


「んー、どこから話そうかな」


そしてルシフェルは考えをまとめてから語り出す。


「俺は天使だ。つまり神側の存在、大体の事情は最初から把握してるわけよ」


「え……?」


突然訳の分からない事を言われて混乱してしまう。


「だが神は俺を"罪人"とか言って堕としやがった!全くムカつく野郎だ、だから這い上がってその座を奪うって決めたのさ!」


まるでずっと溜め込んでいた怒りを思い出したかのように口調が強くなる。

そして一旦冷静になってからこう言った。


「……それが俺の"夢"だ」


ニヤリと笑って快を見つめる。

背筋がゾワッとした。


「んじゃそろそろ始めようか。お前への感謝を見せてやるよ」


そして本題に入ろうとする。


「感謝……?」


「あぁ、俺はお前に感謝してんだぜ?永い"輪廻"の中でようやく出会えたんだからな……!」


また分からない話をするが今は考えている余裕は無さそうだ。


「今からお前にはこのどちらを救うか選んでもらう。好きな女と嫌いな男だ、簡単だろ?」


そして愛里と純希のどちらを救うのか快に迫ったのだった。


「そんな……!!」


快の選択は如何に。


______________________________________________


両者の頭に銃を突き付けているルシフェルは笑いながら快に選択を迫る。


「早く選べよ〜、それともアレか?どっちも救うとかいう神プレー見せるか?」


「くっ……」


今の自分にはどちらも救う事など出来ないだろう。

なのでグレイスフィアに触れて変身しようとした。

しかしルシフェルはそれもお見通しだった。


「そりゃ無しだ、変身した瞬間どっちも殺す」


グレイスフィアに手を伸ばしたタイミングで静止されてしまう。

焦ってしまう、変身できなければどちらも救う能力など快には無かったから。


「お前自身の力を見せてくれよ〜、変身されたら判別不可能じゃねーかぁ」


このままではどちらも救えない。

快はどちらも救いたかったのだ。

夢を応援してくれている愛里、そして夢を叶えて見返したい純希。

どちらも自分の夢にとって大切な存在である。


「(ここでヒーローになれなきゃダメなのに……!!)」


ここでまたパニック発作が出てしまう。

最悪な気分だった。


「何でこんな事するんだよぉ……」


地面にへたり込んで嘆いてしまう。

独り言のつもりだったがルシフェルは丁寧に答えてくれた。


「言っただろ、お前がどんなヤツか試すんだ。行動次第では俺が超喜ぶぜ?」


もう訳が分からなかった、頭も働かない。

完全に自暴自棄になってしまった。


「二人とも助けて下さいっ、殺るなら俺を……っ!!」


自己犠牲が今できる最大の決断だった。

その答えに対してルシフェルは。


「そーゆーの良いから、冷めるんだけど」


急に声のトーンが低くなる。

明らかにガッカリしているような雰囲気だ。


「確かに雑魚いのは求めてたぜ?でも最低限ヒーローであってくれなきゃこっちとしても計画が台無しなのよ」


そう言いながら更に快を急かす。


「ほら!早く選べ!」


そして遂に快は決断を下すのだった。


______________________________________________


ルシフェルが快に選択を迫る中、愛里は密かに目を覚ましていた。


「ん……」


そして自分が捕まっていた事を思い出す。


「(そうだ、私この人に……!)」


捕まってから気絶させられる前、愛里と純希はルシフェルにこれから何をするのか聞かされていた。


『お前らの命を天秤にかける。創快はどっちを選ぶのかなぁ?』


そして視線の先には項垂れる快。

今まさに選択を迫られているのだと理解した。


「えーらーべ、選べっ!!」


急かしているルシフェル。

快は悩んでくれているのだと愛里は知る。

そして遂に。


「うん……」


快はゆっくりと立ち上がり言葉を発する。


「決めたよ……」


苦しそうに宣言した。


「お、どっちだ?救う方の縄を自分で解きに来い」


そう言われたため快は歩き出す。


「(俺が救うのは……)」


そして純希の顔を見た。


「ごめん純希」


一言謝ってから愛里の方へ向き直り歩みを進める。


「おー!やっぱそっちかー!」


愛里の方を向いて進む快に前のめりになって見入ってしまうルシフェル。


「いいねいいね!そーゆーのが見たかったんだよ、ヒーローらしからぬ自己中なとこがさ!!」


そんな言葉が耳に入りショックを受ける。


「ごめん、ごめんなさい……」


純希への申し訳なさと自分の弱さへの憤りに押し潰されそうになりながら愛里に近付く。

すると突然前方から声が聞こえた。


「お願い、純希くんを選んで」


目線を上げるとそこには優しい目をした愛里が。

目を覚ましていたという事に快も気付く。


「え、何言ってんの……?」


「私なんかより純希くんみたいな人がこの世には必要だよ」


先ほどの純希の行動などを見て愛里は確信したのだ。



「英美ちゃんと同じ"ヒーロー"だから……!」



その言葉を聞いた快は足が止まってしまう。

あの純希が夢を応援してくれた子にヒーローと呼ばれるのを聞いて複雑な感情が生まれてしまったのだ。


「ギャハハハ何だそれ!コイツの何処があの英美と同じだってんだ⁈」


そう言って純希の方に振り返り指をさした。

しかし。


「……あ?」


そこに純希の姿は無かった、椅子に縛り付けていたはずだと言うのに。


「おぉぉっ!!」


次の瞬間、気合のこもった声と共に純希が他にあった椅子を広いルシフェルの頭に殴りつけた。


「あがっ……⁈」


訳も分からず頭部から血を流し倒れてしまうルシフェル。

その隙に純希は愛里の縛られている椅子まで駆けつけ縛っているテープを剥がそうとした。


「純希くんっ⁈何で……」


「コイツ適当にテープぐるぐる巻きにしてただけだから簡単に千切れたぞ……!!」


そう言って同じ要領で愛里を縛るテープもどんどん千切っていく。


「ぁ……」


その間、快はただ純希の活躍に圧倒されてしまい立ち尽くしていた。

そこで純希の背後でルシフェルが立ち上がる。


「おい、よくも台無しにしてくれたな」


そのまま怒りを純希にぶつけて首を掴み片腕で持ち上げる。


「ぐぐぐ……っ」


「どうしてくれるんだ!俺の夢をっ!!」


しかし締め上げられながらも純希は愛里の心配をした。


「快っ!愛里ちゃんを解放してくれ!!」


そう指示を出しルシフェルへ向き直り逆に首を絞める。


「んぐぁっ……⁈」


「今のうちに早くっ!!」


互いに首を締め合いながら二人は睨み合っている。


「あぁっ!」


純希の声で目が覚めた快はいち早く愛里を解放するためにテープを千切ろうとした。


「よし、これで……!」


既に純希が殆ど千切っていてくれたためすぐに救い出す事が出来る。


「逃げよう!」


「待って、純希くんは⁈」


何よりも愛里を安全な場所に移したい快。

純希を助けようと抵抗する愛里の手を無理やり引いて連れて行こうとする。


「チッ、ふざけやがって……!」


「がはっ……」


取っ組み合いはルシフェルが勝った。

苦しむ純希を床に叩きつけて快と愛里を目で追う。


「待ちやがれ!!」


そして怒りのままに拳銃を快に向ける。

それに愛里だけが気付いた。


「危ないっ!!」


そして引き金が引かれた。


「え……?」


銃声を聞いて快は振り返る。

気がつくと愛里が倒れていた。

肩から出血している。


「ぅ……あぁ」


なんと愛里が快を庇って代わりに撃たれてしまったのだ。


「やべっ、鍵を撃っちまった……!」


ルシフェルも重大なミスをしてしまった事に焦る。


「あぁぁぁっ!!!」


心のままに快は叫んだ。

純希も愛里も意識を失い今動けるのは快だけ。

ならばやれる事は一つ。


「おぉぉっ!!」


グレイスフィアを手に取り変身したのだ。

巨大化していくゼノメサイアにホテルは崩れていく。


「クッソォッ、訳わかんなくなっちまったじゃねーか!!」


崩れていくホテルの中でルシフェルは嘆いた。

気を失っている愛里と純希もゼノメサイアの両手に回収されてしまった。

完全にやらかしてしまったのだ。


「責任、取ってもらうぜぇぇ!!」


そしてルシフェルは全身に力を込める。

心の奥に秘めた"罪"が実体化し体を包み込んだ。


『オォォォッ!!!』


そして彼も巨大化。

その姿は人型に近くもまだ"罪獣"というような出立ちでとても自称するように天使だとは思えなかった。


______________________________________________


出現する際に罪獣と同様の雄叫びを上げる。


「グガァァァァッ!!!」


今までのどの罪獣よりも醜悪な姿を晒したルシフェル。

二体の巨大生物の出現によりホテルは完全に崩壊した。

そしてその残骸の中から睨み合う両者が姿を表す。


『オォォ……』


「グゥルルル……」


ゼノメサイアの右手の中には気絶した愛里と純希が。

それを見たルシフェルは手を出して来ない。

やはり愛里は夢を叶えるのに大切な存在らしい。


『ッ……』


一方ゼノメサイアも二人を握ったままでは戦えない。

何とか落とさないように飛び上がりルシフェルを警戒しながら離れた所に二人をそっと置いた。

次の瞬間。


「ゴォォォッ!!!」


ルシフェルが遠距離から獄炎を放ってきた。


『熱っ』


それほどダメージはなく愛里と純希にも影響はなかったため快はそれを"早くしろ"という意味だと解釈する。


『ハッ』


それに応えてもう一度ルシフェルの前に立つ。


「グゴォァッ!!」


構えを取るルシフェル。

戦闘開始の合図だろう。


『ハァッ!』


ゼノメサイアも構えを取り戦闘体勢に入った。

そして今までにない相手との戦いが始まったのだ。


______________________________________________


全力で走り迫るルシフェル。

本当に怒りをぶつけて来るかのようだった。


「ゴォルルァァァッ!!!」


思い切り拳を振り上げ殴りかかって来た。


『ホアッ……!!』


かなりスピードが速かったが何とか避ける事に成功する。

しかしそのパンチは囮だったようだ。


「フンッ!」


『ウッ……⁈』


避けて体勢が崩れたところを狙って尻尾を使い足に当てて転ばせる。

倒れたところへ爪を突き立てた。


『ングァッ……』


両手で何とか爪を掴んだが掌から先程の獄炎を放った。


『ゥグアァァァッ……!!!』


顔面に灼熱の獄炎が纏わりつく。

今までに感じた事のない信じられないほどの苦痛に襲われる。


『ァッ、ガハァッ……』


顔面が丸焦げになってしまう。

既に今までの戦いで食らって来たダメージで一番を更新しただろう。


「おいおい、終いかよ?」


『ま、まだだ……』


テレパシーのような声が脳に直接届く。

煽るような声に腹が立ち何とか立ち上がった。


『ゼアァァァッ!!!』


思い切り突っ込んで行く。

今度はこちらから仕掛ける番だ。

しかしルシフェルは強かった。


「グォォォッ……」


唸り声を上げながらゼノメサイアの攻撃を避けていく。


『(クソッ、パニックで上手く戦えない……!)』


ルシフェルが強いからというのもあったが快もパニック発作が出ていたため上手く戦えないのだ。


『フンッ!』


そしてとうとうパンチがルシフェルの腹部に命中した。


「あぁ?」


しかしルシフェルはピンピンしている。


「こんなもんかよっ!!!」


そして思い切り焦げた顔面を掴み近くのビルに叩きつけた。


『ゴホァッ……』


全く歯が立たずに絶望してしまう。

ヒーローになると意気込んだばかりだと言うのに連続でこれほどまで無力さを実感させられてしまうとは。


『ダメだ、俺はヒーローにっ……!!』


焦りが強くなってしまいガムシャラに攻撃を繰り出す。

しかしそんなものがルシフェルに通じる訳もなかった。


「ガゥアァァァッ!!!」


全て防がれ顔面を思い切り殴られる。


『アガッ、ハァッ……』


背後のビルに背中からぶつかり崩してしまう。


『(ダメだ、強すぎる……)』


自分が如何に無力か、余計に理解してしまう。


『嫌だ、このまま何も出来ないなんて……』


こんなにも上手くいかない現実に嫌気がさす。

視線の先ではルシフェルがまだ迫って来ている。


『何で俺だけこんな辛いままなんだっ!!』


苦しみから立ち上がりエネルギーを溜める。


「お、雷やるか?」


ゼノメサイアの次の行動を察したルシフェルも対抗してエネルギーを溜める。

そしてお互い同時に最大の技を放った。


『ライトニング・レイ!!!』


「天翔熱波!!!」


神の雷と罪の炎がぶつかり合う。

しかし決着は早々についた。


『ウゥッ……⁈』


ゼノメサイアの雷が明らかに押されているのだ。


「ギャハハ!どうしたぁ⁈」


そのまま勢いを強めるルシフェル。

そしてとうとうゼノメサイアは押し負けてしまった。


『グアァァァァァッ……!!』


大ダメージを受けて後方へ吹き飛ばされてしまう。


『ガッ、ゥガァッ……!!』


あまりの苦痛にのたうち回ってしまう。

そこへ更に迫るルシフェル。


「おいおい、この程度で終わんのかぁ?」


今の快にはルシフェルが最凶の悪魔に見えた。

絶望しか心の中にはない、最悪な気分だった。


『やめろっ、まだ終わりたくないっ!!』


必死に命乞いをするがルシフェルはそれを無視して迫って来る。


『あぁっ、ああぁぁぁっ』


まるで初めてバビロンが出現する直前の電車が迫った時のように感じた。

そして心の底から叫ぶ。



『嫌だぁぁぁーーーーっ!!!!』



次の瞬間、爆発音が響いた。

快は恐怖で目を閉じてしまう。

しかしある事に気付いた。


『……あれ?』


何故か自分は無傷なのだ。

ルシフェルはと言うと。


「グッ、ガァァァァッ……!!」


彼の周囲で爆発が起こっている。

一体何が起こったのだろうか。


『え……?』


理解が追いつかない快の背後から突然謎の存在が空を切って現れる。


「食らいやがれ堕天使が!!」


見た事もない戦闘機に荒々しいパイロットが搭乗していた。

ビームのような弾丸を放ちルシフェルを攻撃していく。


『何だ⁈』


そして更に増援が。


「俺も!!」


まるで巨大な車のような兵器が地面を素早く移動しルシフェルを戦闘機同様に攻撃する。


「ちょっと、前出すぎだっつーの!!」


若者な車のドライバーは無線で少女の怒る声を聞く。


「ごめんごめん、初出動だからさ」


突如現れた戦闘機と戦闘車。

その存在をルシフェルは知っているようだった。


「チィッ、とうとう来ちまったか……!」


そして更に巨大なタンクがやって来た。

それにはどうやら彼らの隊長が乗っているようだ。


「目標を補足、これより駆逐にあたる」


他の二人より少し年を取っていそうな糸目の屈強な男が報告をする。

そして自分らを名乗った。



「"Connect ONE/コネクトワン"実働部隊TWELVE、これより任務を遂行します」



突如として現れた戦闘組織に快の理解は追いつかなかった。

彼らは味方なのだろうか、そしてその正体とは。






つづく


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