#2
ルシフェルのような笑みを浮かべたアフリカ系アメリカ人男性。
高円寺駅で電車を降り駅前に立った。
近くには純希や愛里もいる。
「はぁ〜、いっちょやるか」
深呼吸をしポケットから何かを取り出す。
それは一丁の拳銃だった。
周りの人々はモデルガンか何かだと思いそれを構える男性を不審な目で見ている。
「よし、スタート」
その声と共に引き金を引いた。
バンッという音が響いた。
「……え?」
次の瞬間、男性の前方を歩いていた女子高生が背中から出血している事に気付く。
そのまま何が何だか分からずに力を無くして倒れてしまった。
「きゃああああっ!!!」
周囲から沢山の叫び声が響く。
「ヒヒヒィッ!!」
その声を聞いた男性に"憑依"したルシフェルは大きく笑った。
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高円寺駅前を進みながら次々と周囲の人々を撃ち抜いていくルシフェル。
「ぎゃぁぁっ!!」
「助けてぇ!!」
その場にはひたすら悲鳴と銃声が響いていた。
「え、何?」
「銃声……?」
近くにいた愛里と純希も音を耳にして異常事態に気付いた。
音のする方を見ると大量の逃げて来る人々が波のように押し寄せて来た。
「え、え?」
愛里は訳が分からず固まってしまう。
しかし純希は冷静だった。
「逃げよう!!」
愛里の手を掴んで共に走り出し逃げる。
「はっ、はっ……」
息を切らしながら必死に走る二人。
しかし銃声は遠ざかるどころは寧ろ近づいて来る。
更には大勢の逃げ惑う群勢も鬼気迫る表情で走って来ているので愛里は振り返りその表情を見て更に恐怖が増した。
「(英美ちゃん……!)」
これはまるであの日の新宿と同じ。
第一ノ罪獣バビロンが暴れて英美が人々を救いに行った時の状況と似ていた。
そのため英美の死を知った時の感情が蘇ってしまう。
「(助けて!!)」
まるでいつかの快のように心がパニックになってしまった。
「っ……」
その手の震えに純希も気付く。
このままでは逃げ切れるという保証がなかったため何か策はないかと考えていた。
そんな時だった。
「ゔっ……」
純希の隣を走っていた男性が撃たれて倒れた。
よく見ると周りの人々は相当な数倒れている。
「(これなら……)」
ある策を思い付いたため愛里に伝える。
「愛里ちゃん、死んだフリだ!」
そう言って無理やり愛里を連れて人に踏まれない位置に移動し倒れた。
これで上手く行くか分からないが今はこれ以上の策が思い付かなかった。
「静かに、声出さないで……」
小声で伝える。
愛里は目に涙を浮かべながら声を出さぬよう口を両手で押さえた。
「…………っ」
足音がゆっくりと近づいて来る。
恐らく犯人のものだろう。
「ヒヒヒ……」
そして真上で笑い声が聞こえた。
どうか気付かないでくれと心の底から祈る。
そして。
「デカい恐怖だけが罪獣じゃないぜ?」
犯人は意味深にそれだけ言ってその場を通り過ぎていった。
「……はぁぁぁ」
一安心して力が抜ける。
「こんな短期間に二度も死ぬような目に遭うのかよ……」
先日のサブノックの件を思い出し震える。
その時の傷を癒すのも今回のデートの目的の一つだったというのに。
「うぅっ……」
愛里はとうとう堪え切れずに泣いてしまった。
「大丈夫、もう安心だから……」
純希は愛里の肩を優しく撫でて慰める。
しかし全く意味はなかった。
すると。
「た、助けてぇ……」
倒れている人々の中の一人が声を出した。
撃たれているがまだ息がある。
「大丈夫ですか⁈」
慌てて駆け寄る純希。
傷の深さを見て驚愕する。
「愛里ちゃん、救急車呼んで!多分もう出動してるかもだけど!」
それを聞いて愛里は震える手でスマホを取り出し電話を掛ける。
その間に純希は応急処置をしていた。
「止血しますね……」
あまりのグロテスクさに息を呑んでしまうが消防士になるためにはこのくらい我慢できなければならないと言い聞かせ布を巻き止血する。
「(母さん、俺やってるよ……!)」
あの時の自分に応急処置を出来る能力があれば母親は働けて今のような生活はしなくて済んだかも知れないと思っていた。
そのため今こうして上手くやれている事に多少なりとも喜びを覚えている。
「救急車も警察も向かってるって、応急処置できるならやってそれ以上は動かさないようにって言ってる……!」
愛里も救急車を呼べたようだ。
「ありがと!」
後は到着を待つだけ。
・
・
・
そしてまだ息があり出血が酷い人達に止血をして一息ついた。
「(凄い、純希くんヒーローみたい……)」
英美とは違ったアプローチだが彼女以外にヒーローだと感じたのは初めてだった。
関心している自分がいる。
「ん、どうした?」
ボーッと純希を見つめているとその視線に気付いたのか彼は反応する。
「ううん何でも!……ただ凄いなって思っただけ」
そう言うと少し照れ臭そうに純希は返す。
「そんな事はない、きっと英美さんって人の方が凄いよ」
謙遜する心も持ち合わせているのを見て更に感心する。
「でも十分だよ、こんなに沢山の人を助けて」
「はは、何か照れ臭いな……」
少し緊張感が解けた。
「じゃあ俺ちょっとトイレ行ってくるわ」
そう言って近くの建物の中に入り一番近くのトイレへと向かった。
・
・
・
そしてトイレを見つけてその中に入る純希。
「……っ⁈」
その中で驚きの光景を目にする。
「んんん、おぉ?」
何と先ほどのアフリカ系アメリカ人男性からサナギを破り成虫が羽化するかのようにルシフェルが出てきていたのだ。
「何見てんだスケベ」
そこで純希はルシフェルに捕まってしまうのだった。
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快はそのころ高円寺の現状も知らぬまま電車に乗って帰ろうとしていた。
頭の中には純希への嫉妬の事ばかり。
「……っ!!」
そんな中で通知が来たスマホを見ると衝撃的なニュースが。
『高円寺で銃乱射事件発生』
絶句してしまう。
まだ愛里たちがそこに残っているはずだから。
「(まだ二駅しか過ぎてない……)」
次の停車駅はまだ高円寺から二駅しか過ぎていない。
「くぅっ!!」
駅に着いた途端に慌てて電車を降りて反対側の電車に乗って高円寺へ戻ろうとする。
しかしその電車は既に発車してしまった。
「待ってられるか!!」
ヒーローにならなければいけない。
そのために快は走って二駅分先の高円寺まで向かう事にしたのだ。
・
・
・
高円寺の付近まで来ると警察が立ち入り禁止のテープを貼り立っていた。
それを快は乗り越えて行こうとする。
「待ちなさい、この先は危険だ!」
やはり止められる。
しかしそんな場合ではなかった。
「ごめんなさい!!」
快は警察の静止を振り切り先へ進んだ。
すると惨状を目の当たりにする。
「うっ……!」
視線の先には多くの死体。
先ほどまで自分が居たとは思えない光景だった。
思わず吐きそうになるが口を押さえて堪える。
「(吐いてる場合じゃない……!!)」
慌てて愛里と純希を探して歩く。
「どこだぁーー!!返事してくれぇぇ!!」
しかし声は空に向かって響くだけ。
全く返事など来なかった。
するとそのタイミングで。
「っ⁈」
スマホに着信が入る。
誰かと思いポケットからスマホを取り出し着信画面を見る。
その相手を見て驚愕した。
「与方さん……⁈」
その相手は愛里のLINEアカウントだった。
急いで通話ボタンを押し電話に応答する。
「もしもし!!」
しかし相手は別人だった。
『愛里ちゃんかと思った⁈残念、ルシフェルちゃんでした〜!!』
陽気な男の声が聞こえて来て絶望する。
「え、誰……?」
何故愛里のアカウントからわざわざ自分に掛けて来るのだろうか。
『分からねぇか?俺だよ、俺がやったの!』
その一言で理解する。
電話越しのこの男が惨状を引き起こした張本人だと。
「でも何で与方さんの電話で俺に……?」
率直な疑問をぶつけた。
『さん付けとか初々しいなおい!』
快の愛里への呼び方に爆笑するルシフェル。
『ってか分からねぇか?お前が目的なんだよゼノメサイア君!』
「っ!!」
正体を知られている事に驚愕する。
『正直お前に関しては俺も把握し切れてねぇ、だからどれほどのもんか試してやろうと思ってな』
その言葉を聞いてある事に気付く。
「もしかして俺を試すためにこの惨状を……?」
恐る恐る聞いてみる。
すると予想通りかつ最悪の答えが返って来た。
『ピンポーン!バカではないみてぇだなアイツと違って!』
アイツとは誰だろうなど更なる疑問は増えるがそれ以上に快は真実に絶句した。
「そんな、俺のためにこんな事が……?」
震えてしまう。
足下には自分のために殺された死体が転がっていると言うのだろうか。
『メンタルの方はアイツよりダメだな、プラマイゼロか?いや、めっちゃマイナスか』
震える快の声を聞きルシフェルは冷静に分析をしている。
『んじゃ本題に入らせてもらうぜ』
そして話題を変えて本題に入るルシフェル。
『今そっちに写真を送った、それ見てみろ』
指示通りに快は個人トーク画面を開き写真を見た。
「っ!!」
そこには自撮りをしてポーズを決める白髪の男、恐らくルシフェルと認識する。
その背後に意識を失い椅子に縛り付けられている愛里と純希の姿があった。
『どう?なかなか盛れてるだろ〜?』
煽るように言ってくるルシフェルに腹が立ちながらも危機感の方が断トツで強かった。
「無事なん、ですか……?」
『敬語とか!どんだけ弱ぇんだ!!』
とにかく笑いが止まらないルシフェル。
快は逆に余計に不安が高まった。
『安心しな無事だ、今からお前にはコイツらのヒーローになってもらうぜぇ』
ヒーローという言葉に反応してしまう。
『位置情報送るからよ、すぐそこに来やがれ!』
その言葉を最後に電話は切れる。
慌ててトーク画面を確認すると言葉通り位置情報が送られていた。
「(行かなきゃ……っ!!)」
慌てて震えたまま走り出す。
果たして快は二人のヒーローになる事が出来るのだろうか。
つづく
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