< 第二章 > - 波動 -
惑星を観察している間も、生物を観察している間も、自分の認識能力の向上は絶え間なくおこなっていた。
私の認識能力は映像が主体だと思っていた。どこにあるかも分からない受容感覚器官によって、周囲の情報を受け取り、それを私という意識が処理して認識しているのだと思っていた。
しかし、それは私の認識違いだった。私が認識していたのは宇宙の「波動」そのものだったのだ。
エネルギーの波動とでも言うべきか、物理法則の根源とでも言うべきか、はたまた、宇宙を構成している物質の声音とでも言うべきか、とにかく、その「波動」と言うものがこの宇宙には存在し、それを私の意識が直接感じていたのだ。
転星当初、私が周囲を映像として認識できたのは、光が発する波動がこの宇宙で一番強く、認識能力が低かった私でも認識できたことによるのかもしれない。
この波動は実態を持たない要素、物質の根源とも言えるものであり、宇宙全体から押し寄せてくる、言うなれば「情報」なのである。私はこの波動と言う情報を受け取っていたに過ぎなかったのだ。
だから、受容感覚器官なんて必要はなく、私自身の意識そのものが受容感覚器官であり、この波動を直接受容していたのだ。あながち電波を受信してるなんて妄想は、当たらずとも遠からずと言ったところだったかもしれない。電波おばさんとか言わないでよ。まぁ電波少女でもないけどさ。
冗談はさておき、この波動という情報は、ひっきりなしに押し寄せてくるため、当然遮断することもできないし、宇宙の彼方からも到達するのだから、どれだけ遠くであっても認識はできたと言うことだ。
私は周囲を「見ていた」のではなく、情報を「受け取っていた」のである。
これが分かった途端、今まで映像としてしか認識できなかった周囲から、音が聞こえるようになり、物質の状態が分かるようになったのだ。
音というのは、空気の振動を耳の鼓膜が知覚して、電気信号として脳に送ることで認識するものである。宇宙空間で発生した音は、空気を振動させることがないので、耳にも届くことは当然ない。
しかし、私が認識しているのは、波動である。音という空気の振動ではなく、音という波動の情報なのである。
この音という波動の情報を受け取ることで、私の意識はそれを音という空気の振動に変換して、その情報を認識しているのだ。つまり擬似的に聞こえていると言っても良いかもしれない。
物質の状態も同様、物質が発する波動の情報を受け取ることで、その物質の状態を認識することができた。質感、重量、硬度、温度、様々な状態が手に取るように分かったのだ。もちろん実際に手に取っている訳ではない、やはり擬似的に触っているのだ。
ただ、残念ながら、嗅覚や味覚は物質の化学変化を受容感覚器感によって知覚するものであり、経験則によって判断する感覚であるためか、知覚する物質の状態変化は認識できても、それが芳香なのか悪臭なのか、美味しいのか不味いのか、それを判断することはできなかった。ただ見た目が臭そうとか不味そうというのは分かるけど。やはりこれも経験則と言うことになるのか。
いずれにしても、認識の範囲が格段に広がったことは、喜ばしいことである。特に音が認識できるようになったのはうれしい。ずっと無音の世界だったので、たとえそれが擬似的なものであったとしても、音を音として認識できていることに、感動すら覚えたのだ。
この認識の能力は、周囲から情報という波動を受け取ることで、私の意識がその情報を処理し認識できると言うことで間違いなさそうだが、この波動の情報というのが、実は様々あるようなのだ。
今までは映像のみの情報、つまり光の波動だけだった。そして、ここに来て聴覚や皮膚感覚を含めた、人間の八系統の感覚のうち、嗅覚と味覚以外の感覚を獲得したのだ。正確には嗅覚と味覚は判別できないだけで、知覚はしているのだけれど。
ちなみに「八系統の感覚」とは、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、皮膚感覚、自己受容感覚、平衡感覚、内臓感覚の八つを指す。
例えば、「自己受容感覚」とは運動感覚とも言われ、筋肉や間接などから得られる情報を元に自分の位置を感じ取り、障害物を無意識に避ける能力を指す。簡単に言えば反射神経であり、空間認識能力でもある。
この感覚が鋭敏になると、突然の訪問者を肌で感じたり、人の嘘を見抜いたりすることができるようになるのだ。これは周囲の微細な変化を敏感に察知しているだけに過ぎないのだが、まるで予知能力でもあるかのように見えることから、この自己受容感覚を「第六感」と呼んだりするのだ。
また「平衡感覚」とは自分の身体の向きを把握できる能力を指し、「内臓感覚」とは空腹や内臓の異常など、体内の状態を感じとる能力を指す。
ただ、今の私は惑星である。自己受容感覚の第六感の能力は有用であっても、反射神経や空間認識能力は別段必要ないし、平衡感覚は全天球認識の能力が常に発動しているので、今では完全におかしくなってしまっている。
内臓感覚と言ったって、惑星に内蔵なんてないし、強いて言うならマントルとか核が内蔵のようなものかもしれないが、これらの状態は肌感覚に頼るより、直接見に行けば分かる話なので、あまり有用な感覚とは思えないのだ。異常が発生した時には、すぐに分かるかもしれないが、癌とかできてもしばらくは分からないぐらいの感覚なのだから、あまり期待はしていない。
実は私が感じている波動は、この八系統の感覚以外にもあって、「エネルギーの波動」、「宇宙の波動」、「自然の波動」、「生命体の波動」が存在するのだ。他にも存在するのかもしれないが、今のところ私はこの四つを認識している。
「エネルギーの波動」とは、文字通り宇宙に存在するエネルギーが発する波動で、この波動からは、エネルギの流れやパターンを認識できたり、星が発するエネルギーや宇宙が持っている膨大なエネルギーの動きを把握できたりする。
実は、このエネルギーの波動は、認識し始めた当初から注目していた波動で、天照系内のエネルギーパターンが安定している時は、何も起こらないが、ひとたびこの波動に大きな変化が発生すると、惑星同士の衝突が起こるので、このエネルギーの波動には何か秘密があると思っているのだ。
更に、小さな変化によっても、小惑星同士の衝突であったり、彗星が横切っていったりと言うこともあるので、このエネルギーの波動の変化にはずっと注目していたのだ。
そして、あの冥走星が天照系を横切って火炎四兄弟を呑み込んだ時も、事前に、天照系内のエネルギーの波動が乱れに乱れていたので、惑星同士の衝突以上の何かが起こるのではないかと言う恐怖に苛まれ、様々な可能性を考えていた。
実際に冥走星が暴走を開始した時は、乱れていたエネルギーの波動に加え、膨大なエネルギーが発生し、更なる混乱を天照系内にもたらしたのだ。
この時、このエネルギーの波動がいかに重要か、私は身を以て知ったのだ。
「宇宙の波動」とは、宇宙全体から押し寄せてくる波動で、この波動には様々な情報が含まれており、天体や宇宙に存在する物質の状態が認識できるのだ。ただ、今はまだ理解できない情報も多く含まれていて、もしかしたらその中に宇宙の真理が隠されているかもしれないと、私は考えているのだ。
そう考える切っ掛けとなったのは、ここ天照系から数十光年は離れた場所にある、とある恒星が爆発し、それから暫くした後、その恒星の波動を受け取った時である。
それまでは、その恒星の状態を認識していたに過ぎなかったが、爆発し消滅したことで、その波動の情報が変化したのだ。
最初は消滅したことによる波動の変化だと思っていた。しかし、その変化に加え、その恒星自体の歴史のようなものを、まるで走馬灯のように感じたのだ。
そんなことを感じたのは、今のところそれ一回きりだが、もしかしたら、宇宙の波動には何かしら、宇宙の歴史のようなものが秘められていて、何か宇宙の真理を知る情報が隠されているのではないかと、推測しているのである。
もし、この波動が解明できたら、宇宙の誕生に関する謎が解けるかもしれないと思うと、俄然注目してしまうのだ。
「自然の波動」とは、自然界が発する波動で、火や水、大気や大地などの動きや、自然界の力や変化、状態を認識でき、惑星の環境変化や自然のバランスを把握することができるのだ。
天照系内の惑星で起こっている、地殻変動や大気の流れ、火山活動や海洋の流れなどを把握するのに非常に有用な波動なのだ。
桜雲星で起こっている地殻変動や火山活動など大きな変動が起こった時も、この波動が変化するお陰で、事前に何かが起こると言う予兆を知ることができたのだ。もう少し理解度を上げれば、何が起こるのかを事前に知ることができるようになるかもしれない。
「生命体の波動」とは、文字通り生命体が発する波動で、生命の存在や健康状態などを認識できるのだ。
今のところは、存在している生命体が単細胞の生命体ばかりなので、彼らの存在や健康状態と言った、基本的な情報しか波動として認識することができないのだが、
いずれ、彼らが考えていることや感情などを、波動として認識することができたら、どんなに素晴らしいことになるか、今から非常に楽しみなのである。
これらの波動をすべて把握できるようになれば、宇宙の真理に辿り着くことができるかもしれないし、波動にはそれだけの情報が含まれているような気がするのだ。この多様で複雑な宇宙から送られてくる情報である。ただの天体観測に必要な情報だけが、波動として存在するはずはない。
しかし、今の私が理解できるのは、この四種類の波動と、八系統の感覚の波動だけなのだ。
これらの波動も、何となくで分類したに過ぎないし、今の私にとって波動は波動でしかなく、波動に色がついている訳でも、名札がついている訳でもなく、波動から分かるのは、物質の状況や状態だけで、波動を受け取ってその情報を認識して、初めてそれが何の波動だったのか、出所が分かるに過ぎないのだ。
こんな私が、波動の変化や情報を知覚できたとしても、その意味を理解し認識するには、まだまだ経験が足らなすぎるし、情報や知識が不足しているのだ。
まずは、コツコツと周囲の波動を一つずつ認識し理解していく必要がある。
とにかく時間は億の単位で存在するのだ。じっくりと取り組んでいけば、いずれは宇宙の真理に辿り着けるかもしれない。
そんな夢を目標に、この認識能力の向上に努めていこうと、改めて誓ったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます