< 第二章 > - 喧嘩 -
私が桜雲星になってから、すでに数十億年の月日が経った。
小さな岩石だった私も、立派に惑星をやれるようになり、生物を
天照系の兄弟姉妹喧嘩はほぼ落ち着き、100個近くあった惑星は、すでに15個にまで減ってしまった。当初から名前をつらつら考えて付けていたけど、ほとんどが消滅してしまったのだ。
最初に名付けた恒星の「
神々の御名を拝借したり、宝石の名前を付けたり、色にちなんだ名前を付けたりと、結構気に入ったものもあったのだが、次から次へと衝突しては消えていくので、惑星に付けた名前のほとんどが、
少し寂しい話もあるが、これまで起こった惑星たちの兄弟姉妹喧嘩を、いくつか紹介しておこうと思う。
まずは、寂しい話よりも、新たな誕生の話からしようと思う。
桃双連星と同じように重連惑星となった二重惑星と三重惑星の話だ。
この重連惑星たちは、外縁部に近い氷惑星群に位置している。
氷惑星と言っても、水の氷だけではなく、他の物質、水素やヘリウム、メタンなどを主成分とした氷塊でもできていた。
元々、ガス惑星群から氷惑星群の辺りは、いわゆるスノーラインの外側になるため、岩石だけでなく氷塊やガス雲も公転していた。
この氷塊やガス雲が徐々に集まって成長し、惑星になったと言う経緯があり、天照に近い惑星はガス惑星になり、遠い惑星は氷惑星になったのだ。
ちなみにスノーラインとは水の気相と固相の境界線のことで、要は水蒸気で存在する領域と、氷で存在する領域の境界線のことである。スノーラインの外側とはすなわち氷の領域と言うことである。
大量にあった氷惑星群は、他の惑星たち同様、衝突を繰り返してドンドン数を減らし、いつしか巨大な氷惑星が5個にまで減っていた。
ここまでは、いつもの兄弟姉妹の喧嘩に過ぎなかったが、この巨大になった惑星同士が衝突した時はさすがに私も驚いた。
まず衝突したのが公転周回軌道の内側を回っていた二つの惑星だ。衝突の規模は、私が惑星とぶつかった時の比ではなかった。二つの惑星の大きさが私の三、四倍はある惑星同士で、互いにほぼ木っ端みじんになるほどの衝突だったのだ。その衝撃は想像以上だった。
これほどの大きな衝撃にもかかわらず、桃双連星ができた時のように、その場に留まり回転を始めたのだ。
重連惑星ができる条件の一つに、共通重心が連星を構成するすべての惑星から外れて宇宙空間に存在する、と言うのがある。
共通重心とは、惑星同士のバランスポイントで、要は重連惑星における回転の中心点である。
例えば、月と地球の関係は地球側に共通重心、つまり回転の中心点があるから地球が母惑星、月が衛星ということになる。
これを基準にすると、桜雲星の私と那岐、那美との関係は共通重心が私にあるので、私が母惑星で、那岐、那美は衛星になる。そして、桃双連星の桃太郎星と桃姫星の共通重心は宇宙空間にあるので、二重惑星、つまり重連惑星と言うことになる。
そして、この氷惑星群で発生した惑星同士の大規模衝突では、岩石や氷塊が回転を始め、やがて二つの大きな塊ができ、惑星の
この重連惑星の名前は、
ちなみにこの后羿と嫦娥は「
ある時后羿は十個有った太陽のうち九個を撃ち落としたため、天帝の怒りを買い、天界から追放され、神籍も剥奪され、不老不死でなくなってしまう。地上に落とされた后羿と嫦娥は、
「諸説あります」と括弧付けする話ではあるが、概ねこれが私の覚えている「嫦娥奔月」の物語である。
この二重惑星に中秋連星と名付けたのは、「嫦娥奔月」にちなんだのだが、新たに誕生した二つの惑星の色を見て、思いついたためでもある。
この二重惑星は、氷惑星にもかかわらず、恒星のような黄白色をした惑星と、氷惑星を体現しているような、冷酷な印象の銀白色をした惑星であった。そのため、黄白色の惑星を「
后羿は弓の名手でもあり、情熱的な人物像があるため、黄白色の惑星にぴったりだし、嫦娥は冷徹な裏切りを平気でするような人物像でもあるため、銀白色がぴったりだと思い、このように名付けたのだ。
また、連星名は、この夫婦に縁の名前を付けたいと思い、「奔月」とか「観月」とかも考えたけど、やはり「中秋」がしっくりきたので、「中秋連星」とした。
それと時を開けずして、いや数十年、もしくは数百年は経ったかもしれないけど、時間の感覚がおかしくなっていて、はっきりとは分からないが、とにかく、二重連星の外側を公転していた二つの巨大惑星も衝突し、三重連の惑星が誕生した。
衝突して残骸が回転を始めた時は、また双子惑星の誕生かなと思っていたら、なんと三重連星が誕生したのだから、驚きである。
この三重連星の名前は、道教の天上界の最高天「
なぜ道教かって?
別段深い意味はないけど、この惑星たちも神様の御名から拝借しようと思って、昔読んだ「封神演義(ほうしんえんぎ)」に出てくる
ちなみに、三清天とは道教における天界の名称で、道教の最高神格である、元始天尊、
従って、それぞれの惑星の名前は
こうして、二重惑星の中秋連星と三重惑星の清天連星が誕生した訳だが、氷惑星群にはもう一つ巨大な惑星があった。しかし、これが超迷惑な動きをしたのだ。
清天連星ができてから、暫くしたぐらいだったと思うが、元々楕円軌道を公転していたこの惑星、冥王星をもじって「
この冥走星の公転軌道は、楕円の長径が清天連星よりも外側に達し、短径はガス惑星群の紅輝星より内側までしか達していなかった。つまり、紅輝星の内側から清天連星の外側までを行ったり来たりする惑星だったのだ。まさに迷走しているように見えたのだ。
ところが、この冥走星がした超迷惑な動きと言うのが、公転軌道を外れ、天照星に向かって軌道を変えてしまったことなのだ。軌道が変わる予兆はあったのだろうが、私は見逃してしまった。
おそらく中秋連星と清天連星の誕生が冥走星の軌道を変えてしまった切っ掛けだったのだろうと思うし、さらに言えば、紅輝星の付近を通った時に徐々に軌道が変えられていたのかもしれない。
理由はともあれ、結局それは起こってしまった。紅輝星の軌道辺りまでは、いつもの通り迷走していると思って、異変にはまったく気がつかなかった。だが、冥走星が更に紅輝星の公転軌道の内側に向けて移動を始めた時、初めてその異変に気づいたのだ。
私の三、四倍はある惑星が天照系を横切ってくるのだ、彗星が横切るのとは訳が違う。まさに異常事態である。スノーラインを超えた辺りから地表の氷塊が融け、彗星のように巨大な尾を引き始めた。
巨大な惑星が尾を引きながら迫り来る様は、地獄の使者の到来を彷彿とさせ、恐怖を感じた。
幸い私自身は冥走星と衝突する位置にはいなかったので、大丈夫だった。
しかし、巻き添えを食ったのは、私が「火炎四兄弟」と名付けた、天照に一番近くを公転していた惑星たちで、
この四兄弟は、ちょうど冥走星が天照に向かう軌道上に並んでおり、外側の灼熱星、紅蓮星、炎熱星、猛炎星の順で呑み込まれてしまった。
その光景はあまりにも呆気なく、愕然としたが、私にはどうすることもできず、可愛らしく、気に入っていた四兄弟が一つずつ姿を消していくのをただ見守るしかなかった。その瞬間、寂しさと悲しみが私を包み込んだ。
そして最後には冥走星自身も天照に呑み込まれ、冥走星の暴走は終了したが、何度も惑星同士の衝突を見てきた私にとって、四惑星と次々に衝突した上で、更に天照に呑み込まれていった様は、まさにこの世の物とは思えない、地獄の様な恐怖を感じ、しばらくは言葉もなく呆然としていた。
他にも、岩石惑星の
蛇遊星のすぐ外側を公転していた、
ガス惑星群の一番外側を公転していた
こうして、百個近くあった惑星たちは十五個にまで減り、名前を付けていた惑星もあっという間にいくつかが消滅してしまった。
結構気に入っていたものもあったが、自然の摂理であれば仕方ない。彼らは選ばれなかった惑星たちだったのだから。
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