第9話

 そこには大小様々な鉄製の檻があり、沢山の動物達が閉じ込められていた。猿、猫、犬、蛇、その他見たこともない動物がやかましく鳴き声を上げていた。ここだけ見たら動物園のバックヤードのようだ。黒木は歩きながらかおるに説明を続けた。


「これらは皆食材です。生きたまま搬入し、ここで処理して調理します」


 黒木とかおるがそばを通ると、動物達はより一層騒いだ。もしかしたら助けを求めているのかもしれないとかおるは思った。部屋の奥にさらにドアがあり、黒木はそこへかおるを案内した。


「そしてこの部屋には『ソニー&ビーン』の目玉食材が保管されています」

 ドアを開けると、中には大きな檻が3つほどあった。かおるはこわごわ中を覗き込んだ。黒木は首を傾げて檻の中を見やった。

「おや、今日は少ないですね。この子だけですか」


 檻の中にいたのは小さな男の子だった。半袖半ズボンに裸足で体育座りをしている。黒木とかおるに気付くと、怯えた表情で檻の隅へ移動した。


「あの子も食材なんですか」

 かおるの問いに、黒木は当然だとばかりに答えた。

「ええ、そうです。子供の肉は柔らかくて美味しいので特に人気がありますよ。私も大好物です」

 そう言って黒木はふふふと笑った。口の端から唾液が溢れ、床に滴り落ちた。それに気付いて黒木は慌ててハンカチを取り出した。


「おっと失礼。お見苦しい所をお見せしました。そうだ、せっかくだから明日、水田さんが調理してみませんか」

「私が、ですか…」

かおるは複雑な表情を浮かべた。構わず黒木は話を進めた。

「ええ、どんな料理にするかは水田さんにお任せします。新人料理人の華々しいデビューにぴったりの食材じゃないですか」

 その時、かおるの脳裏にフレデリックの言葉が甦った。


道路で車に轢かれ、死んでしまった子うさぎを見てフレデリックは悲しげにこう言った。

『かおる、子供と母親は殺してはいけないよ。私達は森の恵みを頂いている立場だ。森の未来を奪ってはならないよ』


 かおるは胸の前で手をぎゅっと握りしめた。


「さあ、そろそろ出ましょう。料理長と明日のメニューについて打ち合わせをしなくては」

 黒木に促され、かおるは後ろ髪を引かれる思いで部屋を後にした。扉を閉めるとき、子供が母親を呼びながらすすり泣く声が聞こえた。だが黒木は気にも留めない様子でドアを閉めた。

 

先をゆく黒木の少し後ろを歩きながら、かおるはフレデリックの教えや昔駆け巡った森のことを思い出し、今自分が何をするべきかと自分自身に問い掛けた。


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