恋人らしい行為
恋人になってしまった。
帰り道、亮介と草鹿華子は歩いていた。亮介は顔を俯かせていた。草鹿華子は周囲に視線を巡らせ、頬を緩ませていた。その表情を見るとゾッとする。
亮介の告白に対して即答で返してみせた。愕然とする亮介はある種の振り切りを覚えた。この際、一ヶ月の間乗り切ってみせよう。それが罰ゲームだろう、と。
そこで亮介はある提案をした。草鹿華子に対して、こう言ったのだ。
――俺たちが付き合ってるのは周りには秘密にしよう。どうせ、馬鹿騒ぎする連中がいるだろうから
草鹿華子は素直に頷いた。
二人の間に会話はなかった。沈黙が漂っている。いったい、何を話せばいいのだろうか。亮介は草鹿華子について何も知らなかった。二人の中で、恋人らしい振る舞いをする想像ができなかった。
「……なあ、草鹿」
「は、はい」
草鹿華子は返事をする。
すぅっと姿勢が良くなる。緊張で身体がガチガチと震えているのが見てわかった。
「お前、趣味とかあるの?」
「趣味――……、」
亮介は自分で口にした質問に虫唾が走った。何が趣味だ。合コンかよ、と。――それも、この質問の有意義が見いだせない。無意味だ。まったくの意図がない。趣味という、主観的で、曖昧な質問は、ある意味、何か面白いことを言ってよ、に同等する質問だった。草鹿華子にする質問には適さない。
しかし、草鹿華子はわずかなタイムラグのあと、答えを返した。
「花が、好きです。栽培なんか、してて」
――似合わねぇ、と亮介は思う。表面的には顔に出すことはせず、質問を重ねる。
「へえ、何を育ててるんだ?」
「今は、アイビーというのです。育てるのが簡単なんです」
自分の趣味の話のおかげか、草鹿華子の言葉はやや軽やかだったら、しだいに、亮介は会話自体の違和感を無くしていった。だからといって、草鹿華子と関わったことで、彼女自身の捉え方が変化したこともなかったが。
「あの、館崎君」
「ん?」
「わたしからも、質問いい?」
潤むような瞳に亮介は身体の芯が冷えていくのを感じた。
「恋人って、その。どういうことを、するんだろう? わ、わたし。経験がなくて……」
――だろうな。
「まあ、俺たちなりの進め方でいいんじゃないか? 型にはめるってのも、なんか変だろ?」
ここは素直に答えておく。無理に綺麗事を口にするのも不自然だ。亮介はあくまでも、この恋人関係を一ヶ月間続けなければならない。もちろん、これはただの意地だ。自分の罰ゲームを途中で放棄するような真似をしたくないだけ。
亮介には何度か交際経験があった。これでも、亮介は異性から
「そっか……」
草鹿華子は納得したように頷き。
「……えっと、じゃあ。その、えっちなこと、とかする?」
「――しねえよッ」
距離の詰め方がバグっていた。思わぬ本音に草鹿華子は顔を赤くした。誰得な反応だ、と吐き捨てそうになる台詞を飲み込む。
「……え、あと。じゃあ。その」
亮介は真剣な表情を作りながら答えた。
「とりあえず、デートするか」
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