第48話 登城する

 馬車に揺られ、二人で王都に向かう。

 ガランドに向かった時とは違い、王都に向かう道はどんどん雪がなくなり、華やかになっていく。


 あの日が、凄く遠くに感じる。

 久しぶりの王都は、少しも懐かしくなかった。


 きらびやかな雰囲気に、たくさんの人。

 でも、偏見と欲望で満ちている。


 クーレルはガランドに置いてきた。

 一緒に居た方が心強かったけれど、ガランドの優しさになれたクーレルを、二度と偏見の目にさらしたくなかった。


 セオドアの王都での別邸にて準備をすませる。お互いに久しぶりに見る正装に、思わずため息が漏れる。


 セオドアの整った容姿が引き立ち、気品を感じる。

 ガランドでは少し粗暴な騎士に見えるのに、こうしてみると高位の貴族で全く違和感がない。不思議だ。


「……ガランドでは絶対に見られないけれど、正装も素敵ね」


「嬉しいよ、マリーシャが望むならいつ着てもいいけどな」


「いつものあなたのが素敵よ。当然ね」


「マリーシャも、可愛いと思う。とても似合っている」


 二人の装飾品はお互いの色にしている。並ぶとお揃いだとすぐにわかる。

 この日の為に急いで用意したものだが、どれも本当に素敵だ。


「そうね。これからのことを考えれば、似合っているほうが助かるわ」


「……そういう意味じゃない」


「ふふ。知っているわ。私たちって、お似合いの二人だと思うの」


「マリーシャは、俺を振り回して楽しんでいるだろう……」


 そんな雑談をしながら、城に向かう。


 そうしてついた城に入って早々、嫌な人と会ってしまった。

 王太子らしい正装がとてもよく似合っている、ハインリヒだ。


 しばらく会っていなかったが、少年らしい可愛らしさ抜けて大人っぽくなっている。代わりに油断ならない緊張感と、威圧感が出ている。


 セオドアへの敵意が表に出ている結果かもしれない。


 セオドアの兄だと知って見ても、髪の毛の色も瞳の色も違うし似ているところがない。

 これは気が付かれないはずだ。


「これは、良く来てくれたガランド公爵、マリーシャ嬢」


 人当たりのよさそうな笑顔を見せ、出迎えてくれる。しかし、目の奥が笑っていない。


 ……あの時はハインリヒに嫌われることがあんなに怖かったのに、今はただ、この男の小ささに驚くだけだ。


 こちらもきちんと挨拶をかえすと、にこやかな笑顔は崩さぬままにハインリヒが言い放った。


「こんな魔術も使えない女と結婚するとはな。ガランド公爵は見る目がない」


「ハインリヒ殿下、言葉をお控えください。私の妻は、素晴らしい女性です。ガランド夫人とお呼びください」


「似た者同士の二人だ、仕方がない。……私はそんな女と結婚しなくて良かったよ」


「私も、殿下が婚約者を変えたおかげで彼女と結婚することが出来ました。感謝しています」


「まあ、君にはお似合いだと思う。結婚おめでとう。結婚式はこれからかな? 魔術が使えない花嫁だなんて皆に笑われないといいんだが」


「当然、そのような事は起こりません。私がさせませんから」


 セオドアの言葉に、ハインリヒは馬鹿にしたように笑っただけだった。そのまま、準備があると立ち去った。

 いくらなんでも失礼だとむっとする。


「……大人しくしていてくれお姫様」


「失礼ね。私はいつでも大人しいわよ」


 くくっとセオドアが笑う。


「あんな大活躍を見せられていつでも大人しいとは」


「あれはあれよ」


「俺は惚れ直したけどな」


 こそりと言ってくるセオドアに笑ってしまう。二人で笑いあっていると、去ったと思っていたハインリヒが憎々し気にこちらを振り返った。


「戦争で功績をあげたからって、いい気なものだな。そんな風にしていられるのも、今のうちだけだ」


「……今のうちだけ、というのには同感ですねハインリヒ殿下」


 セオドアはにやりと笑い、まっすぐにハインリヒを見た。

 言い返されるとは思わなかったのか、ハインリヒは怯みその視線から逃れるように、まあいい、と吐き捨て今度こそ足早に離れていった。


 今度はしっかりと姿が見えなくなったのを確認して、セオドアを小突いた。


「ほんとに失礼ですよね。結局セオドア様もやり返してましたね」


「……そうだな。いつも彼の前に立つと、荒んだ気持ちになっていた。でも、全くそんな事は感じず、初めて対等だと思えた。今日はマリーシャが居てくれて良かったよ」


「対等じゃなくてあなたが上よ、セオドア」


「全くマリーシャは、俺びいきだな」


「そうよ。でもお城の中では口調は気を付けてね、私の旦那様」


「もちろんです、私のお姫様」

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