第47話 戦いの終わり
そうして、次の日の夜。
私達は迷彩の魔法を使ってフィニララと三人で敵陣へ乗り込んだ。
ラジュールは二人共に何かあったら困ると反対していたが、強い順に選んだと聞けば黙るしかなかった。
悔しそうに執務を進めておくと言った彼に、笑ってしまったのは秘密だ。
「……これって、冗談みたいだな」
「本当だよセオドア様……本当につよつよすぎだよマリーシャ様」
二人の呟きに、私は楽しくなってしまう。
迷彩の魔術を使える人は私以外に居なかった。
膨大な魔力と技術が必要だからだ。
しかし、対策はある程度の技術者が居れば出来た。だから前世でも簡単には忍び込むことはできなかった。
それをこの国は誰にも引き継いでいなかった。
迷彩に対する警戒がゼロで、あまりにも簡単に敵陣の中心にまでくることができた。
まずは偵察だと思っていたが、このまま乗り込んで問題がなさそうだ。
……戦場だって意気込んできたのに、本当に冗談のようだ。
そう困惑する想いはあるが、誰も怪我をしない、ということは純粋に嬉しい。
「私は最強だって言ったでしょ。この魔術で後は好きに動けるわ。……ああ酷い、こっちも無警戒ね」
私はそう言って、眠りの魔術を一帯にかけた。何故こんなに魔術が退化してしまったのか。
ふわりと優しい光が辺り一面に広がり、敵国の領主の屋敷は静まり返った。
「……俺だって、攻撃魔術なら負けてない。見せられていないだけだ」
「私だって物理攻撃はつよつよだよ! 機会があれば!」
二人とも悔しそうに対抗してくるから、さらに笑ってしまう。前世では誰も私に対抗しようだなんて言わなかったから。
「今度、特訓しましょう。多分、難しいけれどね」
「受けて立とう。魔術のセンスには自信がある。色々やられてきた分、小技も得意だ」
セオドアが謎の自虐を交えて笑う。
「ううう。私も魔術使えるんだよ! 簡単なやつなら! どうして魔術って頭の良さが必要なの……」
フィニララはどうやら魔術が苦手なようだ。確かに魔術は基礎知識がしっかり入っていないと厳しい。
……簡単で役に立ちそうなものを教えてあげよう。
「でもどうして迷彩にも催眠にも警戒心がないのかしら」
先程から疑問に思っていた事を口にする。
「マリーシャも前世を思い出すまでの記憶でわかるんじゃないか? 使い手がいない」
「それは……確かにそうだわ。でも、前世ではそれに対抗する技術はあったわ。それはそこまで難しいものではなかったはずよ」
「それは、使い手が居ないからだ」
きっぱりと言ったセオドアの言葉に、首を傾げる。わかっていなそうな私に気が付いたのか、セオドアがくすりと笑う。
「前世の君が活躍していた時代は君が居た。それこそ君への対策が練られただろう。……そして居なくなって、それから君のような存在はいなかった。警戒心だってなくなる」
「ああ、そうね……」
あれから沢山の時間が流れたのだ。
「ガランドにとって、とても幸運だ。君が居ること自体がもう幸運ではあるが。さあ、マリーシャに感謝して証拠をつかもう。その後は……勝利と呼ぶのが憚られる戦いになるな」
「……相手が無抵抗でも意識がなくても、勝利は勝利よ! じゃあとりあえず、偉そうな人から捕まえていきましょう」
「それは私がやる! ロープをいっぱい持ってきた! 魔導具のやつ」
フィニララが活躍の場を奪われまいと、体に巻き付けたロープをもってアピールしてくる。
「じゃあ、手分けしましょう」
「わかった。どんどん行こう。……これで、ガランドは平和になるかもしれないな。ありがとうマリーシャ」
セオドアは嬉しそうに微笑んで、私の頬にキスをした。
「もう、二人ともいちゃいちゃしないで!」
「し、してないわ」
「ああ、ついしてしまうんだよな」
「ガランドは戦争がなくったって魔物はいるんだからね! 忘れちゃだめだよ!」
「も、もちろん覚えているわ。そっちも対策を練っていくから。……もう、セオドアも、どこに書類が入っているか見て」
毛を逆立てるフィニララに、私とセオドアは慌てて証拠を探しに走った。
探し放題だけれど、領主をやっているセオドアの方が隠し場所を見つけるのに上手いだろう。
……ラジュールも連れてきたら役に立てたかもしれない。
こんな平和な戦争、有りえなくて笑ってしまう。
日が明けて、眠りの魔術から起きた敵国の領主であるバロウズ辺境伯は状況を知って呆然としていた。しかし、私達を前に、もう逆らおうとしなかった。
「信じられない……これが、現実だなんて……」
「それは、申し訳ないが俺もだ。さぁ、この長い戦いの結末について、話し合おう」
*****
私達の功績は、すぐに王に伝えられた。
長年のガランドでの戦いが終結しただとは俄かには信じられなかっただろう。調査団が来て、捕らえられた敵国の主要人物を見て驚きと共に帰っていった。
……私に対する畏怖の顔を久しぶりに見た。
だけどそれが悲しくなくて、なんだか可笑しかった。
セオドアは私に手紙を見せる。見覚えのある封蝋は、王家のものだ。
「陛下から呼ばれた。この戦争を終えた功績をたたえる為に、パーティが開かれるそうだ」
「わぁセオドア様の功績が認められて嬉しいです」
「……言っておくが、二人の功績だから」
「私、皆に魔術が使えるっていうの嫌なんですけど」
「それは仕方がない。いずれにせよばれるんだ」
「まあそうですね。これから提出していない証拠を出すんだからわかってたわ。……ふふ、楽しみね」
「俺もだ。こんな日が来るとはな。登城が楽しみなんて」
二人、証拠の書類をまとめながら微笑みあった。収穫はたくさんあった。
「……ちょっとお二人、怖いですよ」
ラジュールの呟きは聞かなかったことにした。
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