第45話 セオドアが好き
セオドアはそう言ってさっとベッドから起き上がり、私の手をとった。
力強く安定感のある彼の手を握ると、それだけで嬉しくなる。
「ありがとう。ふふ。とびきりの美味しいお茶をお願いね」
「きっとクーレルが張り切って淹れてくれる。あと、これを」
サイドテーブルから取り出し気軽な感じに手渡されたのは、もこもこしたうさぎの形をしたぬいぐるみだった。
「えっ、なぁにこれ。……あれ、この子フィニララにちょっと似てる」
「それはそうだ。あいつの毛で作ってある。獣人の間では親の抜け毛で子供にぬいぐるみを作る習慣があるらしい」
「私は彼女の子供じゃないわよ。でも、可愛い。いい習慣ね、これすごく嬉しい……」
ぴよっとした耳が可愛い。小さいフィニララのようだ。
初めて聞いた習慣だったけれど、ぬいぐるみは手に馴染んでもふもふとした毛を撫でていると安心感がある。
こんな素敵な贈り物をもらえるとは思ってもみなかった。
これから話そうとしていることに、勇気がもらえる。
「マリーシャがフィニララの毛を気に入っているっぽいから、フィニララが作ったらしい。貰っておいてくれ」
「そうなのよ、すっかり彼女のもふもふにやられているのよね……。これも本人の毛だからか撫でると気持ちいいわ。何かお礼をしなくちゃ」
「そんなに喜ばれるとそれはそれで複雑だな。俺の毛で人形でも作るか?」
馬鹿なことを言いながら、セオドアはクーレルを呼びお茶を用意してもらった。
どさくさに紛れてブルーベリーチーズパイと焼き菓子も用意されてる。
セオドアの部屋にあるソファはふわふわしてゆったりする。両手でカップを持つと、いつの間にか手が冷え切っていた事に気が付いた。
温かいお茶を飲むと、心が落ち着く。
馴染みのある香りだ。
「これ、私が好きなお茶だわ」
「俺は初めて飲む味だ。癖があるがいい香りだ」
セオドアが飲んだことがないということは、これはクーレルがガランドに持ってきてくれたものだろう。
ぬいぐるみにお茶。
それに、セオドア。
優しさに勇気を得て、私はどこから話すのがいいのか考える。
「あなたと初めて会った日のこと覚えている?」
「それはもちろん」
「……あの日、緊急警戒音がなったわ」
「そうだ。俺が公爵と領地を賜る為に、どうしても登城しなければいけなくなった。ハインリヒ殿下も焦っていたんだろうな。このタイミングで俺のことを狙った」
「……あなたが脅威になると思ったのね」
「そうだ。望んでもいないのに公爵になってしまい、貴族の中でも俺を推す声が産まれたんだ。彼は王太子になっただけでは不満らしい。……権力争いが嫌でガランドに来たのにな」
「出会えてよかったわ」
「ああ、マリーシャは俺の聖女だ」
「そうね……。私には確かに聖女だと呼ばれるような力があると思うわ。呪いも解けるし、回復魔術も使えるし、回復魔術から派生した攻撃魔術も使えるわ。それに、結界も得意だし天気だって変えられる」
「なんだそれは、万能じゃないか」
「もう、茶化さないでよ。これから話すことは、荒唐無稽の話だとは思うけれど、信じてくれる?」
「もちろんだ」
セオドアは私のことを、よいしょ、と移動させると後ろから抱き込んだ。
大きな体に包まれて背中があったかくなり、穏やかな気持ちになる。私は彼に寄りかかると、目をつむった。
そして、あの日思い出した、前世の話を話した。
聖女になったこと、戦争に何度も参加したこと、国が勝利したこと。
孤児だったけれど、家族のように大事に思っていた事……そして、私が持つ強大な力のせいで、計画的に殺されたこと。
セオドアは、黙って聞いていた。
「これが全部よ」
「……マリーシャ。俺が家族だ。今回はそんなことは起きないし、起こさせない」
セオドアの声は悔しそうに震えていた。
「前世の話なんて、信じてくれるの?」
「もちろんだ。ただ、今回俺のせいで君をひどい目にあわせそうになった。……もし、もし君がここから離れたいのであれば、俺は手助けを惜しまない」
ひどい目にったのはセオドアなのに、まるで私が大怪我をしたかのように謝ってくれる。
背中にセオドアのおでこがくっついている。
ぎゅうぎゅうと押し付けられたそれで、セオドアがその言葉を言うことにかなり葛藤したことが窺えた。
そのことが、必要とされていると感じて嬉しく感じる。
「私が臆病すぎて、あなたを死なせてしまいそうになったのに?」
「そんな事は、気にしないでくれ。……あの時も君のせいじゃないと言ったはずだ。今聞いた話を聞いて余計思ったよ。そんな思いをしていたのに、俺を信じて、助けてくれて、ありがとう」
「……そんな風に言ってくれるのは、あなたぐらいよ」
「そんな事はない。皆君の事が大好きだし、フィニララもどうしたのかって思うぐらい君になついている。人形を渡すほどに。ラジュールも、執務ができる君に心酔しているよ。……それでも、君がここを出たいというのなら、気にしないでくれ」
言葉を選んで、優しさしかない彼の言葉に私は満面の笑みで答えた。
「ありがとう。でも、せっかく結婚したんだもの。ここにいるわ」
「そうか。……ああもう、良かった!」
セオドアは私の事を抱きしめて、再び顔をうずめた。私は立ち上がって、セオドアの隣に座りなおした。
セオドアはまだ下を向いていたので、そっと近づいて頬にキスを落とした。
「うわ」
「私は、セオドア様のことが好きよ」
※※
40話で設定間違いして1日2話投稿してしまっていました。
PV見ていて、飛ばしてよんでしまっている方がいそうです…すいません。
確認してもらえると嬉しいです!
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