第29話 ガランドの街並み
「マリーシャ様、このドレスはセオドアさまが用意してくれたものです! お礼を言ってください」
耳がピンとたち尻尾も上を向いて全身でご機嫌を現わしているクーレルに、笑ってしまいそうになる。
「そうだったのね、教えてくれてありがとう。お揃いだわ」
「そうなんです! しかも凄く可愛いです! こんなの着たことないです」
クーレルが着せてくれたドレスは、街の中で浮かない程度に簡素だ。私にはグリーンでクーレルにはピンクで、デザインはお揃いになっている。
彼女と着て並んでいると姉義妹のように見えるかもしれないと、嬉しい。
クーレルと腕を組んで、部屋まで迎えに来たセオドアに見せる。
「私たち、姉義妹のように見えますか?」
セオドアはパチパチと目を瞬いた。
「……可愛いな」
「そうでしょう! クーレルもお似合いだし、とっても色が素敵。ありがとうございます」
「わわわ。マリーシャ様と姉義妹だなんて恐れ多いです……!」
「それだと、私が怖い人みたいじゃない」
「そんなことは……違います……!」
「マリーシャ、クーレルが怖がってるぞ」
「怖がってません! もう、セオドア様もマリーシャ様もやめてくださいー」
涙目になって慌てているクーレルが可愛くてついからかってしまった。
「ごめんごめん。今日は美味しいもの沢山食べましょう!」
私が頭をなでて言うと、途端に嬉しそうに笑ってくれた。
「ブルーベリーチーズパイだな」
セオドアが分かったような顔で頷いている。
「なんのチョイスですかそれは。クーレルが好きなのはお肉ですけど」
「お肉大好きです」
クーレルの言葉に頷きながらも、セオドアは秘密を教えるように声を潜めた。
「肉は確かに美味しいが……知っていたか? ここガランドの名物はブルーベリーチーズパイだ」
「知らなかったです。ガランドと言えば圧倒的な魔鉱石の埋蔵量としか聞いたことがなくて」
「魔鉱石も確かにそうだけどな。……ブルーベリーチーズパイは美味しい。名物にしたい」
「まさかのあなたの希望だったのね」
「ブルーベリーは寒いところでも育つし、名産なのは噓じゃない。……戦争が終われば、ここには色々な人が来るだろう」
「……願望」
「ここはいい場所だからきっと観光地になる。……それを今日、一緒に見に行こう」
夢見るように言うセオドアが手を差しのべてきて、私は自分の手を重ねた。
*****
雪の中だと思っていたガランドの街は、王都に比べると広さはないものの思っていた以上の賑わいだった。
道の雪はきちんと溶かされ、ガラス張りの商店が立ち並んでいる。寒い中露店もあり、新鮮そうな魚や肉が並んでいる。
歩いている人も多く、かなり着込んでいる人間やラフな格好をした獣人など様々だ。獣人は毛皮があるから寒さを感じにくいのだろうか。
人々の嬉しそうな声や、笑い声が多く聞こえてくる。
獣人と人間の子供が、頬を赤くしながら一緒になって走っている。
「本当に獣人が多いのね。しかもとても自然に」
歩いている獣人は、クーレルのようにぱっと見では獣人だとわからないものから、ほぼ二足歩行の動物という見た目までいる。こんなに幅があるとは知らなかった。
王都では獣人は見たことがクーレル以外見たことがなかったので、不思議な感じだ。
寒い土地だからか毛がふわふわしている獣人が多いような気がする。
「獣人って……もふもふですね」
「そうだな。かなりさわり心地がいい奴もいる」
「ううう。なんだかとっても触りたくなりますわ」
「マリーシャ様……! 私はさわり心地は良くないですが、捨てないでください!」
クーレルは特に毛が多いわけではないし、肩までの白い髪の毛は硬めでもふもふ感はない。でもそれが彼女らしいと感じる。
「当り前じゃない。クーレルはクーレルっていうだけで可愛いわ」
「君たちは仲良しだな」
「それはそうよ。……あの家でずっと二人で生き抜いてきたんだから」
私は一人で生きていくと決めたけれど、もちろんクーレルは別だ。もし離れても、心から彼女の幸せを願っている。
「じゃあ、俺も張り切って二人のお嬢様をもてなさないとだ」
セオドアがクーレルの事も私に対してと同じようにもてなす気があるとわかって、私は暖かい気持ちで頷いた。
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