第19話 セオドアとのデート
次の日、約束通りセオドアはやってきた。
「マリーシャ、大丈夫だったか? 昨日は君の家族にはいい話じゃなかったはずだ」
機嫌の悪そうな家族に見送られながら馬車に乗り、やっとひと息をつくと、セオドアは心配そうに私を見た。
ラジュールは御者の隣にのっている為、ふたりきりだ。
「大丈夫です。……まあ、いつも通りと言えばいつも通りなので」
「それは全然良くない話じゃないか! しっかりしてくれマリーシャ」
「しっかりしてますけど……。セオドア様こそ、あんなに強引に婚約を進めるだなんてびっくりしました」
私に生活能力はないが、他は別にしっかりとしていると思う。
魔術だってかなり使える。
首を傾げた私に、セオドアはため息をついた。
「君はとても危なっかしいよ。……それに、心配だったんだ」
「心配ですか?」
「そうだ。あの後マリーシャの事を調べたら、婚約破棄はハインリヒ殿下とだし、変な貴族と結婚させられそうだし……心配を通り越して胃が痛くなったぞ」
「あわわ。ご心配をおかけしました」
「ああ。侯爵家のご令嬢とは思えない程凄い安い値段で売られるところだったんだ。しっかりしてくれ」
「安いと面と向かって言われると、それはそれでなんだか……」
「それは悪かった。でも良かったよ金で済む問題で」
「……セオドア様が止めてくれたんですね。ありがとうございます」
頭を下げると、ふとセオドアが私の髪をひと房とった。
「綺麗な髪の毛だ……うーん、魔力量は、本当に凄いな」
じっと髪を見るセオドアにハインリヒを思い出してしまい、ぞわりとする。
私の髪の毛は地味な赤でくるくるしていて、決して見目がいいとは言えない。
髪の毛には魔力が宿る。その人の魔力の総量が多ければ、それだけ髪の毛にも魔力を感じるのだ。
……セオドアも、ハインリヒのように魔力に魅力を感じるのかも。
私を通して、別の何かを見ているのだろうか。
「……セオドア様も、魔力がある髪は美しいと思いますか?」
勇気を出して必死に声が震えないよう聞くと、セオドアは首を傾げた。
「別に魔力と髪の美しさは関係ないだろう。それに、魔力量の話なら俺といい勝負だと思うけど」
「えっ」
私はびっくりして飛びつくようにセオドアの髪を掴んだ。
ブルーグレーの髪の毛はなみなみと魔力を湛えている。
「本当だ……! えっ、多すぎません?」
「魔術が使えれば俺は最強なんだぞ」
偉そうに胸を張るセオドアの髪を、信じられなくて何度も触ってしまう。私といい勝負というのは本当で、下手すればセオドアの方が多いぐらいだ。
前世でもこんなに多い人いなかったのに……!
なんだかとても悔しい。
「こらこら、髪を触るのはいいがそんな風な体勢じゃ危ないぞ」
呆れたように言われ、セオドアに抱き着くように髪を触っていたことに気が付いた。
「わわわわ! ごめんなさい! ……っ」
慌てて座ろうとして、今度は体勢を崩してしまう。
「ああもう、しっかりしてくれ……」
セオドアが私の背中に手をまわし、しっかりと抱きかかえてくれる。
私は恥ずかしくなり、慌ててセオドアの隣に座りすました顔を作った。
「大丈夫です」
「大丈夫だったのは俺がさっと動いたからだ。それにあの体勢は俺が大丈夫じゃない」
くすくすと笑われ、せっかく作ったすまし顔が崩れてしまう。
「ちょっとびっくりしてしまって……すいませんでした」
「しゅんとしなくていいけど、俺以外にはしないように」
「セオドア様にももうしません!」
「俺にはいくらでもしてくれていいんだけどな、残念だ」
セオドアは楽しそうに笑いながら、がっかりした仕草をする。
「……前会った時も思いましたけど、セオドア様は貴族っぽくない口調ですよね。公爵として問題ないのでしょうか」
「いつもこれだったら問題あるだろ。ずっと戦場に居たからな。昨日見た通り貴族っぽい喋り方もできなくはないけど、自分的にも違和感が凄い。できたら私的な時間はこのままでいたい。マリーシャはこの口調だと嫌か?」
「……嫌なわけじゃないですけど」
じっと見つめられ聞かれると答えにくい。セオドアの口調は気軽で、前世の仲間たちを思い出して懐かしくもなる。
それに、今、私に気軽に話しかけてくれる人など誰も居ない。
……私の前世の仲間であった彼らはどうなったのだろう。彼らの中のどれぐらいが、殿下が私の事を殺した事を知っていたのだろう。
「何を考えてるんだ……?」
「あ……なんでもありません」
「つらそうに見えたから。大丈夫ならいい」
「今は大丈夫です。……ええと、父を脅していたように見えたのですが、セオドア様と父はどういった関係なのですか……」
「今は知らなくていい」
セオドアに優しく微笑まれながらもきっぱりと拒否されて、私はセオドアには話してもらえると思っていたことに気が付いた。
「……マリーシャ、違う」
「違う?」
「そうだ。答えないのは君に心を開いていないからではない。今は、まだ教える必要がないだけだからだ。言えば君を無駄に危険にさらす可能性もあるから」
困ったように眉を下げ、セオドアが諭すように私の肩を撫でた。
「……顔に出てました?」
「出てた」
これでも貴族令嬢であるのに、そんなにばればれだったとは。
でも、セオドアが私の気持ちに寄り添ってくれたことが嬉しくて、自然と笑みが浮かんだ。
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