資料10ー第5話
レスターと一緒に二時間ほど屋敷の中、そしてコンピュータの中を探したが、パスワードのヒントになりそうなものは見つからなかった。
ただ、コンピュータの中には論文やジャーナルが整頓されずに様々なフォルダに入れられていた。もしかすると、この置き方に何か意味があるのかもしれない。オレはフォルダの配置を端末にメモし、あとは自室で考えることにした。
時刻は〇時を過ぎていた。
ファイルの種類ごとに分けてディレクトリの配置を線で結んでみると、どれも角錐になることがわかった。すなわち、一番上のフォルダに一つだけファイルがあり、下の階層のフォルダにそれぞれファイルが入っている、という配置になっていた。しかも、それぞれ形が違うと来た。これは、何か規則性があるのではないか。まるでウエサワから考えろと言われているようだった。
ドアをノックする音が聞こえる。オレは慌てて電気を消した。
こんな夜更けに誰だろう。何の警戒もせずに扉を開けると——
扉の奥から得体のしれない存在・概念——それよりももっと抽象的な〝何か〟を感じた。
思わず後ろへ飛び退く。
直後、床に穴が穿たれた!
尻もちをつき、後退りする。扉はまるでホラーゲームのようにギィと開き、黒い影が
のそ、のそ、と部屋に入ってきた。
黒い影は人の形をしていたが、周囲には六本の触手が蠢いており、今にも襲いかかってきそうだった。
オレは息をすることすら忘れて必死に後退りした。目の前の黒い影から距離をとりながら作戦を考えるが、距離は縮まってきている。
ヤバイ。急がないと!
そのとき、廊下を駆ける音が聞こえた。足音には黒い影も気づいたようだ。黒い影が振り向いた瞬間、ドンッと誰かが黒い影に体当たりをした。
「チッ——」
黒い影は舌打ちをすると、体当たりしてきた人を俺の前に向かって投げ飛ばした。
「うッ……」
うめき声で誰だかわかった。
「ソヒか?」
目が暗闇に慣れてきて、周囲の様子を把握できるようになった。目の前に転がるのは間違いなくフードを被ったイ・ソヒだった。少女はグローブを手に嵌めながら起き上がる。
「イアンは、ボクが……守る」
彼女が起き上がった瞬間、黒い影の触手が彼女の頭部をめがけて飛んできた。
あぶない、と言う前に触手は彼女の頭を貫こうとして————
眩い光とともに弾き返された。
触手は次々とイ・ソヒを襲った。しかし、当たるたびに彼女から眩い光が放たれる。
いったい何が起きているのかさっぱりわからなかった。わからなくて、どう行動すればいいのかわからない。
別の部屋から銃声が聞こえる。銃声は一発や二発ではなく、マシンガンを連射しているような音だった。
「イアン殿、ご無事ですか?」
部屋の入り口から声が聞こえた。この声は————
イ・ソヒを攻撃していた黒い影がオレの頭上を飛び越えていく。オレは身を縮こませる。
やがて窓ガラスが割れる音がして辺りは静かになった。
「イアン殿!」
顔を上げると、ティアーナが心配そうな面持ちでオレのことを見ていた。
「お怪我は? どこか痛いところは?」
いつの間にか銃声も止んでおり、彼女の声がクリアに聞こえる。オレは首を横に振ると、しばらくして気がついた。
「ソヒは……」
起き上がると、ティアーナの奥に座るイ・ソヒを見つける。彼女のマスクは引き裂かれ、パーカーも傷だらけだった。でも、彼女の体に傷はない。
初めて見るピンク色の唇が微笑む。
「ヘヘ……ボク、頑張ったよ。勇気百倍のヒーローに、なっ……たん……だ……」
言葉の途中で目を閉じて、彼女は倒れた。ティアーナは彼女の脈を測ろうと首元に触ろうとする。
「や、やめてください!」
身を乗り出して彼女の行為を止める。
「か、彼女は、その、人に触られることにトラウマがあるようで……。疲れて寝てるだけみたいなので、ひとまずはそっとしておきましょう」
ティアーナは寝息をたてるイ・ソヒの顔を見ると、
「其方が言うなら構いません」と言って立ち上がった。
「では、場所を移しましょう」
「場所を移す?」
部屋の出口に向かったティアーナは振り返った。
「もう一人の被害者の場所に」
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