第8話 みんなの集まるお正月
我が家は帰る田舎もなくて、お正月と言っても何処行く当てもなくみんな家の中でゴロゴロしていた。冬休みの間に田代さんが学校で声をかけてくれて、絵の上手な小林さん。征子の友達のかわったCDをいっぱい持っているという小夜子の四人。わたしを入れて今回の合宿は五人になった。初めに描いたように私と征子の他は、他のクラスの子で、何だかこの計画はうまくいきそうな予感がしてみんな張り切っていた。
「おじゃましまーす」
「舞子、話には聞いてたけど、ほんと、大きな家ね」
「実依子の部屋は使ってないからそこをみんなで使って」
「ああ!」
ソファーには、起きたばかりの勇次兄さんが、パジャマ姿でボケッとくつろいでいて、みんなに見られてあたふたと居ずまいを正していた。
…そうよどんなに騒がれてたって家じゃあこんなもんなのよー。っと思っても、みんなはアイドルと思い込んでいるので、どうしてもひいきめにみて興奮している。存在が大事なの?格好じゃない見たい。
そこへ、極めつけに愛子姉さんがお茶を運んできたもんだから、一同騒然となり、めまいをおこしそうな征子があいさつをした。
「こ、こんにちわ。お世話になります」
「どうぞ、ゆっくりしていってね」
にこやかなお姉ちゃんの笑みは、妹が見てもきれいでみんなが見とれるのも無理はない。兄貴といい、お姉ちゃんといい、家での合宿は刺激的過ぎて、これから先が心配になってきた。
「なにかお姉さん見てたらうっとりして、正真正銘の美形って感じで気持ちが浮わついて来ちゃうわね」
「本当、舞子よく平気でこの家で、暮らせるわね」
「そのテーマは前にもやったわよ」
「ねえ、ねえ、舞子、若草物語みたいなのやろうか」
「え、格調高すぎない」
「その物語をもう少しわたしたちのイメージに合ったのにすればどう」
「若草物語か、いいよね。ちょっと古いけど美人姉妹って感じで」
「私達でやるの」
「配役はオーデションで決めるの」
「美人姉妹揃わなかったらどうするの」
「お化粧ってものがあるでしょう、舞台ともなれば」
「そうか、絶世の美女になれるんだね」
「みんなでなろう」
「うん、なろうなろう」
私達は、若草物語っていうよりは、美人姉妹物語に盛り上がって、ときどきはずれたりするのを、優子(田代さん)に修正されながら、話はだんだんそれらしく出来上がっていった。優子の構想としては、三年生を送るというところを意識して、今年一年をふり返りながら、美人姉妹もまぜ合わせて作ろうという事になった。
夕食はみんなの感激も最高潮の時で、五時くらいからおばあちゃんに習って作り始め、勇次兄さんも、愛子姉さんも、勇太も勇気も実依子もいっしょに食卓についた。
我が家には、こういう時のためにサンルームいっぱいに広げられるおおきなテーブルがあってそれぞれ好きな場所について食事をはじめた。
全員揃っているのを不思議がって、舞子の家は美形ぞろいなのに、みんな真面目で何処にもいかないんだと感心していた。
兄さんも姉さんも騒がしいのはきらいで、休みの日は家でゆっくりしている。外出したがるのは勇太くらいだけれど、このところ指が不自由なのでトレーニングもできなくて、庭で軽く運動しながら身体をもてあまして、退屈がっていた。
自分の作った料理に、勇次兄さんが箸をつけたりすると、その度に歓声があがって大変だった。
おばあちゃんは、たくさんかわいい孫ができて嬉しそうだったし、ママは新作も書き終えて毎日のんびりサンルームで日向ぼっこをしていた。パパはお正月の髪を結ったり、カットに来たりする人で大忙しで、家でただ一人働きまくっていた。
一月一日、私達は、家族揃って近くの公園の小高い丘に登り、初日の出を見た。風が冷たくて頬にあたる。身の引き締まる思いがして柏手を打つ。
「今年も良い年になりますように」
私達の一年は、ここから、おごそかに幕を開けた。
新学期がはじまると、私達はミュージカルのことをみんなに発表し、毎日スタッフ募集のチラシを貼って回った。まずは少しでも多くの仲間を募って、その中から一番適したパートで張り切ってもらうのが良いと言うことになった。シナリオも半分くらいは書けていたけれど、何度も見直したり書き足したりして、まだまだこれからといった感じだった。 三年生を送る会は、そろそろ生徒会なども動き初めて、今年の催しがようやく一月の中頃になって発表された。
それによると、今年はクラス単位での出し物とあって有志での参加扱いが外されていた。そのため参加の呼び掛けに答えてくれる人が日をおって少なくなり、私達のミュージカルはあやうい感じになってきた。
「先生、私達、去年の暮れからずっと計画立ててやってきました。送る会の企画の中で有志でやれるようにしてもらえませんか」
「うちは進学校なんでね。なるべく質素にやって学業に支障のないようにと今年は考えている」
「そんなー、私達別に勉強さぼったりしませんから」
「まあそういう事では、特に問題のある奴もいないし安心しているんだが。学校としては特別に後押しすることはできないのでね」
「後押しって」
何度も先生に掛け合ったけれど、私達があくまで有志というところは大目に見てもらっても、学校から練習の場を借りたり、備品の援助をしたりということは最後まで聞いてもらえず、今年はどれも無しということになった。私達は自分たちで全てをやっていくという所を確認して、とにかくめげずにやっていく事にした。
それでも少しずつ一緒にやりたい人が集まりだして、みんなのやる気も沸いてきた。
「ねえ、みんなのもう着ないような古着を集めて衣装を作らない」
「そうだよね。布を買ったりしたらお金を使っちゃうし、なるべくあるものでやっていこうね」
「リサイクルで衣装作るなんて、考えてもみなかったよ」
私は、おばあちゃんに教わって衣装係をやっていた。工夫して、みんなで力を合わせて、何度も縫い直しながら作っていた。おばあちゃんの趣味のフリフリも大活躍でとても愛らしくて、可愛いのができた。
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