第2話 噂でもちきり

 そりゃあそうだよね。こうなるよね。今までそんなに仲良かった訳じゃない、話なんてするわけ無いし、家だって逆方向で、並んで歩いてるなんて事がまず、天と地がひっくり返えったってあり得無かった事だし…

 こういう、二人で通学、その上言い合いして騒いでる。なんていうシュチュエーションはどう見たって目立つよ。みんなが興味持ったってしょうがない。

 私達は、『ほんとは知られたくなかった〜』と冷静を取り戻し、戸惑いながらもそこはこの際観念して、両親の結婚で、突然兄弟になったことや、当然同じ家で暮らしていることや、あれこれそばで驚いてる友達に説明して、理解しにくいながらもなんとか一応、納得してもらった。

「言い訳がましく説明したわね」

「だろ、だから、一緒に家出なかったんだよ。解る?」

「そうね、確かにそう言う気遣いは必要ね。これから気をつけるわ」

 学校に着いて、鞄を下ろすと、今度はクラスの女子に囲まれた。

「舞子、なんだって突然、勇太と兄弟になっちゃったのよ」

「違うってば、私とあいつが兄弟になったっていうよりは、私のママと、あいつのお父さんが結婚したって事よ。私達がどうって事じゃなくってさ…」

「なくってさって言ったって。そんなのどっちでも一緒じゃない」

「もー、深く考えないで。愛よ愛。家族愛。親の気持ちを優先してね。私達がおもんばかって結婚に賛成したっていうのに、それで結果兄弟にになったってことよ。

 そんなことより、それより、そんなことよりも、あいつのお兄ちゃんかっこいいのよ」

「えー、兄までできたの」

「うーん、男ばっかの三人兄弟。弟はまだ十歳、なまいきなだけでまあ、可愛いもんよ」

「ねぇ、ねぇ、兄ってどんな人」

「谷沢勇次って言うの、高等科二年よ」

「た、谷沢勇次ー!えー!信じられない。あの谷沢勇次が兄になったって訳」

「なんだ、知ってるんだ。高等科なのに?そう、でもこれが又お姉ちゃんと同級生で、なにかと面倒らしいんだよ」

「そりゃぁ、あんたと勇太が兄弟っていったって、まあ驚くだけで誰も騒がないけど、あの美しい愛子お姉様と彼が一緒に暮らしてるっていうのはね…。これはショックだわー。そうか勇太と勇次様は兄弟だったんだ」

「勇太と勇次様…ちょっと、ショックって、あなた、あんまり変わらないよ。私達と。やっぱり同級生なんだから、言い合いだってしてるし」

「言い合いしてるんだ。あ~あ、ため息ものだわねー」

 なんでそうなるのかなー。理解ある娘と息子が、親の幸福を願い、全てに目をつぶって自分の身を犠牲にして、ひとつ屋根の下で我慢して暮らすことにしたって言うのにさ。なんてえらい話って誰も言ってくれないのよー。

 でも私は、親思いの美しいこの話に、どーんと胸を張って生きていくわ。と悲劇の主人公を演じようと心から思っていた。

 その後、私は、家族になってから、しばらく、今ままで縁もゆかりもなかったあいつの事を観察していた。

 意識する機会もなくて何一つ知らない。知る必要もなかったし、今まで特に気にしてなかったから…同じ屋根の下で暮らすあいつのことを知っておかねば。

 好意を感じるどころか、嫌なやつだと思う事もあったけど、冷静に眺めて見ると、なかなか優しい。男の割りには字もうまい、女の子をからかったりするのも極めて少なくて、男に厳しい私が点を付けても、まあまあの合格点だった。

 一つ最高にいいと思ったのは、男同士で遊んでいる時のあいつの笑顔が結構よくて、こっそり見ていても飽きないくらい楽しそうにしている。

 私は私で、女の子達とうまくやっている方だから、これからもあまり近付き過ぎないで、こんなふうにやっていこうと思う。

「ねぇー、舞子、あんた勇太と同じ家に棲んでるんだって」

まただ、

「ちょっと、本当にー」

 なにもわざわざ他の教室の子まで確かめにこなくったって…。当分私達の事は学校でも持ちきりになって、何かとうるさい事になりそうだ。これでは我が校のマドンナと騒がれるお姉ちゃんもさぞかし大変だろうなーと、改めて、気の毒になった。

 

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