Chapter.13 靴を手に入れる
そんなわけで魔物の解体作業に着手することになったのだが、うむ。心を無にするまでにだいぶ時間がかかった……。
これは、なかなかにつらいものがある。
それでもカトレアに無理をされるよりは引き受けてしまったほうが楽だったので俺としてはそれでよかったのだが、うち一匹は挑戦ということで「それでも」と言うカトレアに任せることになった。
えずきながらも作業を進めるもんだから正直見ていられるもんじゃなかった。
それだけ大変で大切な作業ということだ。
「返り血女」
「………。ひどい……」
作業終わりのカトレアを俺が茶化すとげっそりした顔で悲しそうにされる。でも仕方ないだろ、跳ねた血を頬に付けているのが悪い。
人でも殺めたんかと思った。
「お疲れさま。手と顔、洗ってこいよ」
「はい……」
労いの言葉をかけてやるとすごすごと川辺に寄るカトレアを見送り、俺は焚き火に火をくべる。
現在は頭上にかかる橋を屋根代わりに、火を燃して休憩していた。水で洗った不揃いの毛皮を干し、資格がないので俺たちには売りに出せない魔物肉の一部を今日の夕食にしてしまおうと考えたのだ。
焚き火の設営は俺が解体作業をしている間にカトレアが済ませてくれたもので、こういうところは気が利くよなと思う。ありがたい。
手と顔を洗ったカトレアが、どこかやり遂げたような顔をして帰ってくる。
「な、この数を一人でやろうとしたの無謀だったろ」
「途中から心が折れてました」
「でも、どうせいつかはそれでもやらなきゃいけないときが来るんだから。それまでは無理に自分を追い込まなくていいんだよ」
「……はい」
椅子に見立てた石を向かい側に置いていたので焚き火を挟んだ対面に座るかと思いきや、人一人分ぐらいのスペースを開けて俺の隣に座ってきたカトレアにびっくりする。おいおい。
彼女はじっと焚き火を見つめているものだから、うざがるにもうざがれなかった。
「………」
「………」
無言が場を占領する。
あのとき俺がなにも言い出さなければ、おそらくだがカトレアはどれだけ時間をかけても一人でやり切ろうとしていたんじゃないのかなとは思う。
他人からの救いの手を損得に入れられるほどいやしい人間でもないと思っているから、いまもこうして暗い顔をするのは自戒の念から来ているはずだ。
本当に不器用なやつだよな、と思う。
「ありがとうございます」
「おう。じゃあ、軽く腹ごしらえして、売り行って、余りの肉は婆さんにもお裾分けをして今日は終わることにするか?」
「はい。……あ、私はお肉、少しでいいです」
「いや食えよ。ただでさえお前貧弱なんだから」
なれない光景を目の当たりにしてグロッキーになっている部分があるのかもしれないが、ちゃんと栄養は取ってもらわねば。「えぇえええ……」と拒絶するカトレアと「ちゃんと食え」と強要する俺の攻防がこの川辺で繰り広げられたところで、今日一日の仕事はここで〆とした。
ちなみに、ジャッカロープの肉は鶏のささみに近い筋肉質な繊維状の肉をしており、調味料もないので誤魔化しようのない獣臭さを乗り越えての夕食となった。
いまのところ異世界飯ランキングはマフィンが圧倒的な一位。ジャッカロープの肉が暫定的な二位となる。
♢
一匹分の肉で十分腹を満たした俺たちは他の肉を布で包むと一度宿へ帰還。新鮮なうちに婆さんに一匹分差し入れし、そのタイミングで今朝の果樹園バイトの話が正式に決まったことを知る。
明日のやることが決まってほっとした。
俺たちは深々と頭を下げて感謝をした。「いいのよ、いいのよ」と婆さんには言われ、「頑張ってね」と励ましを受ける。
ちょっと嬉しい。
その後、三匹分のジャッカロープの角と毛皮、コカトリスの羽根と尾を持った俺たちは、専門の買取ショップへと足を運ぶ。
「全て合わせまして八十セラになります」
毛皮の切り取り方が初心者ゆえ雑だったのと、コカトリスが小さな個体だったので価値のある尾にもそれほど値が付かず。なんとか買い取ってもらえたが、昨日の所持金を超えることはなかった。
もちろん不満はないので換金する。
「まあ、今日の宿代と飯代が浮いたから、丸々利益ではあるな」
「そうですね……。お疲れさまでした」
「おう。お疲れさま」
大きく喜ぶことのできる金額ではなかったが、それでも今日一日を認めてもらえたような確かな実感があるからか、お金の重みを痛感していそうなカトレアと顔を合わせて頷き合う。
頑張った甲斐はあったみたいだ。
「それでは召喚獣さん! 付いてきてください!」
「急になんだよっ、おい」
ぐいと手を引かれて強引に連行される。向かった先は雑貨店のような場所で、そこには置物から革製品まで数々の品揃えがある。
「お待たせしました……! ここで靴を買いましょう!」
「お、おお……」
びっくりした。
……こいつが覚えていようがなかろうが頃合いを見て絶対に買わせてやるとは思っていたが、換金して真っ先に連れてこられるほどこいつが気に掛けてくれていたとも思わなかったので反応にワンテンポ遅れる。
戸惑いながらも返答する。
「いいのか?」
「もちろんです。約束したじゃないですか」
ふむ……。どういう靴がこの世界では一般的なのか分からないが、運動靴のようなものからサンダルのようなものまで選択肢はそれなりにある。カトレアは「どれでもいいですよ」と鼻高々にして言うが、流石に好きなものを選ぼうという気は一切ない。
「じゃあ、一番安いやつで」
「えぇえええー」
「いや、俺のものに金をかけても困るだろ」
「そんなことは……。ないんじゃないですか?」
「あるよ。俺はここに留まるつもりはないから。中古のやつでもいい」
「……………。中古は不衛生だと思いますケド」
「……それはそうだな。まあ、安いやつでいいから」
不服そうにむくれるカトレアを見て肩をすくめる。気持ちは嬉しいがそれは不必要なものだ。
俺は値札が読めないので選定をカトレアに任せ、購入した靴をついに俺は履くことになる。
うん、足が痛くない。最高。
同時に、『根を下ろした』とは違うが、しばらくはここで過ごすのだなという実感も湧く。
これが異世界のものを身につける、という意味なのだろうか。
購入した靴はスポーツサンダルのような、通気性抜群で足にフィットする作りをしたなめし革の製品だった。
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