第四話 召喚獣は舐められやすい?
Chapter.14 果樹園バイト
三日目になり、俺たちは指定された場所へ向かうことになる。町を仕切るような石垣の向こう側にできた、柵で囲われている広大な敷地の畑だ。
「君たちが収穫のお手伝いをしてくれるっていう子たちだね。歓迎するよ! あたしはミオ、こっちは娘のアイラ」
「……きゅうさい」
がっしりとした体格で威勢のいい奥さんと、その後ろに隠れた人見知りの少女から出迎えを受ける。奥さんが筋肉質で日に焼けた肌をしているのに対し、少女のほうはお家で読書でもしていそうなくらい白肌でか弱くて、土仕事の似合わなそうな女の子だ。
カトレアより五、六歳は離れていることになるか?
「私はカトレア・ミルクセーキです」
「俺は……」
カトレアのほうを見る。彼女は「あっ」と気付いたような顔をし、それから気まずそうな表情で「……彼は召喚獣さんです」と俺のことを紹介した。
いや嘘だろう。ちょっと待ってくれ。
「……召喚獣?」
奥さんから怪しいものを見るような目を向けられる。要らぬ誤解を生みそうなので即座に否定したいが、『真名で呼べない』とカトレアには言われており、それを明かした場合のリスクまでは聞いていなかったので、言葉に詰まる。
俺は押し黙るしかなくなる。
……力なく項垂れた。
♢
「うちは代々ナープル農家をしていてね。いま時期は収穫とペットの繁殖期が重なるからてんてこ舞いで人手が足りなくて困っていたんだ。助かるよ」
園内を歩きながら奥さんはそう語る。仕事モードに切り替えた俺たちが真剣に耳を傾けるなか、娘のアイラは少し離れた場所でマイペースに付いてきていた。
足元の土は硬質的で轍のような奇妙な跡が付いており、ガタガタとしていて気を付けないと転けてしまいそうだ。少女は慣れているのかもしれないが、細く盛り上がった部分を綱渡りのように歩く姿はどこか心配に思うところがあった。
「やってほしい仕事は複数ある。地面に落ちている虫食いのナープルや落ち葉、木の枝を一ヶ所にまとめてもらう仕事と、ペットの繁殖を防ぐ仕事。倉庫の肥料の持ち運びもお願いするかも」
どうもナープルというのがこの果樹園で栽培している果物らしい。仄かに、熟した腐りかけの果物のような甘ったるい匂いがここ一帯を支配している。
その姿は一度見てみたいものだが、現在歩いている敷地の木々はすでに収穫済みなのか、なにも実が付いていなくて残念だ。
「なさけない話で悪いんだけど、例年はあたしと夫と義父の三人でどうにかこうにか回すしかなかったからさ。せっかくお手伝いさんが来てくれたことだし今年はちょっと休み休みさせてもらいたいんだ。その分お給金は弾むから、頼らせてもらうよ?」
「分かりました」
「大丈夫です!」
こちらとしてはありがたい話だ。……とかいって、相当な重労働を任される可能性も出てきたのが恐ろしいところだが、まあ頑張るしかあるまい。
肉体労働は確実にカトレアには期待できないし。
「カトレアちゃんは虫は嫌いかい?」
「……大丈夫です!」
「正直に言っておいたほうがいいぞ絶対」
「……………。ちょっと苦手です。けど、怖がるほどではないです」
すぐに訂正したカトレアにほっとする。下手に言ったら容赦なくソレに関わる仕事を回されそうだ。これは面接ではなくて仕事の割り振りの話だと思うので、後悔しないうちに素直に伝えたほうがいい。
奥さんも気を悪くはしなかったみたいで、カラカラと笑っている。
「あはは、召喚獣くんは?」
「俺は普通ですね。抵抗なく触れる」
「お、頼もしい。いいねいいね。ちなみに肉体労働は? 重たいもの持てる?」
「二十キロくらいなら余裕で運べます」
「カトレアちゃんは?」
「……あまり自信はないです」
み、見るからにカトレアがしょんぼりしている!
俺が気まずくなって頬を掻いていると、奥さんと目があって盛大に笑われてしまった。
「気にしないでいいよカトレアちゃん。手伝いに来てくれただけで嬉しいから。それじゃあ、落ち葉掃きの仕事とかを重点的に任せることになるかも」
「はっ、はい! 大丈夫です! 私やれます!」
やれやれと首を振る。
心のなかで奥さんに感謝する。
俺がそこまで面倒を見るべきものじゃないっていうのも頭では分かっているが、カトレアが気に病まないようにしてくれたのは素直にありがたいと思ってしまった。
まあ、ただ、その代わりなんだろうが。
がしっと首に手が回される。力が強くて苦しい。
ギブギブ。
「君には頑張ってもらうよ」
「ハ、ハハ……」
最悪だ。こちらに向けてくる目の色的に、なんとなくそんな予感はした。
俺のこと、即戦力として数えられてしまった感がある。
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