第16話コンソメとプルドサンド

 龍王国ドラゴニア 

 

 国全体が慟哭しているかのように静かで、どこか寂しさを覚える。 

 

 人々は下を向き、活力や覇気などがないように見え。 

 

 王宮の人間にも元気なく迎え入れられた。 

 

 次期国王のアルビオンの瞳は死んでいて、母ティアマトは涙を流していた。 

 

 コルキス・ドラゴニアは一も二もなく、すぐに僕の前に跪き、あの子を救ってほしいとそれが無理ならば、いっそ神の元に・・・・・そういい声が漏れ出る。 

 

 龍族はただでさえ子供を大切にする。 

 

 王族も普通の子供達も、大切に大切に、清廉に正々堂々、そして時には厳しく、それは大切に育てる。 

 

 ニア・ドラゴニアが化け物の状態で生まれてきたこと、殺す事も叶わない事に国民全体も悲しみに包まれていた。 

 

 「なんでもする!財宝も秘宝も!全てを差し出す!だからどうか使徒様、ニアを!孫娘を!」 

 

 可愛がられるはずの、幼い命が、死を懇願する。 

 

 ごめんなさい、ごめんなさい、たすけてぇ!ころしてぇ!お願いします!。

 

 こんな死を望む子がいるか?いつきの体は怒りで爆発しそうになる。 

 

 どんな幼い命にも、明日を夢見て幸せに生きる権利があるはずだ。 

 

 この間の扉に入ったら、瘴気にあてられて死ぬ!そういわれても怖くなかった。 

 

 ただただ神の使徒として幼い命を全力で救う事が出来る。 

 

 犠牲になるなら僕の様な凡人が丁度相応しい、そう思いながら扉の結界を潜り部屋に入る。 

 

 肺に激痛が走る、耳や目から血が流れる、肌に黒い斑点が出来じわりと骨に響く激痛が走る。 

 

 真冬の吹雪の中、体に当たる雪が神経を蝕むほど激痛走る程の猛吹雪の中にいる様な感覚、でもそんなのどうでもよかった。 

 

 自分が痛いのなんてどうだってよかった、どれほどだって我慢する事が出来た。 

 

 ニアの前にたどり着き、彼女を抱き上げる手が火であぶられているかのように、ボロボロと指先から炭になって行くように、僕はそれでも人の形をしていない彼女を優しく優しく抱きしめて、抱っこする。 

 

 「もう大丈夫、さぁスープを飲もう、君の為に一生懸命作ったんだ。コンソメスープ、僕は固形か粉末で溶かしたものしか知らなかったけど、こっちの世界の牛の魔物のすね肉で丹念に作ったんだ。完璧って聞かれたら、まだまだ未熟な品かもしれないけど、飲む人が幸せになりますようにって願って作ったんだ。さあ、一口飲んでみようね」 

 

 そういいながら、抱きかかえたニアの口にゆっくりスープを流し込む。 

 

 ゆっくりあむあむしながら味わうニアは、笑顔で美味しい、美味しいと呟いていた。 

 

 何度の何度も飲ませてあげる。 

 

 肉塊に口と目がついていただけのニアだったが、その肉塊の部分がどろりと溶け、次第にニアは本来あるはずだった子龍の姿に変っていく。 

 

 呪いの泥は浄化されていき、緑色の粒子になってゆっくりきえていく。 

 

 俺の体もニアの体も綺麗に浄化されていく。 

 

 子龍のニア、純白で目がくりくりして可愛らしい顔立ちをして思わず抱きしめたり撫でてあげたくなるほど愛らしい。 

 

 その子がよちよち足で歩きながら短い両手を全開にして、もっともっと頂戴とスープをせがむのだ。 

 

 可愛いすぎる。 

 

 でも出すのはスープだけではない、ぶりんぶりんに時間をかけて作ったプルドポーク、黄金豚のプルドポークももってきてある。 

 

 それを出して、指で持ち上げようとすると、繊維上にずるりと柔らかく裂けた。 

 

 それをニアに食べさせる。 

 

 「あぎゅ!あぎゅ~ん!おいちい!しゅごく!おいちい!なぁに!?こぇ!?なぁに!?」 

 

 「黄金豚のプルドポーク、でもこうするともっと美味しいよ」 

 

 俺はピタパンにたっぷりのプルドポークとアボガドとタマネギのワカモレを塗って、差し出すと、小さな手にいっぱい掴んで。 

 

 元気よくバクんバクんと食べる。 

 

 「もぎゅーん!これも!ちらない!初めての味!食べ物がおいちいって初めて知った!」 

 

 「もきゅ!もきゅ~!ぎゅぎゅぎゅ~!」 

 

 部屋全体も浄化されていき、コルキス王、アルビオン、ティアマトがゆっくりと入ってくる。 

 

 「おぉ!ニアが私の孫が!」 

 

 「あんなに元気よく食事を・・・・・・・私は父としてやってはいけない事をした。許してくれるだろうか?」 

 

 「きっと大丈夫ですよ。あの子あんなに幸せそうに・・・・・」 

 

 そんな自分の家族をみつけて、すぃ~と空を飛び、父母の元に向かうニア 

 

 「ととしゃま!かかしゃま!じーじ!ニア元気になった!みてこれ!すっごくおいちいの!ニア!見た目もととしゃまたちといっしょ?」 

 

 「ああ、一緒だ!」 

 

 「ああ!ニア!抱きしめさせて!」

 

 よかった。 

 

 この親子が救われてよかった。 

 

 「コルキス王達もよかったら、どうぞ、プルドポークとワカモレのサンドとコンソメスープ」 

 

 「ああ!使徒様!なんとお礼を言えば!これがニアが食べていたものですか!?いただきます!んぐぉ!んも!んんんんん!これはなんとも美味い!肉が驚くほど軟らかく、ソースも濃厚で!ああっこのスープも美味い!おい!お前たちもいただきなさい!滅多にない事だぞ!」 

 

 「使徒様の食事、軽食なのか?んも!おおおお!これは美味い!んはっ本当に美味いぞ!味の世界観が我らと違う!んぐ、スープも!」 

 

 「おいちいでしょ、かかしゃまも」 

 

 「ちょっと私の分も残して置いてよ、それでは、いただきます。あら!本当に斬新!新しい感覚なのに受け入れられちゃう!ぅぅぅぅこの食事がニアを救ってくれたのね!ありがとう!本当にありがとう!」 

 

 幸せな家族の姿がみれて本当によかった。

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