第10話魔国 リリス・ルシフェル
魔族の第二王女 リリス・ルシフェルは通常通り元気な子として生まれ、育っていった。
だが不運は突然訪れる。
まず最初に異常が出始めたのは、脆すぎる骨たちだった。
少しの衝撃で折れ、ヒビの入る骨にのたうち回るも、再生し、折れては再生するを繰り返した。
何度でも痛みを味わえと言わんばかりに、骨は簡単に折れ、そしてまた再生する。
そして次には皮膚に異常が現れる。
体内の水分が暴走して水ぶくれが体中に現れる様になり、彼女は完全に外の世界に出れなくなる。
そして最終段階の筋肉達の劣化、断裂が始まった。
魔王はエルフにもハイエルフにも龍族にも精霊や妖精、人間にすら頭を下げた。
娘を助けるのに協力してほしい、各国からは解呪はもちろん病としての調査、そして延命治療にと高価なポーションが大量に送られたが、どの種族も真相に近づく事ができなかった。
力強い協力に感謝するも国王であるアモン・ルシフェルは一向に成果も出ない事に、落胆した。
人々は言う、魔族は呪われた種族である。
神から忌み嫌われた種族である。
その差別から、戦争に突入するまでそう難しい事はなく、何度も他種族と争い続け、そうして今日の平和がある世界。
アモンは自らを呪った。
自分が自分達が呪われた種族だから、娘はこんなつらい思いをしなければいけないのか!?そんな中ダンジョン国家グランディルに神の使徒が降誕する話を聞きつけるが、神の使徒は神の使徒でも食事を司る使徒様が降誕されたと、自分の中で何かが壊れる音がした。
神が娘を救わないなら、世界が娘を救えないなら、私が娘を救うしかないのだ。
そうして娘がグランディルの使徒様に興味を示したので、娘の為にグランディルに行くことを決めた。
使徒様が作る食事は、この世界の流儀にはないもので衝撃的なのだとか?使徒様の食事を娘と食べる、そんな穏やかな小さな幸せを味わいたいと胸が躍った。
指定された店の前までいくと、グランディルで最も有名な男、死神セバス・バルバドスと白魔女リリア・ユーティスが出迎えてくれた。
「お久しぶりでございます。アモン様」
「今日はよろしく頼む」
緊張感がありながらも、魔王親子を席まで案内し、すぐに料理が運ばれてくる。
前菜 三種類のマッシュにラスクを添えて
デザートのアイスクリームの様に並べられた美しい料理、娘は可愛らしく声を上げ、私も見た事のない洋式に驚いた。
ラスク?カリカリに焼かれたパンと一緒に食べると、これは!?魚?そして妙にねっとり感のある味わい深いこれはなんだ!?そしてシャクシャクと楽しい玉ねぎ!
「美味い!!」
「美味しい!こんなの食べた事ない!」
他の二つも美味い!魚卵と芋?そしてこちらはエビか!?こんな食い方は全く知らない!魔国は確かに食文化の浅い国だ!でも王である私は、そして娘や家族達はこれでも様々な国の料理を味わった事がある!そして色んな衝撃に美味を味わったと思い出に残る料理だってあった。
自分の中で分厚くなったと思った食歴の思い出が、一瞬で崩れ去ったかのような初めての体験!衝撃!
次に出されたのは黄色いスープ。
「これは、甘いスープ!?嫌、塩味も感じる!なんて滑らかで癖になる味なんだ!!物凄く美味いスープだ!」
「お父様も?私もこのスープ大好き!!!もっと飲みたい!すっごく美味しい!」
「ほっほ、お喜びいただけ嬉しい限りです」
「これが使徒様の料理、正直ここまでとは・・・・・・先ぶれの二品でこうまで感動させられるとは夢にも思わなかった」
「すごいね!こんな世界知らなかった!食事ってこんなにも美味しくて楽しいものなのね!!」
「リリス・・・・・・」
リリスの笑顔、久しぶりに見た。
それだけでも今日ここに来た意味がある。
魚料理 鯛のポアレときのこのデュクセル
「魚か・・・・・・だがこれは・・・・・・セバス、間違いではないのか?」
「はい、間違いはございません」
「しかしこれは・・・・・・」
そう言って魚を見るが、どう考えても鱗がついている魚、そして鱗が逆立っている。
私が辞めなさいと言う前に、リリアが口をつけてしまった。
「んんっ!うわぁあ!美味しい!皮がサクサクで楽しいわ!!」
「・・・・・・・・」
自分の耳がおかしいのか?疑った目で娘を見る。
この鱗付きの魚が美味いだと?いくら魔国が食歴ひんそうだといえ、魚の鱗をとる事くらいは知っている。
娘が食べているのに、私が口にしないわけにはいかない、思い切って噛みつくと。
これが本当に美味い。
「・・・・・・美味い、なんと軽快な鱗!嫌な味や風味は一切ない!なんとこの食感と味!キノコのソースも滑らかで美味い!こんなもの!こんな味の世界があるとは・・・・・」
「ねぇ、キノコは山でとれて、お魚は海でとれるのに、二つ合わせてこんなに美味しいなんて!」
肉料理 地龍豚のポワレ ナッツバターと野菜を乗せて
「うわぁ!見た目から見た事ない料理、さっきから思ってたの!どの皿も綺麗って!あむあむ!なにこれ!美味しいなんて!そんな簡単に言えない程美味しい!お肉のしっとりぷるんとした柔らかさはもちろん、香ばしいナッツバターと野菜の甘味!!今!たった今!確信した!今最高に幸せな時間を味わっているのは、私とお父様だわ!至福!幸せの時間!」
立つ事の出来なかったはずの娘がいきなり立ち上がり、咆哮を上げる。
私も遅れて食べるが、まさにその通りだった。
かつてこれ程の感動があっただろうか?もう一ついわせてもらえれば、妻やもう一人の娘にもこの味を食べさせてやりたい!!多くの人間、民はきっとこの味を知らずに生涯を終える人間もいるのだろう、なんて悲しい話なんだ!なにがどうなんて、私の舌や口では簡単に表現できない、もう漠然と美味いのだ!わけあえる事ができるなら、多くの人間とわけあい、語り合いたいそんな肉料理・・・・・。
タイラントアップルのソルベ 琥珀糖を乗せて
「ここにきて、ソルベ、甘味か?おおっこれは、さわやかでいい。怒涛の料理達だったからな、一段落といった所か」
「琥珀糖も美味しい、まろやかで安心する」
灼熱牛のフィレステーキ トリュフソース
「ステーキか、やっと見知った料理が出たな、どれ・・・・・・・・つつっつつつつつつつつつつつつつつつつつつつつつつつつつつうつ!!!(全身を駆け抜ける雷)ぶはぁああああああああ!なんだこのステーキは!普通のものではないぞ!美味い!美味い過ぎる!ソース!このソースはなんだ!今までのどれよりもより衝撃的だ!全身に広がる快感の波!美味い!美味い!!美味い!!!」
「んぅ!おいし~い!私達だってステーキは沢山食べるのに!全然違うものみたい!ってか全然違うわ!美味しすぎるもの!・・・・・・・・ぅぅぅぅぅぅ体があつい!!!」
野菜のテリーヌ
「野菜か、固めたのか?うん!悪くない所か!美味いではないか!!素晴らしい味だ!恥ずかしながら大の野菜嫌いでな、個人の食事では一切食わないのだが、これならむしろ毎日でも食いたいぞ!!リリ・・・・ス?光が??」
ステーキ料理の段階から徐々にリリスの体が光始めた。
フェニックスの卵と妖精の砂糖のプリン
「卵の菓子?そんなの見た事も聞いた事もない、ぷるぷるとしているな。それにしてもセバス!リリスは本当に大丈夫なんだろうな?何か食事にでももったのか!?」
「大丈夫です。使徒様の加護が効いているのでしょう」
「あま~い!美味しいわ!デザートまで完璧なんて!さいっこう!」
その瞬間リリスの体は強く光り輝き、全身をつつむと少し成長した姿のリリスが姿を現した。
「リリス・・・・・・・リリスなのか!?ああっ体!体に異常はないか!?」
「すっごい軽いわ!(足を地面にダンと叩いたり、手をテーブルにダンと叩くが)骨も折れない!筋肉も痛くない!みて!多分肌もよくなってる!!!」
「本当だ!何故こんなことが・・・・・・・」
「食の使徒いつき様の料理には治癒の効果があります。それも莫大な、遅れた成長も取り戻し、更には強靭にそしてより健康的に人々を導くのです」
「そんな、そんな効果が・・・・・・・なに!私の体も!!!」
アモンの体も光り輝き、急速に収まっていく。
「アモン様、リリス様の治癒の為にご自分を犠牲にしようとしましたね?」
「なぜそれを・・・・・・」
「使徒様の料理は特別ですから、そういったものまで治してしまうのですよ」
「お父様、でももう大丈夫よ!私もお父様も完全に治ったもの!」
「使徒様に感謝を伝えねば!それにグランディルの王にも!」
前回復の祝いにと酒をもって現れた使徒様に私は膝をついた。
使徒様とグランディルに忘れぬ友好を永遠に誓う。
にこりと笑い差し出されたいつき様の国の酒はあまりにも美味くて鮮烈な記憶として、また最高の美酒の一つとして私の記憶に刻まれた。
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