第11話獣王国

 リリス・ルシフェルと禁呪をつかったアモンの二人は料理の力で治癒され、さらには以前以上に逞しく美しく変化した。 

 

 グランディルにある魔国の領主館はリリスの全開を祝ってグランディルの民に酒や料理などを振舞った。 

 

 魔国の王女が食の使徒の料理で回復した事、グランデイルの街並みや人間達が健康になった事などは魔国から様々な国に伝わっていった。 

 

 各国も王女の回復を祝って贈り物を色々送った様だった。 

 

 今は昼間に孤児達にウナギの捌き方や浄化の丁度いいタイミングなどを教えながら、それをお客さんに振舞っている。 

 

 一応値段は小銀貨、日本円で千円といった所なのだが、この世界では銅貨5枚でパン一つとスープが食べられる。 

 

 屋台の値段は銅貨5枚から大銅貨一枚が標準的だが、小銀貨1枚から銀貨5枚までの値段のものも珍しくはない。 

 

 酒場で料理を頼み酒を飲めば、それなりの肉料理など二三品出てきて銀貨5枚程度など、料理によっては大衆食堂や酒場でも金貨が飛ぶこともある。 

 

 ゴブリン一匹の小魔石が小銀貨1枚で取引され、またダンジョンのゴブリンは野生のゴブリンと違い死ねば数分で沸くリポップ型でグランディルではゴブリンを只管狩るだけでもそれなりの金持ちになれる、初心者にも優しいダンジョンに変化してある。 

 

 50階層まで死に戻りOKの設定だが、50階から下100階までは他所の国の大迷宮と同じ難易度になり、更に100階層から下はS級が5人でPTを組んでも中々探索しきれないほど環境も厳しくなってくる、200階から下は人外のレベルが活動する範囲となり、300階から下はもはや人間以上の何者かになってしまったのでは?といわれるレベルである。 

 

 それ故に50階層までをフリーに設定しても、このダンジョンは踏破しきれないと作成者が思ったのか?セーフティに死に戻り機能が設定されていた。 

 

 強者をガンガン生み出さなければいけない世界、グランディル、だがまさに食の使徒いつきが来る前までは人類は袋小路に閉ざされつつあったといってもいい状態だったが、ここにきて50階層までの安全な解放、料理による強化、いつきの能力による時間停止型のアイテムボックスやマジックバック、イベントリの作成は文明を世界の進歩を一気に引き上げる効果があったと同時に、多くの薬師、錬金術師が素材不足や素材の高騰から使いたくても使えないジレンマを抱えていた悩みも解消され、薬、ポーション、魔道具の開発は日に日に勢いを増し突き進んでいっている。 

 

 他にも千年草など時間がたたないと育たない、特殊素材の確保も可能となったのは、いつきの魔道具の解析結果得た産物である。 

 

 煮込み時間や熟成、発酵、時間停止、これらを可能にした魔道具の解析により、収穫に時間がかかる素材の簡易的な確保、これはグランディルにとって大きな他国との交渉材料の一つとなった。 

 

 食の使徒なのに食以外の部分でも有名になっていく、いつき。 

 

 孤児達に料理を教え、振舞いながら幸せに生活していたのだが、ここでまた魔国の話を聞き他国の王族から回復の料理をお願いしたいと依頼が来た。 

 

 依頼国は獣人の国、ガルディア 国王 キングスフィール・ガルディアからの願いであった。 

 

 治癒をさせたいのは第一王女フィリア・キングスフィール 

 

 獣王国は熱帯地域に存在し、ダンジョン国家の様に安定安心のダンジョンなど存在するはずもなく、濃い魔力の濃度から発生する魔力溜まりから生まれる魔物を狩って日々の糧を得ていた。 

 

 魔力溜まりは魔力が濃く凝縮される事によって、通常ではありえない量の大量の魔物を一度に生み出しスタンピードを起こす。 

 

 そのスタンピードを丸ごと狩り、獲物を得て自国を潤わしていた獣王国だが、都合のいい魔力の暴走などは一度もない、国民全員が戦士であり闘士、当たり前の様に傷を負い、四肢を失っても立ち上がり、そして時には潔く死ぬ、それが獣人族である。 

 

 王の中には安定を求めて、屈強な城壁を作成した王も存在し、その城壁は確かに国を守る為に役立ち、生存率も上がったがそれだけでは不十分であった。 

 

 キングスフィール、殺戮の賢者と言われたキングスフィールは強力な戦士であると同時に慈悲深く国民を愛する王として有名だった。 

 

 常に先陣をきって突撃するキングスフィール、それでも自然に起こるスタンピードを完全に制御する事は出来ず。 

 

 国を囲う様に同時多発に発生したスタンピードによって、王国内部まで魔物に食い込まれる事になった。 

 

 多くの幼い王女と王子の前に、牙を剥きだして勇敢に立ちふさがる第一王女フィリア、後ろの扉はこれ以上にないくらいに頑丈だが、それでもいつ破られるか分からない。 

 

 彼女は一人扉の前に立ち続けた、次々と死んでいく護衛達に涙を流しながらも、この扉の先にだけはいかせまいと立ち続けた。 

 

 キングスフィールが急いで王城に戻り、最奥のフィリアが守っている場所にたどり着いた時に見た光景は、生きたままフィリアを食う魔物の姿だった。 

 

 秘薬を使いなんとか一命を繋ぐことが出来たが、本当に命を繋ぎとめるのが限界で、美しかったフィリアは見る影もなく皮膚や筋肉、顔の皮などを食い散らかされている状態で、なんとか状態は安定した、そう安定してしまったのである。 

 

 治癒の魔法と医者の知識と薬師の薬、全てを動員してやっとつなぎとめる事が出来ている命、普通なら死ぬ、死んでいてもおかしくない状態で生き残っているのは、エリクサーやソーマ、アムリタにも並ぶ神々の秘薬のをつかったから、通常では生きられない状態なのにもかかわらず、生きているのだ。 

 

 そんな状態でも健気に笑うフィリアにキングスフィールは天に向かって吠えた。 

 

 そして魔国の話を聞き、グランディルまでフィリアをつれて訪れると言う、いつきの治癒を求めて。

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