命の交響曲


 久しぶりに「グーグー」とお腹から食事を催促する音が聞こえた。食事どころを探すべく、簡単にメイクを済ませ、キャミソールの上にふんわりとしたグリーンのシャツを身に付けて外に飛び出した。


 東京にある我が家の周りは、都会の喧騒を感じさせない。顔見知りの店もなく、私は親水公園のあぜ道をひとり歩いた。


 歩みを進めるうちに、ネットで覆われたわずかばかりの金色に輝く稲穂が視界に飛び込んできた。その脇には、「地元の小学生が手塩にかけて育てたお米なのでいたずらしないでください」という看板が立っていた。


 そばには、穏やかな微笑みをたたえた少女と、彼女を慈しむように見守る鎌を手にした男の案山子が、ハシボソガラスを寄せ付けぬよう警戒していた。その案山子は、なんとなく私の部屋で風に揺れる父さんの紋付袴を思い起こさせた。


 ところが、意地悪そうなカラスが稲穂を食べたそうに、虎視眈々と稲穂を狙って、大きな目をパチクリしていた。その脇には彼をあざ笑うかのように、早咲きの彼岸花が競うように鮮やかに咲き誇っていた。


 足元に視線を落とした瞬間、小川の流れに身を任せるメダカの親子が、陽光を浴びて優雅に遊ぶ姿が目に映った。しかし、その上では、黄金色に輝くオス蜘蛛が、獲物を狙う猛者のように、蜘蛛の巣を張り巡らせていた。


 不運にも、一匹のメダカの子が跳躍し、蜘蛛の巣に囚われてしまう。その様子を目の当たりにし、親子の絆が切り裂かれる瞬間に、私の心は深い悲しみに包まれた。しかし、自然の法則に逆らうことはできず、ただ見守るしかなかった。


 一方で、オス蜘蛛を人間の男性に見立てると、その恐ろしさに対する先入観に自らを縛り付けている自分の愚かさに気づき始めた。


 突然、一羽のカラスが私をじっと見つめていることに気がついた。腹黒な奴は巧みに脚を左右に動かしながらゴミをあさり、嘲るように「ガーガー」と鳴いた。その声は、「何を落ち込んでいるんだい?  そんな暇があるのかい? こんな愚かな女性は他にいないよ。ばかばかしいね」とあざけ笑ているようだった。


 怒りがこみ上げてきて、無意識のうちに地面に落ちていた棒を拾い上げ、カラスに向かって力いっぱい投げつけた。その嫌なカラスを追い払う私の小さな反抗だった。棒が水面に落ちる音が聞こえ、蜘蛛の巣が揺れ、川面に波紋が広がった。


 そして、先ほどのメダカの子が、小さな腹をキラキラと輝かせながら、母親のもとへと戻っていく様子がはっきりと見えた。その幼い命が救われたことを知り、私も心の呪縛から解放されたような安堵感を覚えた。


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