お見合いの釣書
我が家にひとり残された私は、誰からも心配されず、話し相手もいなかった。手持ち無沙汰になったが、朝食をとっていなかったので、お腹だけは確実に空いていた。
とりあえず急いで、冷蔵庫から牛乳を取り出して一息に飲み干した。冷たい牛乳が空きっ腹に流れ込み、ひんやりとした味わいが身体全体に染み渡る。ああ、これぞ夏のよろこび。
しかし、お腹を満たすことよりも、目の前の不思議な忘れ物が気になった。静寂な居間のテーブルに、大きな封筒が置かれたままだ。それは、百合子姉ちゃんがちらっと見せてくれた、お見合い相手のプロフィールだった。
またしても、やってはいけない戯れに心が動かされる。「絶対に秘密だよ」という約束を破ってしまいそうだ。今度は誰にも邪魔されず、自分のペースで見ることができる。期待に胸を膨らませ、封筒を開ける手が震えた。そっと中を覗いてみると……
男の名前は
「へえー、そうなんだ。これはいいかも……」
お見合いの男は、普通のサラリーマンではなかった。思わず口から漏れる独り言。身勝手な妄想が心を満たす。収入はまあまあ。これなら、姉ちゃんが共働きすれば、家庭も支えられるだろう。
少女漫画のイラストレーターと聞いて、心がときめく。可愛らしいキャラクターや魅力的な世界観が目に浮かぶ。もっと知りたくなる。
男の年齢は三十五歳。趣味は動物園と水族館。珍しい趣味だが、夢があって悪くない。私も好きだ。バツ歴はなし。これはいい。百合子姉ちゃんの旦那になるかもしれないと思うと、感情が高まる。姉には幸せになってほしい。
最後に、白い薄紙で覆われた包みを慎重に開ける。中には、イラスト見本が数枚。とんがり帽子を被った金髪の女の子が、洋館風のアトリエで動物たちと戯れる姿が描かれている。
「完璧ではないけれど、悪くない……」
またしても、独り言が漏れる。姉ちゃんのお見合い相手の人柄や仕事、趣味に心惹かれる。食事も忘れて、時間が過ぎていた。
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