第52話 シュウジ 5 侵略戦争

「一方的だな。」


ゼクトスラッシャーのコックピットから、シュウジは眼下を見て呟く。


グール王国、西方領主のドランは、まずは足場固めという事で、隣の小領主の領都を攻めることにした。


その侵略にシュウジ達召喚者3人も参加することになった。


まぁ、ゼクトシリーズの慣熟操作も兼ねているとのことだ。


ザコビッチが「俺は空飛ぶものは信用しねえ」といって、そそくさとゼクトタンクの所有を表明し、マイケルが「じゃぁ俺はこっちな」といってゼクトガンナーを持って行ってしまった。


その為、残ったゼクトアーマードが俺の乗機か、と乗り込もうとしたら、べラムの奴が「これは私のだ」といってさっさと乗り込んでしまったのだ。


「おーい、俺のは無しかよ?」


俺がそう呟いても、べラムは無視だった。


仕方がないか、と俺は、量産機の『ギブル・フライヤー』へと向かう。


例のゴキブリタイプだ。


陸戦型を『ギブル』といい、空戦型を『ギブル・フライヤー』というらしい。


「おや、シュウジさん、どうなされたのですか?」


ギブルフライヤーを見ていると、ウェルズが声を掛けてくる。


「いや、ゼクトシリーズが全部取られてしまってな。」


俺は、べラムとのやり取りをウェルズに話す。


「やれやれ、べラムさんにも困ったものですね。」


ウェルズの話では、べラムは相当焦っているという。


彼は騎士団長を務めるほどの人物ではあるが、マギアグレイヴの前には、ただの騎士団が太刀打ちできるものではない。


そして新たに開発されたゼクトシリーズだが、それに乗るのは召喚者だという。


このままでは、自分の立場が召喚者にとってかわられると焦っている、という事らしい。


「まぁ、こっちの世界の人間がどこまで動かせるかのいい実験材料になりますよ。」


ウェルズは嗤いながらそう言い、俺にはスラッシャーをすすめてくる。


「あれはまだ未完成なんだろ?」


「イエイエ、外装も終わりましたし、後は外部装備だけなんですよ。」


つまり、マギアグレイヴ用の剣以外の武装がないが、動かすだけなら問題ないという。


「他のゼクトシリーズより、ピーキーな設定ですからね。召喚者でも、性能を十全に発揮できるかどうかわかりませんが?」


ウェルズの話では、スラッシャーには『魔力操作感応装置』とでもいう、操縦に関する補助システムが組み込まれているという。


これは簡単に言えば、操縦者のイメージを魔力が増幅することによって、動作を補助するものであり、もっと簡単に言えば、念じるだけで思うように動かせる、というものらしい。


そこに必要なのは、補助させるに足りる膨大な魔力と、鮮明なイメージ力だという。


「ロボットアニメのイメージでいいんですよ。」とウェルズは言うが、機械の概念ですらなかったこの世界の人間はもとより、マイケルやザコビッチのように、サブカルチャーに詳しくない者では、ロボットアニメのイメージすらおぼつかないそうだ。


だから、サブカルチャーにどっぷりとつかった日本人の俺なら、充分性能を引き出せるだろうとのことだった。


……本当にそんなんでいいのかねぇ?


そんな事を思いながら動かしてみると、意外とスムーズに動くことに驚いた。


先日まで動かしていたアーマードや、ガンナーより、スムーズに動く気がする。


「これが「魔力操作感応装置」の力ってわけか。」


……確かに、ただの人型が空を飛ぶって言うのをイメージするのは難しいだろうなぁ。


マイケルが「羽根もないのに何で空を飛ぶんだ?」とガンナーやアーマードを動かしながらぼやいていたのを思い出す。


マイケルにしてみれば、ギブルフライヤーの方が、空を飛ぶことに関しては、まだ納得がいくものだったらしい。



「……っと。」


向かってくるミサイルを、ローリングしながら躱す。


考え事をしている間に、敵の接近を許してしまったらしい。


目の前にはグライダーと名付けられている、小型の飛行機みたいなものが見える。


ハンググライダーの上に人が立つスペースがあり、その周りを落ちないように鉄の輪が設置されているものだと思えば想像がつくだろうか?


その上で、兵士がハンディキャノンみたいなものを構えているのが見える。


俺はそのまま前進し、そのグライダーの側をかすめるようにすり抜ける。


巨大な質量の対流に巻き込まれたグライダーは、そのままバランスを崩し、大地へ向かって落ちていく。


「うまく脱出しろよ」


俺は、ムリだろうな、と思いつつ、そんな事を呟く。


本来であれば、あのグライダーだけでも、従来の戦に革命を起こすものの筈だった。


しかしドランの治める街では、それ以上の技術革新……マギアグレイヴの存在があり、マギアグレイヴを前にしては、従来の騎馬を中心とした戦力しか持たない、小領主に勝ち目はなかった。


「まぁ、こんなもんだろ?」


一方的な虐殺に手を貸す気にもなれず、少し上空へ上がり日和見を決める。


何か言われたら「兵装がないから手が出せなかった」とでも言っておけばいいだろう。


実際には地面に降り立ち、兵士たちにケリを入れるだけで、殆どの兵士を再起不能に出来るだが……。


「ん?」


視界の端に炎が見える。


俺はそちらに向けてカメラをズームアップする。


「あれは……ゴブロン?……イヤ……少し違うか。それに、アレは……」


『ゴブロン』というのは、ウェルズが、初期に開発したマギアグレイブだ。


形は単なる円盤形で直径10mもある巨大円盤である。

中に騎兵が30騎は入るとされ、元々は騎兵輸送のために開発した、とウェルズが言っていた。


そして、そのゴブロンを小型化させ、キャノン砲を搭載したのが『ゴブロンT』

空力を与え爆撃を可能にしたのが『ゴブロンB』と、バリエーションが作られ、ウェルズはその設計図を各国に売り払ったそうだ。


設計図を売り払った理由の一つは、新たなる開発資金の為という事で、実際、その資金を元に『ギブル』の大量生産が出来ているうえ、ゼクトシリーズの開発にも着手することが出来ている。


設計図を売っても、自国の優位性は失われないため、ドランは別に気にしていないが、べラムはそんなウェルズを怪しんでいるのだとか。


しかし俺にはウェルズの思惑が分かる気がする。奴は、設計図をることで、この世界にマギアグレイヴを発展させようとしているのだ。


およそ、一人が考えつくことは、誰にだって考えつくことだ。ただ、最初に誰が思いつくか?というだけの違いでしかない。


だから「マギアグレイヴ」という概念を持ち込み、そのもととなる設計図を流通させれば、後は自然な流れで多様性が生まれてくる。


そして、その多様性こそが、新たな発明発見につながる……ウェルズはそれを欲してやまないのであろう。


奴は、マギアグレイヴ同士の戦いを欲し、その上で、自分が最高のマギアグレイヴを開発する……それがウェルズの本心なのだろう。


だから、ウェルズは表面は別にして、心の底ではドランに忠誠を誓っていない。

べラムは本能的にそのことに気付いているから、ウェルズの事を怪しんでいるのだと思う。


「……そう考えると、俺も慎重に動く必要が有るよなぁ。」


俺はそう思いながら眼下を見る。


突然現れたゴブロンの亜種と、ギブルでもゼクトでもない、新型のマギアグレイブに、ドランの軍勢は押されている。


装備はいくら良くても、使い手が素人では、役に立たないの見本みたいだ。


「っと、ヤバいな、アレは。」


新型のマギアグレイブがゼクト・タンクを切裂く。直後に大きな爆発音がし、周りのギブルを巻き込む。


「そこまでだよっ!」


俺は急降下し、ガンナーに向かって剣を振り下ろそうとしているマギアグレイヴの前に立ちふさがる。


剣で剣を受け止めると、ガンッという大きな衝撃が伝わってくる。


「大勢は決した。これ以上の犠牲は出したくない。……引いてくれないかな?」


俺はコックピットの中でそう叫ぶ。


外の声は漏れないだろうが、剣と剣がぶつかり合っている今なら、音の振動は伝わるだろうと思っての事だ。


「……あなたは……誰?」


……女の子?


以外だと思いつつ俺は応える。


「……巻き込まれた一般人だよ。」


「……一般人なら……ドランに手を貸すのはやめて。」


その言葉を残して、、目の前のマギアグレイヴが離れ、そして、ゴブロンの亜種と共に、遠くへと飛び去って行った。


これが、マギアグレイヴ同士の最初の戦いだったと、後の世の歴史家が言うが、そんな事は、どうでもいいことだった。

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