第51話 シュウジ 4 マギア・グレイヴ
「いいか、この先に進めば、後はないぞ。」
べラムが脅す様にそう言う。
つまり、ここの中をみた以降、裏切りは許さない、と言う事らしい。
まぁ、軍事機密というのはそう言うモノだろう。
俺達は、兵器工場と呼ばれる建物の前で、べラムからクドクドと注意事項を受ける。
いい加減、飽きが来た頃になって、ようやくべラムの口が閉じる。
そしてもったいをつけながら開いた扉の中には……。
「驚いたか、これが我が領が誇る、新たなる王国の槍「
べラムが自慢げに大声でそう言う。
しかし、そのドヤ顔も無理はないだろう。
この世界に来たばかりの俺でも、コレの凄さは分かる。
「マジか……。」
「嘘だろ……。」
マイケルもザコビッチも声が出ない。
それもそうだろう。目の前に広がっているのは、今まで見てきたファンタジーな中世の世界には似つかわしくない、機械の数々だったのだから。
「これはこれはべラム様、今日はどのような?」
俺達が呆然とその機械群を見上げていると、奥から二人の男が出てくる。
「おぉ、ウェルズ殿、今日は勇者たちを紹介しようと思いましてな。」
ウェルズと呼ばれた男が、俺達の方を向く。
「なるほど。アメリカ人にロシア人そして中国……イヤ日本人ですかな?杯目増して、私はウェルズ・カーライトと申します。こちらは助手のスヴェン。」
よろしく、と右手を出してくる。
俺達は順番にウェルズと握手をすると、マイケルが確認をするように声を出す。
「アンタも召喚者……なんだよな?」
「うーん、召喚者、というのとは少し違うかもしれませんね。私は「転移者」なのですよ。誰かに呼ばれたわけじゃなく、気付いたらここにいた、といったところでしょうか?因みに彼は転生者です。生まれも育ちもこっちの世界の人間ですが、前世の記憶……しかも、私達と同じ地球で生まれ育った記憶を持っているのですよ。つまり、向こうとこちらの記憶を持つ、いわばハイブリッドですね。」
ウェルズがそう言うと、スヴェンは「どうも」と軽く頭を下げる。
「いやぁ、まさかこれほど早く、召喚者が来てくれるとは思いませんでしたよ。しかも、日本人!シュンジさんでしたっけ?君はモビルスーツについてどう思いますか?」
俺はウェルズのテンションに圧され気味になりつつ、答える。
「モビルスーツ?いっとくけど俺は『種』派だぜ?」
「『種』派ですかぁ。いいですねぇ。私は「宇宙世紀」派なんですが、アナザーの中でも、種は認めてるんですよ。」
「だよなぁ、アレは宇宙世紀のオマージュでもあるからなぁ。」
「そうそう、宇宙世紀派の中でも、特に根強くて頑固な懐古派が唯一認めている作品ですからねぇ。特に劇場版は素晴らしかったです。」
「だよなぁ!」
「アナザーにも素晴らしい作品は多い。」
ボソッと呟くスヴェンにウェルズがすかさず反論する。
「アナザーが、何でもかんでもガン○ムを出しすぎなんですよ。敵も味方もガ○ダム、ガンダ○……節操がなさすぎなのです。」
「それぞれに特徴があるんだよ。みんな違ってみんないい、んだよ。」
「いや。だからね……。」
「それはそうだけど……。」
「なんといってもラスト……。」
ついつい、モビルスーツについて盛り上がる俺とウェルズとスヴェン。
「あー、盛り上がってるとこわるいんだが?」
横から口を挟んでくるマイケル。
「アッと、これはこれは申し訳ありません。ついつい話が弾みまして。」
にこやかに頭を下げるウェルズ。
そして……。
「どうぞこちらへ。」
と、奥へと案内される。
「すげぇ……。」
「飛行機……いや、ロボット??」
案内された奥の広間には、ずらり、と機械……いや『兵器』が並んでいる。
表にあったのが、各パーツ類の『部品』とするなら、ここに並んでいるのは『完成品』だ。
「色々試行錯誤したのですがね……「昆虫」が一番バランスがとりやすかったんですよ。」
『兵器』であれば、安価で大量に、しかも誰にでも簡単に使える、という事が望まれる。
色々な装備や機能を盛り込んだ、「専用機」や「プロトタイプ」は大量生産に向かない上汎用的ではない。
戦いは数なのだ。100の戦力を持つ専用機1機より、10の戦力の汎用機100機なのだ。
勿論、コストや扱いが変わらず、戦力が30になるのであればそれに越したことは無いのだが。
だからウェルズは試行錯誤の末、誰でも簡単に扱える、マギアグレイヴ量産機の第一弾として、目の前の「兵器」を完成させたという。
見た目は甲虫類……と言うか殆どゴキ○リ。カラーが完全な黒ではなく青みがかっているのだけが救いか。
外甲殻は、魔獣の中でも比較的手に入りやすい、ハードディア―の革をベースに加工しているので、大人が5人もいれば持ち上げられるぐらいには軽い。
このゴ○ブリ、青みがかっているのが、空戦部隊で、緑がかっているのが陸戦部隊らしい。
共に、動力は魔石で搭載兵器は火属性魔法のフレアボム。
乗員は5人から8人で、そのうち3人は魔術師が必要とのことで、その内訳は、魔石に魔力を流し、コントロールする係(操縦者)・フレアボムのコントロール係(砲術者)そのほかの魔力及び魔石の魔力をコントロールし、全体を見極める係(指揮者)だそうだ。
乗員5人の内残り二人は魔術師でなくてもいいが、内包魔力が強いほど、扱うエネルギーに余裕が出来て、持てるポテンシャルを十全に発揮できるという。
これ等の事が、「魔導兵器」と呼ばれる由縁だとか。
この魔導兵器、外甲殻は、流した魔力量が多ければ多いほど、軽く、堅くなる性質を持っていて、8人の魔術師が乗った、○キブリの外甲殻は、宮廷魔術師であっても、一人の魔力では傷一つつけれないほど固くなるという。
「昨日色々聞いたんだけどよぉ、この世界の主力って騎馬隊なわけだろ?その中に、重戦車と爆撃機を導入するって、戦争にならんだろ?」
マイケルがそう呟く。
その通りだ。これだけの数の魔導兵器……マギア・グレイヴを持っているドランであれば、周辺諸国を平定するのは容易いだろうな。
「まぁ、普通ならそうでしょうね。」
ウェルズが苦笑する。
「べラムさんからこの国を取り巻く情勢は言聞いてますか?」
「あぁ」と俺達は頷く。
「つまりはそう言う事です。この技術が各国に流れていましてねぇ。我が国が開発したものですから、一日の長があるとはいえ、技術の進化は日進月歩、我々もうかうかしては居られないという訳ですよ。」
そう言ってさらに奥に在る場所へ案内してくれる。
「完成までもう少しかかるんですけどね……。「ゼクト」タイプです。」
そう言って見せてくれたのは、先程迄のゴキブ○とは、まったく違ったフォルムのマギア・グレイヴ。
いうなれば、昆虫を機械化や擬人化した、と言えば分かりやすいだろうか?
一番手前にあるのが芋虫に大砲をつけたようなマギアグレイヴが「ゼクト・タンカー」。一応上体を起こして、手に何かを持つような直立型もとれるが、芋虫のように這いながら、後方より大砲を打つ方がしっくりと来る。
その向こうに並んでいるのが、コガネムシを擬人化した様なずんぐりとしたフォルムの人型マギアグレイヴが「ゼクト・アーマード」。
その手は普段は砲塔になっていて、フレアボムが放てるようになっている。
また、マニピュレーター操作で剣などの得物を握ることも出来る。
その装甲の堅さ故、担う役割はタンクだろう。
その横に並んでいるのが、「ゼクト・ガンナー」
アーマードの両肩に大砲をつけたような感じだが、その胸部装甲の中にも銃身が詰め込まれていて、すべての銃身から全弾射出する「フルバーストアタック」の前には、アーマードなど紙くず同然に吹き飛ばしたという。
「そして、最後にこちらが『ゼクト・スラッシャー』です。」
さらに奥に隠れている機体に光を当てる。
まだ、完成していないという通り、内骨格がむき出しになっており、非常にメカメカしい。
他のゼクトシリーズより細身のようだ。
「スラッシャーのコンセプトは、格用タイプですね。騎士の様に剣を持ち、前線に突入して剣を振るう……いわばフラッグシップ的な役割を持つ機体です。」
「これらの問題は異常に魔力を喰う事ですね。だからとりあえずは魔力値が高い異世界からの召喚者が必要だったという訳ですよ。」
ウェルズが言うには、ゆくゆくは魔力増幅装置などを加えて、一般の騎士でも動かせるようにするのが最終目標だという。
因みにべラムは、アーマードは動かせるが、ガンナーは無理だとか。
結局その日は、代わる代わる、ゼクトシリーズを動かして、マギア・グレイヴの慣熟操作だけで一日が終わったのだった。
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