第46話 アリシア3

「俺が相手してやるよ!」


目の前で訓練用の木剣をくるくると弄びながら男が言う。


脳筋ソルトだ。


剣闘術の実技試験の初日、先生は「とりあえずの実力を見る為に摸擬戦を行う」といった。

そしてその第一試合に私を指名してきたのはいいんだけど、ここで予想外の出来事が。


……誰も、私の相手をしようとしてくれなかったのね?

別にいいんだけど、コレってイジメじゃないの?


そう思っていたら声を掛けてきたのが、今目の前にいる脳筋のソルト。


バカだと思ってたけど、イジメられている私を助けるために、声を掛けてくれるなんて、いい奴なのかも?と私は考えを改めた。


「はんっ!お前がレベル125なんて俺は信じちゃいねぇ。大体碌に剣の構えも知らないくせに、戦えるのかぁ?ほら、かかって来いよっつ!俺が化けの皮をはがしてやるぜっ!」


……どうしよ。いい奴カかもと思ったけど、単なるバカなのかもしれない。


大体、私が剣の構え方を知らないのは仕方がない事。誰からも習ったことないもの。


でも、構えなど知らなくても、素手よりは楽に魔物を倒せることも知っている。


だから、正式な剣術を習うことが出来れば、もっろ楽に倒せるだろう、と、この授業も期待してたのに……。


「あの、先生……。」


「どうした?相手の変更は認めんぞ?」


「いえ、あの……こう言うの初めてで……手加減の仕方が分からなくて……手加減ってどうやるんですか?」


私の言葉に、ソルトが目をむき、顔を真っ赤にして怒鳴る。


「バカにしやがってっ!」


冗談から振り下ろされる木剣……当たったら痛いだろうなぁ。


そう思った私は、寸でのところで躱し、持っている木剣をほんの少しだけ、振って、彼の背中に当てる。


……誓って言うけど、本当の本当に、ちょっとあてただけだよ?


領地のダンジョン一階層にうじゃうじゃいる、雑魚のエンペラーゴブリンでも、余裕で、当たった個所をぼりぼり掻いていそうな程度の、弱い一撃。


だけど……。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………。」


何故かソルトは訓練場を飛び越えて遠くまで跳んで行ってしまったの。……大袈裟過ぎないかな?


結局、授業は中断、自習となったけど、誰も私の相手をしてくれないので、私は一人淋しく木剣で素振りをするしかなかったのよ。



トラブルはこれだけじゃなかった。


次の授業、魔法実践。


インテリ眼鏡のラーズ君が、火風土水それぞれの初級魔法を、先生の用意した的に当てて、フッと格好をつけていた。


私は知らなかったけど、3つ以上の属性魔法を使える者は稀なんだそうで、A級魔導師の先生も、使える属性は、水と風の2種のみなんだとか。


ラーズ君が何気なさを装いながら、称賛を浴びて鼻高々になっているのがよくわかる。


「アリシアさん、あなたの番ですよ?」


先生がそう告げる。


……あ~、やっぱりここで本気出したらマズいんだろうなぁ。


さっきの剣闘術の授業が思い起こされる。


「ふっ、レベル125だなんて見栄を張ったキミの実力を見せてもらおうじゃないか。」


ラーズ君がニヤニヤしながらそう言ってくるけど……。


「あの、先生……この的壊したらマズいですよね?」


一応そう聞いてみると、先生は頬をヒクつかせながら「宮廷魔導士の師匠でも壊すのは一苦労する様な的だから、大丈夫よ」と言ってくる。


でもそれって、裏を返せば相当お高いって事でしょ?


私は困って、何かうまい言い訳がないか、キョロキョロを辺りを見回す。


「ふんっ!言い訳して誤魔化すつもりか、、アリシア・ノリス」


そう言ってやってきたのはイケメン王子エドワード。


「今ここで、「私はうそつきです、ゴメンナサイ」と謝罪すれば、学園の退学だけで許してやるぞ。」


エドワードが馬鹿にしたような顔でそう言う。


顔がイケメンだけに、その言い方にカチンとくる。


『そうだ、イケメンは敵だ!』


頭の中にそんなもjも浮かび上がってくる。


うん、イケメンは敵だよね。


とはいえ、相手は王子様、さすがに傷つけるわけにもいかないし……。


「私は嘘など申しておりません。ただ高価な的を壊してしまって弁償させられたら困るって言ってるのです。」


「ふんっ!お前が壊せるわけなかろう!」


そう言って王子は剣を抜き刀身に火を纏わせて的に向かって振り下ろす。


的には数ミリの傷が残され、見ている間に自動修復していく。


「見たか、レベル15の私の魔法剣でも、この程度がやっとなのだ。嘘つきの其方に壊せるわけがなかろう。遠路せず全力でやるがよい。」


エドワードが自慢げに言う。


でもねぇ……。


「あの……私が全力で魔法をここで放つと、的だけでなく、向こうのお城にも被害が行くと思うんです。」


私は的の向こうに広がる景色を見る。

ここからは丁度、お城の外郭にあたる塔が見える。

私がこんな所で全力……イヤ半分以下の力でも、魔法を放つと、的を突き抜けて、あの塔まで被害が及ぶことは間違いない。

……それぐらいの判別はつくんだよ?


「ハハッ、言うに事欠いて、そんなたわごとを。出来るならやってもらいましょうか。エドもそう思うでしょう?」


ラーズ君がそんな事を言うけど、無責任なこと言わないで欲しいな。


「あぁ、大言壮語もここまでくれば立派なものだな。」


「いや、あの……、だからね、後で賠償だとか、責任取れとか言われても困るんですが?」


「フンッ!そこまで言うならやってみるといい。なに、責任は俺が持つ……そうせそんな事できないだろうけどな。ただし、そこまで言うからには、出来なかった時の覚悟はできてるんだろうなっ!」


……あ~、なんか、もうどうでもいいかぁ。


「弁償なんか、絶対しませんからね。」


私は右手を的へ向ける。


手のひらに集まるマナの塊。


周囲のマナを取り込んで一か所に集め、体内の魔力を操作して属性を与える。


光と闇の相反する属性。


陽電子と電子、粒子と反粒子……相反する物質がぶつかり合えば、対消滅を起こし膨大なエネルギーが発生する。


マナの属性もしかり。光がプラスの陽電子なら、闇はマイナスの電子……相反する属性をぶつけた時のエネルギーを拡散しないように方向性を定める


魔法はイメージ。マナをどのように変化させるか?望む改変に対して、どのようにマナを扱うか……このイメージが出来るか出来ないかだけで威力は数百倍もの差が出る。


対消滅のエネルギーを内包した小さな球体。触れるものを全て分解して対消滅の連鎖を引き起こす究極の弾丸。


こんなのに魔六を注ぎ過ぎたら、冗談じゃなくこの国が消滅する。だから、籠める魔力はほんの少し……。


「プチ、シャドウフレア……。」


私の言葉と共に、小指の爪ほどの大きさの球体が的へ向かって飛んでいく。


「ハハッ、なんだその小さな……なっ!」


エドワードが馬鹿にしたように笑い……その笑顔が引きつる。


私の放った球が的に触れると一瞬にして塵に代え、そして、遠くに見える城の塔が……消滅した。


「これで満足ですか?…じゃぁ、私はこれで……。」


私は、エドワードに一礼すると、その場を立ち去ろうとする。


「ま、待って、どこ行くの。まだ授業はおわってませんよっ!」


先生がそう言うけど……。


「だって、私退学でしょ?王子様がそう望んでるし、後、いくら王子様が責任を持つって言ったって、流石にお城壊したらお咎めなしってわけにもいかないでしょ?」


そう、色々言われて面倒毎に巻き込まれる前に、逃げるに限るのだ。


私はそう考えながら、国を出るために学園を後にした。

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