第47話 アリシア4

「止まれ!」


アリシアの前に兵士たちが立ちふさがる。


……意外と早いのね。


アリシアは、そんなことを考える。


仕方がなかったとはいえ、王宮の一部を吹き飛ばしたんだ、早々に呼び出しがかかることは覚悟していた。


……だから、その前に逃げ出したかったんだけどね。


「アリシア様、いったい何をしでかしたんですか?」


供についているネリィが、そう聞いてくる。


「……私が悪いこと前提なのね?冤罪とか、巻き込まれたとか、そういう可能性は考えないのかな?」


「巻き込まれたのであれば、気っと、アリシア様はもっと大きな騒動にするはずですし、冤罪を受けて今こうしてのんびりしているのであれば、関係者各位に膨大な被害をもたらした後でしょうから、こうなっていても不思議じゃありませんから。』


さすが幼いころからの側仕え、よくわかってらっしゃる。


「で、アリシア様、何をしたんですか?」


「……王宮を吹っ飛ばした。」


仕方がなくそう答える。


「……アリシア様、おとなしく出頭して御免なさいしましょう。私もいっしょに行きますから、ねっ?」


ネリィはアリシアが何かしたことを確信しているが、さすがに王宮を吹っ飛ばしたとまでは思っていなかった。


……でも、それに近いところまでやらかしたんでしょうね。


「なんか失礼ね?私が悪いって決めつけているけど、本当に悪いのは相手方よ?」


「それはそうなのでしょうが……では、なぜ逃げだそうとしてるのですか?」


「……面倒なに巻き込まれるのイヤだったし……。」


ネリィもそれ以上は言うのをやめた。


主人であるアリシアは、口下手故に誤解を受けやすく、そのせいで受けなくてもいい傷をまともに受けとめては、落ち込む繊細な心の持ち主であることをよくわかっているから。


だから、ネリィはこんな時、「アリシア様には私がついていないと」と、強く思うのだった。


とはいうものの、今はこの場を何とかすることの方が先だ。


ネリィはアリシアをかばうように一歩前に進み出て、隊長格の男に問いかける。


「私たちに何の用です?」


「そちらの、アリシア嬢には、王宮からの出頭命令が出ている。我らとともに来てもらおうか?」


「でも、アリシア様には、王宮からの呼び出しに心当たりはない、と言ってますよ……たぶん。」


ネリィの言葉に、兵士たちは顔を見合わせる。


「ネリィ……吹き飛ばそ?」


包囲したまま動こうとしない兵士たちを見て、めんどくさくなった私はそう言うんだけど……。


「ま、待ってください、アリシア様っ!は、話せばわかりますっ。同じ人間なんですから、気っと分かり合えるはずですっ!」


必死になって止めるネリィ。その向こうでは、兵士たちが青ざめながらも、うんうんと頷いている。


「話せば……本当にわかるのかしら?」


私の頭の中には、学園で出会った、脳筋とインテリとイケメンの顔が思い浮かぶ。


「あのね、ネリィ……。」


私はたどたどしく、脳筋ソルトの態度や、インテリラーズの言動、そしてイケメンエドワードにされたことをかいつまんで話す。


「……だからね、本当にわかるのかなって、最近疑問なの。」


私がそう話すと、ネリィは頭を抱える。


「あのですねぇ、その三人の頭も十分ユルですけど、アリシア様も、自分が規格外ってことを自覚してくださいよっ!っていうか、なんです?幼少期から魔物退治って!私聞いてませんよっ!いつも姿を晦ましてたと思ったらそんなことしてたんですかっ!ちょっと、そこに正座ですっ!」


なぜか私は、その場に正座させられ、ネリィのお説教を1時間にわたって聞く羽目になった。


お説教が終わったのは、周りに野次馬ができて、これ以上は色々問題が大きくなりすぎると判断した、兵士の隊長さんが「続きは王宮で」と、止めに入ってくれたおかげだった。


隊長さんには、後で感謝のしるしを贈らないとね。


結局、逃げ出す前に私は王様と謁見することになったのだけど……。



「誠に申し訳ないっ!」


私の目の前で、国王が深々と頭を下げている。


……これって、あまりよろしくないヤツでゎ……。


私の予想通り、あまり……というか、かなりよろしくないらしく、国王の側近が慌てて人払いを始めている。


……いや、先に払っておこうよ。


とはいっても、まさか国王様が頭を下げるとは、ここにいる誰もが思ってもなかったんだろうなぁ。


「え、えっと、とりあえず、頭を上げてください……。」


私がオロオロとしながらそう言うと、国王様はゆっくりを頭を上げ、少しだけ、にやりと笑う。


……これ、計算だったんだ。


私はしてやられた、と臍を噛むが仕方がない。


「うぅ…………。」


私が国王をジト目で睨みつけると、国王はくつくつと笑いながら口を開いた。


「まぁ、そう言うな。こうでもしなければ、お前は全く私の話を聞こうとしないだろ?」


それを言われると何も言えないから、始末に負えない。


私がむうっと頬を膨らませると、国王は更に笑みを深めて再び口を開く。


「それで……一応聞くが、お前はこの国を捨てるつもりなのか?」


国王の言葉に、私はじっと黙り込む。


国王も何も言わず、私の答えを待っている。


「わ、私が……逃げようと思ったのは……この国に居られないと……いたら迷惑がかかると……思ったから……。」


私は、しどろもどろになりながら、なんとか言葉を紡ぐ。


「はぁ……エドワードたちのせいか……。」


国王の言葉に、私はコクンと頷く。


「わかった。そなたの出国を許可する。」


「えっ?」


国王の言葉に、私だけでなく、周りの人たちも唖然とする。


「聞けば、そなたには常識が足りぬようだ。冒険者として、各地を回り、見分を広げるがよい。」


そして……と、国王は言葉をつづける。


「そなたには、儂からの侘びとして、エドワードたちを護衛としてつけよう。」


「それ、なんの嫌がらせですか?」


思わず突っ込む私。


いや、私、別に護衛なんていらないし。


というか、あの三人と一緒って、拷問以外の何物でもない。


「嫌がらせではない。まぁ、簡単に言えば、あの三人にはもっと広く世界を見てもらわなければ、将来の国を担うものとして大変困るのだ。かといって、あの調子では、下手に外に出せぬであろう?」


……国王様の言いたいことはわかる。つまり、私の護衛じゃなく、私が護衛……というか世話係をしろと言ってるようなものだ。


「うぅぅ……。」


じろりと国王様を睨みつける。


「ふむ、なんなら、エドワードの婚約者として発表しようか?」


「オウジサマノオセワガカリ……アリガタク、ハイメイシマスノデ、ソレダケハカンベンシテクダサイ。」


私は国王の言葉に渋々頷いたのだった。


まぁ、支度金として、かなりの金貨をいただいたので、今日はネリィとごちそうを食べて憂さ晴らしでもしよう。


そう思うアリシアだった。


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