第45話 アリシア2
ちゅんちゅんちゅん……。
小鳥の囀りで目を覚ます。
……眠い。
流石は王族も出入りすることがある王立学院なだけあって、学生寮の調度品も1級品のものが取り揃えてある。
ベッドもしかり。おかげで、寝つきが悪い。
……もう少し粗末なぐらいが安心できるんだけどね。
……それにしても、今日から授業が始まるのかぁ……。
生まれて皓方、授業というものを受けた事が無い私は、とても楽しみであった。
ただ、実技になると、当然、あの三バカに絡まれるのだろうと思うと、憂鬱な気分にもなる。
私は、楽しさと憂鬱さを半々に抱えながら学園へと向かうのだった。
◇
教室に入ると、すでにいくつかのグループが出来あがっていて、思い思いのおしゃべりに興じているが、私の姿を見ると、一瞬だけ静まり返る。
しかs、私が、何一つしゃべる事無く、定められた席に着くと、室内は、何事もなかったかのようにざわめきを取り戻す。
そして、当然の如く、私に近づいて来るものはいない。
『ボッチかぁ……』
いつもの頭の中に文字が浮かび上がる。
ボッチとは、友達も仲間もいない一人だけの状態を指し示す言葉らしい。
……この状態から脱却するには?
私が頭の中で考えると暫くしてから……
『困っている人を助ける……とか?』
そんな文言が浮かび上がる。
……困っている人ねぇ……。
私は周りを見回す。
皆それぞれに、楽し気におしゃべりをしていて、困っている人は、一見見当たらない。
しいて言えば、私が一人ぼっちで困っている、といったところだ。
私は仕方がなく、隣に座る眼鏡をかけた男の子に声を掛ける。
「ねぇ、何か困ってることない?」
「……キミみたいな子に話しかけられて困っているよ。」
その男の子は、ぶすっといった感じでそう答える。
よくよく見て見れば、昨日のインテリ眼鏡だった。
「あ、そ……。」
どうやら、私とは口もききたくないようだった。
私は仕方がなく、黙って授業が始まるのを待つのだった。
◇
「……であるからして、魔法とは世界の事象を改変する力であり、その力の源は、体内に蓄えられたマナの総量が……。」
今は魔法概論の授業。
教壇に立つのは、若い女性講師。なんでも、王宮に努めている魔導師団の一員なんだって。
魔導士にもランクがあって、王宮の魔導師団に属するにはA級以上の実力がないと無理なんだとか。
つまり、教壇に立つ女性は、少なくともA級以上の実力者で、リエリート中のエリートという訳だ。
そんなエリートさんに直接教えてもらえるなんて、と、隣のインテリ眼鏡さんは食い入るように授業を受けているのだけど……。
私は授業を受けながら、幾つかの疑問ついて考えてみる。
私にとって魔法とは未知なる領域であり、頭のに浮かぶ言葉にも、魔法については推測以上の事は浮かんでこない。
だから、屋敷にあった数少ない書物からの知識と、実際に使ってみて、検証してみた結果から導き出される推測だけが、私にとっての魔法概論……と言うか魔法事実?
……Aという行動をしたら、常にBという結果が出る。Aという行動にCという工程を加えたら、BではなくDという結果となった。
これが私の知っていること。でもどうしてそうなるのかが分からない。
だから、私はこの授業を楽しみにしていた。なのに……。
「つまり、人には生まれつき備わっている属性があり……。」
「魔法を行使するためには、体内のマナの流れを……。」
「ルーンという言葉に魔力を込めて……。」
教壇の女性が次々と説明していくが、どれも疑問に思う事ばかりだ。
例えば、『魔法はマナを使用して事象の改変を行う……。』のくだり。
これは確かにそうなのだろう。そして、改変に伴うのは等価交換という事。
ここまでは紛れもない事実だ。私の検証でも同じ結果が出ている。
だけど、その等価交換のもとになるマナの存在。
「改変に使用するマナは己の体内から……」というあたりからが私の検証結果と異なる。
教師の話をそのまま鵜呑みにすれば、例えば水属性のクリエイトウォーターだけど、体内に内包するマナを「水」という物質に変換させて体外へ放出する、というもの。
だから、一度に出せる水の量は樽一杯程度。もちろん個人差があるので、コップ一杯が限界という人もいれば大樽5杯いけるという人もいる。
水というのが大変分かりやすいこともあり、個人の魔力量の判別を行う際「一度に出せる水が○○」というのを基準にしている場合もあるという事なのだが、それが本当であれば、魔導書に矛盾が生じる。
魔導書に記載されている上級魔法は、どれも、個人の体内に内包している魔力量では、絶対足りない問うものばかりだからだ。
例えば、分かりやすく、水属性の魔法を上げるとすると、上級魔法のダイダルウェイヴ。
これは大量の水が津波の如く押し寄せ、その場の全てを飲み込み押し流すというもの。
その際の水量は大樽なんかでは計り知れない膨大な水量の筈。そんなのが一個人のマナで賄える筈がない。
だったら、上級魔法は机上の空論で、実際には使えないのか?というとそうでも無い。
私は10歳の時にこの疑問にぶち当たり、試行錯誤してみたのだ。
結果……使えちゃったんだよね。
その時使ったのはダイダルウェイヴじゃないけど、同等かそれ以上の魔法。
お陰で、あの辺境で、「謎のクレーター」が出来ちゃって、一時期大騒ぎになったのよねぇ……。
あの時の私は、それだけの事象の改変を起こすことのできるマナを内包していなかった。
だから別の方法を使ったんだけど……。
授業を聞いている限り、上級魔法は基本的には人族が圧会えるものではなく、魔族を始めとした、魔法に特化した種族が扱うものであり、人族が上級魔法を行使するには、増幅と軽減効果のある詠唱や
実際に検証した私からしてみれば、その解釈は間違ってると思うんだけど……。
うん、何も言わない方がいいよね。
ここで、何か言えば、また昨日みたいな騒ぎになっちゃうし。
私はここの学園生活を何事もなく平穏に過ごしたいのだ。
父親に言われた婿探しなどには興味ないけど、恋愛の一つぐらいは体験してみたいし、何より、友達が欲しい!
魔法を打ち合ってふざけ合ったり、どっちが多くの魔物を倒せるかを競い合ったり、ダンジョン攻略のタイムアタックで競い合ったり……など、友達が出来たらやってみたい妄想が膨らんでいく。
今まで一人で殺伐としてきたレベル上げも、友達と一緒なら楽しいんだろうなぁ……なんて考えていたんだけどね……。
トラブルは、お昼からの実技試験で起きたのよ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……ちょっと、何かないわけ?」
アスカが苛立しげに聞いてくる。
ここに捕らえられてすでに2時間以上……。途中、様子を見に来た男がいたが、俺達が大人しくしているのを見て、そのまま去って行ったっきり、誰も現れない。
「なにかって言われてもなぁ……。」
「あなた、あのロリから色々授かってるんでしょ?こういう時に助かる様なギフトないの?」
「そうは言ってもなぁ……。でも、ここで活躍しないと、主人公の座がヤバい気がする…………。」
俺はゴソゴソと動き、なんとかアスカと向かい合うことに成功する。
「また訳の分からないことを……ってどうしてこっち向くのよっ!」
多少の余裕があるものの、俺とアスカは一緒くたに縛られている。向かい合わせになれば、当然アスカの顔が間近になる。
「仕方がないだろ。それに何とかしろといったのはお前だぞ。」
俺は苦労して縛られている両腕の間にアスカを収めることに成功する。これで俺の手は後ろ手に縛られているアスカの手首に届く。
「ちょ、ちょッと……。」
アスカが顔を赤らめる。……まぁ、向かい合って抱きしめてるわけだから、仕方がないだろう。
それより……。
俺は彼女との間にある大いなるふくらみに感動している。
このふくらみのおかげで、彼女との間に隙間が出来ているのだ。
そしてその膨らみは、今は限界一杯まで俺の胸に押しつぶされながらも、質量を保っている。
……柔らかい。
このまま、その膨らみに顔を埋めたくなるのだが、体勢的に不可能だ。
代わりに、俺の胸にアスカが顔を埋めている……これはこれで、何と言うか……。
俺の腕の中で女の子が身を寄せている。
人生初めてのシチュエーション……。
顔を赤らめながら身を委ねているアスカは、大変魅力的で庇護欲をそそる。
俺は、アスカの腕の戒めをほどくのも忘れ、今の幸せに浸るのだった……。
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