第44話 ある国での出来事??

「れ、レベル125だとっ!!」


目の前にいる査問官の声が震えている。


あまりにもビックリしたせいか、大きな声で叫んでいるが、やめて欲しい。


個人情報ダダ漏れじゃないですか。


ほら、周りの生徒達も、パニックを起こしているじゃない。


「う、嘘だ嘘だ嘘だっ!貴様、なにかズルをしてるんだろっ!」


そう叫ぶのは赤い髪を角刈りにした、体格のいい男。


……確か、ソルトって言ってたっけ?


如何にも「脳筋です!」といった体力バカ、っていうのが私の第一印象。


「そうです、きっとなにか不正な方法で、レベルを誤魔化しているに違いないですね。フッ、しかしレベル125とは。いくらなんでもありえないでしょう。そんなことも知らないのですか。」


眼鏡をクイッと動かしながら言う、このインテリメガネはラーズ……だっけ?


そんな、誤魔化す方法があるなら教えてほしいわよ。そうすればレベル5とかにしておいたのに。


「フッ、君のことは聞いてるよ。ノリス家の三女、母親が平民の、戯れにできた娘だそうじゃないか。こんなズルまでして認められたかったのかい?」


イケメンがよくやる、前髪をファサッとかきあげているのは、この国の第三王子、エドワード。金髪碧眼のイケメンだ。


だから、人のうちの事情を、こんな公の場でバラさないでほしいんだけど。


私の名前は、アリシア・ノリス。


この国……ミッドガルズ王国の貴族、ノリス準男爵家の三女。


ここは、王都ミズドにある王立高等学院のホールなんだけど、今日ここで学院の入学式があったの。


入学式には『裁定の儀』と呼ばれる儀式があって……。


これは何かというと、その人の資質を紐解いて進むべき道を示すというもので……簡単に言えば、その人のレベルやスキルなどを測って適切なジョブを示すっていうものなの。


このミッドガルズ王国では、全国民は7歳になると『洗礼の儀』というのを受けるの。


この時は、剣士の才能とか、魔法使いの才能とか言った、その人に女神様から与えられたギフトが開示されるのね。


もちろん、穴掘りの才能とか、糸巻きの才能といったような役に立ちそうもないモノや、才能がない、と言われる人もそれなりにいるんだけどね。


そして、7歳を迎えた子供たちは、王立幼年学校に入学し、12歳まで初等教育を受けることになるの。そこで皆は、読み書きや算術などの基本的な学問を教えて貰いながら、自らの才能を伸ばす努力をするの。


12歳になって、幼年学校を卒業したら、希望するものは中等学校へ進学することもできるけど、進学するのはほとんど貴族の子女ばかりで、平民が進学するのはよほどの金持ちか、特殊な才能の持ち主ぐらいなのよ。


そして、成人を迎える15歳になると、この王立高等学院への入学が許されるんだけど、ここはいわば社交の場。


自らの才能を伸ばすべく、勉学に訓練に励む人も居るけど、殆どが将来どの貴族の派閥につくかを見極め、今のうちから縁を結んでおこうという者たちがほとんど。


逆にエドワードのような王族や、高位貴族にしてみれば、将来自分を支えてくれる有能な配下を探す場所でもある。


また、女子に至っては、将来有望な婿探しの場でしか無い。


そんなところに私が入学したのも、父の命令で婿探しをするため……何だけど、ハッキリ言って気乗りがしないのよね。


私は、怒りと侮蔑の目で見る3人の男たちを見る。


外見は上等な部類に入るイケメンだけど、中身が残念じゃねぇ。


『まるで乙女ゲーの登場人物だな。』


不意に頭の中に、そんな言葉が浮かぶ。


私の隠された秘密、その1。


こうして時々理由のわからない言葉や知識が浮かび上がるの。


私がその事に気づいたのは、1歳になるかならないかという頃。


侍女がいつものようにろうそくに火をつけるのを見て、突然『魔法だつ!』っていう言葉が頭の中に浮かんだのよ。


そりゃあね、パニックだったわよ。こっちは碌に言葉も知識も何もかも分からない赤ん坊よ?


だけどね、なんだかすぅっと、当たり前のように、その異常さを受け入れたのよねぇ。


そうしたら、それからの私は、精神的に成熟しちゃって、言葉を覚えるのも早かったし、とにかく自由にならない身体を鍛える事に夢中になったのよ。


言葉がわかるようになると、私は侍女に何でもかんでも質問を繰り返したの。


当時の私は、気味悪がられることより、自分の知識欲を優先してたってわけ。


結果として、3歳になる頃には、家の中の誰もが遠巻きに見つめるだけで、誰も私に近寄らなくなったわ。


ただ一人、10歳になる側近のソフィーだけが私の唯一の話し相手だった。


彼女は、私の質問にいやな顔一つせず、何でも答えてくれたわ。


分からないことがあると、調べてきてくれてその結果を教えてくれる、とても優秀な先生だった。


だけど、私が5歳になると、いつの間にか姿を消してしまった。


他の侍女たちの話によれば、クビになったのだという。


この頃になると、私は自分の置かれている環境がわかるようになっていた。


私の住んでいるところは、辺境にあるノリス家の領地の中でも、更に辺境に位置する、果ての果てにある見捨てられた土地。


周りの森には、凶悪な魔獣が住んでおりダンジョンも近くにあるという。


人々は魔獣に怯えながら、狭い土地を耕し細々と毎日を生きている。


そんな場所に建てられた領主の別荘が私の住処。


私が生まれてすぐに、母は亡くなり、領主はそれ以前からこの別荘に足を踏み入れたこともない。


そんな見捨てられた土地に住む見捨てられた娘が、私、アリシア・ノリス。


その事にお着いて思う所はあっても、特に恨む気はない。


独りぼっちだったけど、その分自由に育つことが出来たからね。


家のものも誰も近寄らないから、私は毎日のように森へ入り身体を鍛え、魔法の練習をした。


魔獣が多く住まう魔の森だから、練習相手には事欠かなかったし、魔物から、魔石や素材などを数多く手に入れることも出来た。


そして何より、亜空間収納という便利な魔法を覚えることが出来たのは、凄くラッキーだったよ。


魔物倒してもね、魔石や素材を持ち帰るのにすごく苦労して……。特にお肉なんか腐っちゃうでしょ?


どうしたもんかと悩んでいると、いつものように『亜空間収納』という言葉が浮かんできたのよ。


この勝手に浮かぶ言葉を、意識的に考察してみると知識が自分の中に流れ込んでくるのね。


亜空間収納とは、ここじゃない別の空間にモノをしまっておく魔法で、その中に入れたものは時が止まるから、いつでも新鮮なんだって。


これ、魔法に限らず、私が本で読んだ知識にはない事が数多くあるんだけど、周りに誰もいないから、それが正しい事なのかどうかの検証は出来ないんだけどね。 


それでも、他にやり様はないから、亜空間収納についての知識を得た後、試行錯誤をしてたら、習得しちゃったのですよ。

しかも、容量の限界はいまだ見えず。おかげで、私の亜空間収納の中には色々なものが詰まってたりするんだけどね。


ま、そんな感じで5歳の頃から10年にわたって、好き放題やってきたから、レベルが高くなっているのは当たり前なんだけどね、そっかぁ、いつの間にか125になってたのかぁ……。



「オイっ、聞いてるのかっ!」


ソルトの怒声に我に返る私。


「あ、聞いてなかったよ。何だっけ?」


いかんいかん、独りぼっちが長かったせいで、いつでもどこでも思考に耽る癖がついちゃってるから。


うん、人の話はちゃんと聞こう。


「だからっ!お前みたいなズル野郎は許せねぇって言ってるんだよっ!」


「あー、はいはい、何かの間違いですよねぇ。魔道具の故障ですかねぇ?レベル5ぐらいなら問題ないですかぁ?」


面倒くさくなって、適当に受け答えしたら、余計に怒らせたようだ。


……ほんと、めんどくさ。どないせいっちゅうねん。


結局、その場は、駆け付けた学園長の仲裁により、事なきを得ることになったのだけど、学園長が私を見る目はとても気持ち悪かった。


……まぁ、いいや。面倒なことになったらこの国から逃げ出せばいいんだしね。


元々、放置されていた私は、この学園に通う事はなかったのだ。


実際7歳の洗礼の儀も受けてないし、皆が通うという幼年学校にも通っていなかった。

だから当然中等部に進学などもありえなかったし、15歳になって成人となった今、真面目に、屋敷から逃げ出してよその国に行くことも考えていたのだ。


そんな私が今学園にいるのは、顔も見たことのない父の命令。


年頃になった娘を思い出したのか、学園で、少しでも行為の貴族の男と仲良くなるように、と書かれた手紙と一緒に添えられていた入学の書類。


まぁ、当主には逆らえないから、こうして学園に来たけど、退学にさせられたなら、仕方がないよね?


そんな感じで、私の学園生活1日目は、波乱の幕開けで始まったのだった……けど、明日から憂鬱だなぁ……。



◇ ◇ ◇


「カズト動かないでってばっ!」


「わ、悪い。だけど、今凄く嫌な感じがして……」


俺はアスカに謝る。


アスカと一纏めに縛られ放置されてから、1時間が経とうとしているが、未だ変化はなく、ただ時間だけが過ぎ去っていく。


「いやな感じって?」


他にやることがないためか、アスカが聞いてくる。


「いや、な、なんか俺の主人公の座が奪われるような、そんなイヤな感じが……。」


「アンタバカなの?」


俺の言葉をアスカが一刀両断に切り捨てる。


「大体アナタが主人公って、何勘違いしてるの?」


……いや、あの……。


「俺の中では俺が主人公なんだよっ!」


「あっ、そ。」


俺の言葉におアスカは短く答えるとそれっきり黙ってしまう。


……うぅ……沈黙が辛すぎる。


俺は嫌な予感を覚えつつ、現状から逃れる術を考えるのだった。






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