第43話 スローなライフの二人旅……の筈だったのになぁ……
ちゅんちゅんちゅん……
小鳥のさえずりで目を覚ます。
昨日の朝早く、住み慣れた村を出て、俺は美少女で胸の大きいアスカと二人旅に出た。
特に行き先を決めないまま、気の向くままに歩き出し、適当に目についたこの街で宿を取り、当然同じ部屋で同じベッドで寝て、こうして朝を迎えた。
分かるだろ?
つまり今俺の腕の中では、可愛い可愛い子ネコちゃんが、身体を丸めて眠っているという訳さ。
そしてしばらくすれば、目を覚まして……
「おはよ、……ちゅっ。」
……なんて、モーニングキスをしてくれたりするわけだ。
そんな可愛い事されたら、俺の若きリビドーが黙っているはずもなく、起きぬけに昨夜の再戦がなされることは間違いないっ!
……はずなのに……。
「なぁ、そろそろ解いてくれてもいいんじゃないか?せめて目隠しくらい……。」
今現在、俺の目の前は真っ暗だ。なぜなら、アイマスクで目隠しをされているから。
そして、今現在の俺は、寝返りを打つぐらいしか動けない。なぜなら、動けないように縛られているから。
しかも、下手に寝返りを打ってベッドから落ちたら、そのまま放置されることは間違いないので、大人しくしているしかない。
「いやよ。今着替えてるんだからもう少しそのまま。」
シュルっと衣擦れの音が聞こえ、ぱさっと、軽い布が床に落ちる音が聞こえる。
きっと、今は、あの豊満な胸が曝け出されているに違いない。
視界が不自由な分聴覚が鋭敏になっていて、音だけで俺の妄想が膨らんでいく。
こんな時の為の透視能力だというのに、このアイマスクはスキルを遮断する機能が搭載されている、とても優秀な魔道具だ。
こんなもん、誰が作ったんだよっ!……って俺でした。
俺の視覚拡張が、透視までできるレベルに達したと、ミィナにバレた時、無理やり作らされたんだよなぁ……。
「はい、もういいわよ。」
そう言って俺のアイマスクが外される。
目に飛び込んできたのは、おっぱい……じゃなくて、俺をこんな目に合わせた張本人のアスカの顔だ。
「ハイハイ、ちゃんと約束覚えているから。」
チュッ、と俺の頬にアスカが軽く唇を振れる。
「先に食堂いってるから、アナタも早く降りて来てね。」
アスカは唇を離すと、手早くロープを解きながらそう言って、階下へと行ってしまった。
「……くっ、可愛いから何も言えん。」
昨日、宿をとるとき、同室であることを、アスカは当然の如く反対した。
しかし、今後別室を撮り続けていては、旅費がどれだけあっても足りない事、もし、夜中にロリ女神ちゃんが現れたらどうするんだ?という事、他、何かあった時の為に同じ部屋の方が都合がいい事等など必死の説得により、同室を認めさせたのだが、安い部屋を頼めば、当然ベッドはひとつしかない。
勿論、分かっていてやっている。ベッドが一つという事を確認したうえで一つの部屋を取っているのだ。
そして、ベッドが一つという事は、一緒に寝るしかないわけで……。
それなのにアスカは抵抗し、俺が絶対手を出さないから、というと、信用できないと言って、俺を縛り上げたのだ。
勿論抵抗したさ。俺が本気になれば、アスカを押さえつける事なんか訳もな……くもないけど……多分、抵抗できるんじゃないかな……。
だけど、アスカは言ったんだよ。
「大人しく縛られてくれれば、朝、お目覚めのチューをしてあげる。」って。
頬を染めながら恥しそうにそう言うんだぜ?無抵抗で受け入れざるを得ないだろ?
まぁ、実際、縛られて動けなかったけど、狭いベッドだったし、アスカもベッドから落ちないように、ギュッと寄り添ってきてくれたから、まぁ、それだけでも幸せだったんだけどな。
……っと、早く降りていかないと。
俺は妄想兼回想に浸りそうな思考を途切れさせて、手早く身支度を整えて食堂へ行くのだった。
◇
「……で、何でこんなことになっている訳?」
「いや、なんとなく?」
俺達は今、宿屋のベッドの上で抱き合っている……と言うか、俺が一方的にアスカを抱きしめているだけなのだが。
勿論二人とも服は着たままだ。ただ、俺がアスカに抱きついて甘えているだけ、ともいう。
「はぁ……、そりゃぁね、一晩中縛り付けてたのは悪かったとは思うわよ。」
アスカが大人しく抱きつかれているのは、夕べの事で少なからず罪悪感を覚えている所為……らしい。
普段、ツンケンした態度をとる彼女だが、根はやさしくお人好しで義理堅いのだ。
その証拠に、以前、半ば冗談で言った「毎日膝枕して甘やかして欲しい」というのを律義に実行してくれている。
「でも、縛ってないと、アナタ絶対襲うでしょ?」
「そ、そんな事……ない……とは言えなくもない……。」
正直、アスカみたいなかわいい子が添い寝していたら、理性を抑える自信はない。Sカモ、あの反則的なまでに大きなおっぱいを押し付けられたら、ケダモノに変身する自信はある。
「だから、これからも夜は縛るからね。」
その代わりに、今は抱きしめてもいいと、言いたいらしい。
村にいた時は、こんなこと絶対にさせてくれなかったくせに……。
これは、エッチできる関係に持っていくのに、それほど時間はかからないかもしれない。
俺はそのあと10分近くアスカを抱きしめ、名残惜しげにその体を離す。
「ふぅ、アスカニウムの充電も完了したし、そろそろ行くか。」
「なによ、その謎物質。」
アスカは苦笑しながら乱れた衣類を整える。
「とりあえずは冒険者ギルドへ行って、手ごろな依頼でも探そうか。」
「まぁ、それが定番よね?」
俺の提案にアスカも頷いてくれる。こういう時、お互いが転移者であり、異世界転移のお約束を知っているというのは話が早くていい。
異世界転移のお約束……それは、転移された先で冒険者ギルドに行くと、そこで何らかのトラブルに巻き込まれ、それがもとでお話が進むというものである。
他にも、街道を旅していると、襲われている馬車と遭遇し、助けてお姫様や高位貴族のお嬢様と仲良くなる、というのもある。
それ以外にも、街中で襲われている女の子を助ける等など、色々あるが、とりあえずはギルドのイベントからがいいだろう。
ギルド内でイベントが起きなくても、受けた依頼先で、先程の馬車イベントなどが起きる可能性も高いのだから。
ただ、俺達は知らなかった。
イベントが起こることを知ってはいても、必ずしも、そのイベントを解決できるわけじゃないという事を。
◇
「なぁ……これもやっぱり「お約束」なのか?」
「知らないわよっ!それより動かないでよ……バカぁ……。」
俺達は今、抱き合った状態で縛られていた。
……ほんと、なんでこうなったんだろう?
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