第41話 アスカの秘策って……成り行き任せかよっ!

「マリア様ぁ~っ!」


村に着き、屋敷の前で馬車を止めるや否や、御者台に乗っていた奴隷娘が、ばっと、庭で佇んでいた少女に向かって走り出し、飛びつく。


「えっ、あっ……エリーゼ?エリーゼなのっ?」


最初は驚き戸惑っていた少女……マリアだが、飛びついてきた少女が、自分の側使えで、親友だったエリーゼだと分かると、その瞳に涙が浮かぶ。


「よかったぁ……。私の所為であなたまで酷い目に合わせて……、ゴメンね。…ぐすっ……。」


「いえ~、こうしてマリア様に再び出会えて……女神様に感謝ですぅ。」


涙ながらに抱き合う二人の少女。


そんな二人に俺は声を掛ける。


「よかったなぁ。俺が助けてやったおかげで、二人は再会できたんだよなぁ……うんうん、いいことしたなぁ。」


言外に……と言うか直接「お前らが無事再開できたのは俺のおかげ。だから感謝しろ……って言うかしてください」といった内容を含ませて告げる。


「姫様……ご主人様に何かされましたか?何か裸で膝枕を強要されたとか何とか……。」


「あ、うん……は、初めてを……奪われたわ……。」


顔を真っ赤にして俯きながらそう言うマリア。


……ちょ、ちょっと、その言い方はどうなんですかね、マリアさん。

ほら、アスカとかミィナとか、レイナとかが、鬼のような形相で睨んでますが?

……って、舌を出してべぇーっって……可愛いけど………分かってやってますか、そうですか……。


「ひ、姫様の初めてを……この男が奪った……。」


ちょ、ちょっと、エリーゼさん、ヤバいですって、ほら奴隷紋が赤く点滅してますよ。


「あの男を殺して私も死にますっ!」


どこからか取り出した小ぶりのナイフを手にして俺の方を向くエリーゼちゃん。


「ちょ、規定違反してるって、ヤバいよ、痛いでしょ?」


奴隷は主人に逆らえない。これはあたりまえのルールであり、奴隷紋という契約に刻み込まれている。

だから奴隷が主人に逆らおうとした場合、警告が発せられ身体中に激痛が走る。

それは逆らう意思を見せたり行動したりしている間中続き、徐々に痛みも激しくなる。

エリーゼのように、主人にナイフを突きつけるなんて直接的な反抗を起こせば、その激痛は計り知れないほどだ。


現に、エリーゼの顔は蒼白になっていて、額には玉のような汗が浮かんでいる。


相当苦しいのだろうが、それでも俺に怒りを向けてくる。


「姫様の初めては、私が奪うはずだったのにぃ、この泥棒猫っ!」


「え?」


「落ち着きなさいっ!」


「あっ……。」


「大丈夫っ!」


思わぬ言葉に、呆ける俺を見て、好機と見たのか、ナイフを持ったまま飛び込んでくるエリーゼ。

それをハリセンで叩くアスカ。

ナイフを取り落とし、その場にしゃがみこむエリーゼ。

それを見て慌てて駆け寄り、エリーゼを抱き留めるマリア。


これらの事が瞬きを2回程する間に起きた。


「あ、えーっと……。」


とりあえず、落ちているナイフを拾い上げる。


「エリーゼ、何でこんなことするのよっ!」


足元ではマリアが、エリーゼを抱えながらきつい口調で問い詰める。


エリーゼは、ナイフを手放したことで、ペナルティが切れて、痛みは無くなった様だが、相当無理をしたせいで、まともに動け無いみたいだ。


「だ、だって……姫様を穢した……私の姫様なのにぃ……。」


泣きながらマリアへの秘めた想いの丈をぶちまけるエリーゼ。


正直、ドン引きするような内容もあったけど、マリアの事が大好きだという事だけはよくわかった。


マリアも、重すぎるエリーゼの愛に、若干引きつつも、まだ純潔は奪われていないこと、初めてといったのはファーストキスの事だと告げることで、一応の落ち着きを取り戻した。


……ミィナたちからの視線は相変わらずだったけどな。


「ご主人様、申し訳ございませんでした。」


落ち着きを取り戻したエリーゼが、俺に頭を下げ謝罪を口にする。


「あぁ、気にしてないからいいよ。だけど次は勘弁してくれよ。」


俺はそう言いながら、拾ったナイフをエリーゼに返す。


「あ、ありがとうございます。これ……母の形見なんです。」


エリーゼはそう言うと深々と頭を下げる。


しかし……。


「でも、これはこれです。姫様の純潔は渡しませんよ。アレは私のですからっ!」


「違うからっ!」


エリーゼの宣言に、真っ赤になったマリアが否定する。


……一応、俺、ご主人様なんだけどなぁ……。


この分では、エリーゼともエッチなことが出来そうもないと、ため息をつくのだった。



「エリーゼちゃんにルミナちゃん、そして、セツナちゃんにアイカちゃんにミーコちゃん……で、何でこんなにいるわけ?」


ミィナが冷めた目で俺を睨む。


「イヤ……、アスカがね……。」


俺はアスカの方を見ると、「妹が出来たぁー」と喜ぶマーニャと、「これは私のよっ!」と言って、ミーコを取り合うアスカの姿があった。


「あ、うん……なんとなくわかったわ。」


ミィナは大きなため息をついた後、アスカに声を掛ける。


「ねぇ、アスカちゃん。奴隷を購入してきたのはいいとして、マリアメイア皇女様の事はどうする気なの?」


ミィナの言葉に、アスカは、一瞬真面目な顔になり、そして口を開く。


「マリアメイア皇女?何のこと?」


「えっ、だって、マリアメイア皇女の問題を解決するために奴隷を買いに言ったんじゃないの?」


訳が分からないというミィナにアスカが真面目な顔で言う。


「いーぃ、ミィナさん。私たちはマリアメイア皇女なんて知らない。遠い国で起きた誘拐事件なんか、関係ないの。この子は、この屋敷のメイドとして働かせるために買った奴隷のマリアちゃん。別に奴隷じゃなくてもよかったんだけど、奴隷にされている少女を憐れんで、ご主人様が、助けようと思って購入した、奴隷のマリアちゃんなの。だけど、一人じゃ大変だから、追加で奴隷を購入してきたの。分かる?」


「え、えぇ……でも……マリアメイア皇女って……。」


「いーぃ、ミィナさん?」


尚も言い募るミィナをアリスがより強い言葉で制する。


「奴隷の中にはね、待遇をよくしてもらおうと、出来ない事の言い訳をしようと、色々な「設定」を自分の中で作る人が多いのよ。奴隷の言う事は話半分でいいのよ。……いーぃ?私達は善意の第三者。奴隷にされて哀れな少女を買っただけなの。奴隷の元の身元とか知らなくて当たり前なの。」


……要は、アスカは「皇女?何それ美味しいの?」ととぼけることを選んだという訳だ。

確かに、買った奴隷が皇女だなんて誰も思わないよな。


「えっと、あの……、」


アスカの言う事に流石に思う所があるのか、マリアが発言を求める。


「なぁに?何なら、売りに出してもいいのよ?働けないメイドは必要ないんだし。」


アスカがハイライトの消えた瞳でマリアを見て言う。


「あ、いえっ!一生懸命働きますので、末永く可愛がってくださいっ!」


マリアは冷や汗を流しつつそう言うと、「さぁ、エリーゼさん、まずは御屋敷の掃除ですよ、おほほ……。」と言いながら、逃げるように、屋敷の中へ入っていくのだった。


「えっと、とりあえず、『マリアメイア皇女なんて知らない』でいいのか?」


「アナタ皇女様とお知り合い?……後、奴隷だからと言って手を出しちゃダメだからね。」


「……いや、そもそもエア・エール皇国なんて名前しか知らないしな、アハハ……。」


……うん、俺は何も知らない。奴隷を買ったけど、エッチが出来ない哀れなご主人様ってだけだ。


うん、視界がぼやけてるのは、あくびをしたせいだ。決して泣いてないからな。


「なにも泣かなくても……。後で膝枕してあげるからそれで我慢しなさい。」


「……全裸で?」


「……バカ。」



……結局、アスカは全裸ではないものの、トップレスで膝枕をしくれた。


ただ、俺を膝枕した後上を脱いだため、俺からは下乳しか見えず……上向きらしく先っぽすら見えなかった。


思わず、つまらん、と呟いてしまったため、アスカのご機嫌を取るのに、長き時を費やすことになるのだった。







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