第40話 アスカの秘策…って、奴隷買っていいの?

「とりあえず、もう一人奴隷を買いましょう。」


ずっと考えこんでいたアスカが、ようやく口を開いたかと思ったら、そんな事を言い出した。


「い、いいのかっ!も、もちろん、エッチOKなやつだよなっ、なっ?」


俺は思わず興奮しアスカに詰め寄ると、バッシーーーンっと例のハリセンで吹っ飛ばされた。


「落ちつけっ、バカッ!……奴隷は一人か二人で金貨1枚まで。……予算内なら、条件は好きにすればいいわ。」


……つまり、金貨1枚以内でエッチ可能な子を見つければいいってことだな。

……ってか、そんな安い娘いねぇよっ!


それでも掘り出し物がいるかも……と、俺は一縷の望みをかけて、奴隷商のいるガルマの街へ向かうのだった。


「らっしゃいっ!どんな娘をお求めでっしゃろ??」


ガルマの街のアンダーグラウンド……地下マーケットの奴隷商を訪ねると、開口一番そう聞いてきた。


「……どんな娘っていわれてもな……。」


正直、予算内でエッチOKな女の子なら誰でもいいとしか考えていなかったのでそう告げる。


「……この娘辺りが予算範囲の娘でっせ。夜伽の可不可は本人と直接交渉してぇや。」


奴隷商はそういうと、部屋の奥へ引っ込んでいく。そして、何人かの少女を連れて来た。


「この娘は夜伽のOK確認済でっせ!金貨20枚でっしゃ!」

と、容姿端麗なエルフの娘を連れてくる。


……エロフ、キタぁぁぁぁ!

俺はチラリとアスカを見る。


「予算オーバー。ダメよ!」


……やっぱダメか……って言うか、なんでアスカがついてきてるんだろ?

今更ながらにそう思うが、それこそ今更だ、と思い直し、次の娘……猫耳少女に目をやる。


「この子は猫獣人やさかい、金貨3枚でっせ!」


猫耳少女を見て、やはりアスカを見るが……。


「……くっ、予算オーバーよ。」


心なしか、プルプルと震えている……やはり予算が厳しいのかぁ。


……次の娘だ! と、犬耳少女を見る。


「この子は犬獣人でっせ!どないや?可愛いでっやろ?イケまっしゃろ?金貨2枚でっせ!」


「……くぅぅ……よ、予算オーバーぁぁ……。」


アスカは予算オーバーと言い、何かを堪えるように、ぐっとこぶしを握り締めて俯いている。


次は人間種の少女を見たが、金貨1枚と銀貨80枚との事で、やはり予算オーバーとの事……。


「……なぁ、もうこの娘でいいだろ?足りない分は俺が何とかするし……エッチだってできそうだし……。」


俺がチラッと女の子を見ると、腕で胸を隠すようにし、小さくなってガタガタと震えている……エッチは無理っぽい。


奴隷商に話を聞いてみると、本人との交渉次第ではあるが、夜伽可能な奴隷は、最低でも金貨5枚以上、初物であれば金貨10枚以上はするという。


……ってか、奴隷って安くね?


確か、ミィナを買ったエルクラード王国では、エッチが出来る女の子は金貨20枚以上だったような……。


俺がそのことを聞いてみると、エルクラード王国をはじめとする『奴隷禁止国』は、奴隷の売買が禁止されていて、代わりになるのが「自売就労者」という、人権が保護されている者しかいないため、自ら価格を付けるので自然と価格が上がる。……まぁ、誰も好き好んで奴隷になりたがる訳じゃないし、どうせ売られるなら、高く買って欲しいと思うだろう。


逆に売買が許可されている国では、奴隷の数が豊富なため、特別な付加価値がない限り、価格は金貨1枚前後だという。


トリニティ王国は、取引は禁止されていないが、一応奴隷禁止国なため、やや上乗せされているとの事だった。


ツンツン……。


俺が奴隷商と話していると、裾を引っ張る感じがする。


振り向くと、今にも泣きそうな顔のアスカがいた。


「ねぇ、……この娘買いたい。」


アスカの横にはネコミミと犬耳の獣人娘がいる。


「聞いてよ、この娘たち、とっても可哀想なのよ……。」


アスカに言われるままに、2人の事情を聞く。


まず犬耳獣人の女の子は、3年前に村が野盗に襲われたときに家族を全員亡くしたそうだ。

ネコミミ獣人の女の子も似たような状況らしい。


その後の2人は近くの村の教会でお世話にななっていたが、その村も襲われたため、辛うじて逃げ延びた街の、孤児院に預けられたとのことだ。


しかしそこは孤児院とは名ばかりの場所で、孤児たちが奴隷のようにこき使われており、ある程度育った子供は奴隷商に売られていくという。


二人も、そうして奴隷商に売られたクチだった。

そして今に至るわけだが……。


「そんな訳だから、その娘たちをウチで引き取りたいんだけど……。」


アスカは真剣な表情だった。浮かない顔をしているのは明らかな予算オーバーだからだろう。


「なんだ、そんなことか。だったら足りない分は俺が出してやろう。」


「え?いいの!?」


アスカは目を大きく見開いて俺を見た。


「あぁ、ただし……。」


俺はニヤリと笑ってアスカを見る。


「……わかってるわ。条件は何?」


「話が早くて助かるよ。条件は『膝枕するときは全裸』だっ!」


俺がそういうと、アスカは黙って、奴隷たちをステージへ戻そうとする。


「待て待て待てっ!可哀想じゃなかったのかよっ!」


「世の中には『諦めが肝心』って言葉もあるのよ。」


「ほら、『諦めたらそこで試合終了だ』って言葉もあるじゃないか。もっと粘ろうよ。……そうだ、上、上だけ裸でいいからさ?なっ?」


「はぁ……なんでそこまでしつこいのよ?この間まで「メイド服での膝枕がサイコー』っていってたじゃないの。」


「メイド服ももちろん最高だ。だけど、この間マリアに全裸で膝枕してもらったとき思ったんだ。「……全裸膝枕が究極だった」って。」


「はぁ……あなたそんなことしてたの?相手が誰だかわかってるの?」


「そんなこと言ってもさ、その時は王女だなんて知らんかったわけだし……。」


「あ、あのっ!」


俺達の会話を遮るように、近くにいた奴隷の娘が声をかけてくる。


金貨1枚と銀貨80枚の娘だ。


「あの……もしかして、今話されてたマリアってかたは……マリアメイア様の事でしょうか?」


奴隷娘が、奴隷商に聞こえないように小声で訊ねてくる。


「えっ、あっ……」


「な、なんの事かしら~?」


俺と明日香は、しどろもどろに狼狽えつつ誤魔化す。


「お願いですっ!私を買ってくださいっ!何でもしますっ!全裸膝枕だってしますからっ!」


急に購入してくれと訴えだす奴隷娘。


「って言われても予算が……。」


「お願いですっ(……さっきの事大声で叫びますよ?)」


小さな声でそう囁いてくる……なんて娘だ。


「はぁ……。」


俺は大きなため息をつくと、奴隷商の方へ向き治り、交渉に入る。


「と言うわけでだ、この娘銀貨50枚でどうだ?」


「お客さん、バカ言わんとき。この娘は金貨2枚で如何でっしゃろ?」


「さっきより値上がってるじゃねぇか!」


「そらそうでっしゃろ。この娘、そんじょそこらの娘とはわけが違いますわ。なかなかこんな上玉、見つかりまへんで」


「さっきと言ってること違うじゃねぇか。」


「当たり前でっしゃろ?「売れる商品は出来るだけ高く売る」「金があるところから取れるときに取れるだけふんだくる」これが商売の基本でっせ?」


「そうか?なら俺も言ってやる。「相手が泣いて許しを請うまで値切るのをやめない」だぜ。泣かされたいか?」


「あんさんに出来ますか?」


「やってやろうか?……この娘とこの娘を付けて三人で金貨一枚だ。」


俺は奴隷娘にさっきのケモミミ娘二人を並べる。


「あんさん、無茶苦茶でっせ?その三人ならまとめてサービスしても、金貨7枚でっせ?」


「どこが無茶だって?見たところ、こっちの二人は売れ残ってるんだろ?ここで売らなきゃ、経費がかさむだけじゃないか?」


俺の言葉に奴隷商がぐっと、言葉に詰まる。どうやら図星だったらしい。


「グゥぅ……、しかし、あんさん、あこぎ過ぎやと思いまへん?金貨5枚でどうやす?」


「おいおい、バカ言ってんじゃねぇぞ?そもそもこの街で長々と奴隷を売ることは出来ないんだろ?今売らなきゃ、今度売れるのはいつだ?それに……」


俺は人間族の娘を指して、小声で(こいつ訳アリなんだろ?早く処分しないと不味いんだろ?)と囁く。


奴隷商は、一瞬少し驚いた表情を見せ、すぐにしまったというように表情を取り繕う。


「……金貨4枚と銀貨80枚でどうだす?」


「金貨1枚と銀貨50枚」


「あんさん、堪忍してや。金貨4枚……これ以上は無理でっせ?」


「金貨2枚だ」


奴隷商と睨み合う事数分。……先に折れたのは奴隷商だった。


「……お客さんには敵いませんな。ええ、負けましたわ……こちらの奴隷もつけて金貨5枚で如何でっしゃろ?」


そう言って、さらに二人の奴隷を連れてくる。


一人はキツネ耳の獣人で、もう一人はマーニャたちと同じぐらいの幼い娘だった。


「……金貨3枚だ」


「勘弁してくれなはれ。これ以上は無理だす。」


とうとう奴隷商が涙目になる。


……奴隷商の言うとおり、ここが底値なのだろう。


「わかった……こいつらの衣類など諸々つけて金貨4枚だ。これ以上出す気はない。ダメだというなら帰るがどうする?」


「……ハァ、敵いまへんわ。それで手を打ちまひょ。」


諦めたように大きなため息を吐く奴隷商に、俺は金貨1枚と3枚相当の砂金と宝石を渡す。


砂金と宝石は上手く捌けば金貨4枚近くにはなるかもしれない……そこはこの奴隷商の腕次第だ。


それがわかったのか、奴隷商はもう一度「ホンマ、敵いまへんわ」と呟いたのだった。



「ふっふーん♪」


帰りの馬車の中では、アスカがご機嫌な様子で鼻歌まで歌っている。


「ご機嫌だな。」


「当たり前じゃないっ!ケモミミっ娘よ?モフモフよ?」


アスカは、キツネ耳少女を膝の上に乗せ、ネコミミっ娘とイヌミミ娘を両腕で抱え込んでギュっとしている。


因みに、キツネ耳がセツナ、イヌミミがアイカ、ネコミミがミーコという名前だ。


……しかし、アスカがケモナーだったとは。


今まで以上の親近感を覚える……が、それ以上に敵意が芽生えている……。何といっても、触らせてくれないのだ。

俺だって、ミーコのミミをモフりたいのに……。


因みに、残りの二人は今、御者台に座って、馬を走らせている。


この馬車も馬も、あの奴隷商から買ったものだ。


曰く、


「こんだけの奴隷引き連れて、乗合馬車つこうたら、当局に目を付けられまっせ?……どないだす?今なら2頭引きの馬車が、馬迄ついて金貨50枚でっせ?」


奴隷商のいう事にも一理あるが、何分手持ちが少ない。


結局交渉して、手持ちのミミックコイン2枚と交換という事で話がついた。


ミミックコインは、ギルドで売れば金貨10~15枚だが、コレクターに直接話を持ち掛ければ、モノによっては金貨100枚にもなるという。


奴隷の販売ではかなり割を食った奴隷商ではあったが、結果としてほくほく顔で愛想よく見送ってくれた。


馬車はかなり質が良く、お貴族様御用達と言っても差し支えがないほどの立派なものだった。


聞いてみると、さる貴族の持ち物だったというのだから、立派なのも当たり前だった。


馬車の中に数日分の食糧や消耗品などが積み込んであったのは、奴隷商なりのサービスなのだろう。


こうして俺とアスカは、予定の倍以上の奴隷を連れて、村へと帰るのだった。






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