第32話 ダンジョン内に街を作ろう その3

「よしっ、奴隷を買おう。」


俺が宣言すると、アスカが「アンタ、バカ?バカでしょう?」と言ってくる。



「すまん、間違えた。自売就労者だ。」


「あのねぇ、言い方を言ってるんじゃないのよ?」


違うんだよ、俺がこういうのにも理由があるんだよ。


まず、ダンジョンの探索が、予想以上にうまく行っていること。


現在は9階層まで攻略済で、次は10階層のボス戦に挑む予定だ。


それに、6階層からは宝箱も出てくるようになって、それが意外に良い稼ぎになっている。


ミミックコインも思ったより高値で引き取ってもらえたから、現在の財産は金貨60枚近くある。


みんなのお小遣いや、村の開発資金に一部使用したが、それでもまだ金貨30枚は自由に使えるだけの余裕があるんだ。


……当初の目標だった金貨30枚。

その使用用途は、やっぱり初志貫徹するべきじゃないのか?


「わ、私じゃぁ……ダメ……だったんですか……。」


よよよ、と泣き崩れるミィナ。


芝居がかっているが、本気にした三人娘が、ミィナを慰めに集まり、俺を責めるような目で見てくる。


……違うんだよ。ミィナもギルドで働いているし、そのうえ俺達の面倒を見たり、屋敷を掃除したりと大変じゃないか。だからここで増員したほうがって思ったんだよ。


「ミィナじゃ、エッチさせてくれないし、嫁と言い張る3人には手が出せないし、ペットは言うこと聞いてくれない。エッチが出来る使用人の一人ぐらい、いいじゃないかっ!」


「「「「「…………。」」」」」


………あれ?皆さんなんでそんな目で?


………えっと、ひょっとして、建前と本音、間違えた??


「……アンタ、やっぱりバカだわ。……でもまぁ、あなたの稼いだお金だし、好きに使えばいいんじゃない?」


冷たい目で見てくる女性陣の中、アスカだけが呆れた声でそう言ってくれる。



「えっ?……反対……しないのか?」


同じ日本人としての感覚を持っているアスカが、そういうのを1番嫌うと思っていただけに、拍子抜けする思いだった。


「別に?大体、あなたがその奴隷……じゃなかった、就労者とエッチしようが、私には関係ないし、むしろ、私にエッチな目を向けられなくなるなら、大歓迎よ。」


私の操は隼人に捧げてるからね、とアスカは言う。


「レイナちゃんが身体を許さにゃいから、だんにゃ様が、使用人と浮気するにゃ。」


「そんな事言われたって……。」


マーニャの言葉に、赤くなって困るレイナ。

ってか、浮気になるのか?


「メイドとのただれた関係……アリ?」


一人ボソボソと妄想に耽るアイナ……ほうっておこう。ヘタに声を掛けると、被弾しかねない。


「う、うぅ………。じゃ、じゃぁ、私が身体を許せば………。」


ミィナがそんなことをいい始める。


『よしっ、チャンスだ。このまま言いくるめて、モノにしてしまえっ!』


悪魔くんが勢いよく迫ってくる。


『イケないわ。ここは優しい言葉で、優しく、優しく、ベッドに誘うのよ。』


天使ちゃんが、反対するように言うが、内容としては、悪魔くんと変わらない。……まぁ、どっちも俺だしな。


「そうだな、ミィナが許してくれるなら……。」


三人娘とアスカが「なんだコイツ」という目で見るが、俺はスルーしてミィナの傍に行き、その肩に手を置く。


「ほんとは、俺もミィナがいいんだ。」


「うぅ……、じゃ、じゃぁ、10階層のボスを倒したら……。」


「マジっ?ボス倒したら、いいのかっ!」


俺が両肩に手をおいてミィナを見つめると、ミィナは、顔を赤く染めながら、コクンとうなづいてくれる。


………マジかぁ。いよいよ卒業なのかぁ。


「よしっ、お前らっ、今すぐダンジョンに行くぞっ!」


「「「「一人でいけば?」」」」


……くぅ~っ、裏切り者ばかりだったよ。




翌日、俺はダンジョンの中にいた。


当然一人だ……アイツら、マジに裏切りやがった。


まぁ、アイツらがいなくても、9階層まではなんとでもなる。


問題は、10階層のボスだ。


10階層には、まだ足を踏み入れてないから、情報がまったくない。


6階層から9階層までに出てきた魔物は、ロケットウルフの群れやグラップラーベア、トロール、オークといった、ゴブリンより強い魔物だった。


そして、ゴブリンが多かった1~5階層のボスがゴブリンキングだったことから、10階層のボスは、ベア系の上位種か、最悪オークキングだと予測している。


……オークキングだとやだなぁ。


オークキングは、アスカと三人娘、そして俺が全力を出してようやく倒せるぐらいのレベルだ。


つまり、俺一人では到底敵わない相手なわけで……。


「仕方が無い、とりあえずボスの顔を拝んで、それから考えよう。」


アスカは、多分頼み込めばてつだってくれるはず。

アイナとマーニャは、レイナが手伝うといえば手伝ってくれるだろう。


つまり、レイナをどう説得するか、が鍵なのだ。


……無理やりって、いうことを聞かせるか。


そんな考えが頭の中をよぎる。


『ムリムリ。ヘタレなお前に出来るはずないだろ?大体、そんな事ができる度胸があれば、童貞じゃないはずだ。』


『無理ねー、あなたはそんな酷いことする度胸がない、優しい人ヘタレだから。』


頭の中で、悪魔くんと天使ちゃんが、俺をディスる。


……いや、わかっていたけどね。


まぁ、レイナに関しては、アイナとマーニャに相談すればいいか。


今はとにかく10階層を目指そう。




途中行く手を遮る魔物たちを、隠れながらやり過ごし、慎重に進むこと5時間あまり……ようやく9階層へと辿り着く。


「さて、ここからが本番だな。」


運良く、階下への階段近くに降り立ったようで、10分も歩かないうちに10階層への階段を見つける。


俺は、当然のようにその階段を降りていく。


9階層の攻略は済んでいて、寄り道する必要がないのだから当然だ。


途中、いかにも寄り道していけ、と、言わんばかりのイベントに巻き込まれそうな事があったが、俺は、豆腐のように固い意志で、それを振り切り、階段へと辿り着いたのだから……。


そして俺は未知なる階層……10階層へ降り立ったのだ。




10階層……。


このダンジョンは、5の倍数の階層は地形が変わらないらしい。


階層に降り立つと、300mぐらいの一本道が続いて、突き当りに大きな扉がある。


その扉を開けると、その先にはただっ広い空間が広がっている。


5階層と全く同じであれば、扉の先には2キロ平方メートルほどの空間からボスを探さなければならない。


ボスがこちらを視認する前に、見つけることが出来るかどうかが、勝負の分かれ道になったりする。


俺は取り敢えず扉の前で休憩を取ることにした。


べ、別に、アイツラが追いかけてくるのを待っているわけじゃないからなっ!


ボス戦の前に休息を取って、万全の体調で望むのが基本なんだよっ!


待ってなんかいないからなっ。



………。


5時間が過ぎた……うん、十分休めたとおもう。


……いや、ここは万全を期して、一晩休んでからのほうが……。


……モヤモヤしながら、さらに2時間が過ぎる。


……誰も来ない……



それからさらに1時間が過ぎたところで、俺はボス部屋の扉の前にたつ。


……ウン、待ってたわけじゃない。ただ休憩してただけなんだからな。


俺は、そう呟きながらとびらをあける。


視界がぼやけてるのは、扉の向うが眩しかったからだ。


……そうに違いない。な、泣いてるわけじゃないからなっ!


そして俺は、扉の向こう側で在りえないものを目にすることになるのだった。

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