第15話 村の存亡をかけた戦い 前編

「レイナっ!」


目の前で、男に組み伏せられているレイナの姿があった。


「い、いや、いやぁぁぁぁっ!!」


「げへへっ、大人しくしろ……ぐはっ!」


背後から延髄を切りつけられて、息絶える盗賊の男。


「レイナっ、大丈夫かっ!」


俺はレイナの上に覆いかぶさる男の死体を蹴ってどける。


「ぅ……ぁ……っ……こ、怖かった、怖かったよぉぉぉぉ……。」


俺の姿を認めると、抱き着いてきて泣きじゃくるレイナ。


「怖かったのっ、怖かったよぉぉぉ……。」


「あぁ、大丈夫、大丈夫だ。」


……まだ11歳だもんな。


普段の生意気な態度で忘れがちだけど、レイナは、いやレイナだけじゃなく、マーニャやアイナもまだ11歳なんだ。

こんな戦いに巻き込むのではなく、守らなきゃいけない存在なんだ。


「ごめんな。でも、もうひと頑張りしてくれ。ここで立ち止まってたら村が危ない。」


俺がそういうと、レイナの体がビクッと震える。


「う、うん…………うん、大丈夫。」


顔色はまだ悪いが、その瞳に輝きが戻ってきている。


「よし、あの広場にこの火矢を打ち込めるか?」


「う、うん、大丈夫。」


レイナは火矢を構えて、広場の真ん中、ボスのいる辺りに連続して打ち込む。


「よし、逃げるぞ!」


「そこは撤収とか戦略的撤退とかいうモノじゃないの?」


レイナがクスッと笑いながら言う。


「いいんだよ。言葉をどう飾ろうが逃げるには変わりないんだから。」


少しだけ調子を取り戻したレイナを見て、俺は少し安心する。


先ほどちらっと見た感じでは、ボスを庇って……というカボスが盾にした手下が一人炎に巻かれていた。


生きているとしても、襲撃には参加できないだろう。


となれば、残りは13人といったところか……。


……何とかなりそうだ。


俺はそう思いながら、レイナとともに、皆の待つ村へと急ぐのだった。


◇ ◇ ◇


「レイナちゃん大丈夫かにゃぁ。」


マーニャが、ぽつりとつぶやく。


「心配ない、甲斐性無しがついてる。」


「甲斐性にゃしに、襲われてにゃいかにゃぁ?」


「それならそれで手間が省ける。だけど甲斐性なしはヘタレ。」


「それもそうにゃ。」


「あなた達言いたい放題ね。」


ミィナは苦笑する。


一応、仮にでもあなた達の旦那様でしょ?と言いかけて、旦那様だから言いたい放題なのか、と思い直す。


旦那をこき下ろすのは妻の特権であることを知っている。


「一応、私の御主人様なのでお手柔らかにね。」


だから、その程度の言葉でお茶を濁すに留める。


「えっと、おねぇちゃんは、カス様とエッチしにゃいの?」


「ン、興味ある。」


「えっ、あっ、その……。」


まさか、11歳の子供から、そんなことを言われるとは思ってもなかったので、慌てるミィナ。


「横取りする気ないから。」


淡々というアイナに、どう答えて良いものやら、と逡巡する。


「えっとね、カズトさんと私は、そういう関係じゃなくて……。」


「じゃぁ、私達先でも問題ない?」


「あ、えーと……あなた達、11歳だよね?」


「子供作れる身体。問題ない。」


カズトが聞いたら、大喜びで飛びかかりそうなセリフを吐くアイナ。


「問題ないって……。」


ミィナは、頭を抱える。


「でも、レイナちゃん嫌がるかも?」


「問題ない。その時は私達で押さえつければいい。」


「そだね、動けにゃくして、お股開かせればいっか。」


「ちょっと、それは……。」


流石にそれはないだろうと、ミィナが止めに入ろうとするが、アイナはゆっくりと首を降る。


「レイナが済ませないと、私達お預け。」


「でも、レイナちゃん、変なところで乙女だからにゃぁ。」


「イヤイヤ、本人の承諾なしに……。」


「問題ない。それにこれはママさんの指示。」


アイナの話によれば、公衆浴場をはじめ、細々とした改革を起こしたカズトは、今後の村の発展のために、ぜひ囲い込む人材だと認識されていたようだ。


なので、今回の盗賊の件がなくても、カズトのもとにレイナが嫁ぐのは、関係者の間ですでに決まっていたという。


レイナ本人が知らないだけで、村人たちにはすでに知れ渡っていた事実らしい。


……だからか、とミィナは思う。


村に来た頃は、警戒心を隠そうともしなかった店の親父さん、就労者ということで、同情と貶みの眼で見ていた、市場の奥さん連中、取り繕った会話しかしない近所の人々……。


それが、公衆浴場を作り始めたあたりから、村人達の態度が目に見えて変わっていたのだ。


ミィナは、それを、村の人々がようやく受け入れてくれたのだ、と単純に喜んでいたのだが、カズト達の知らないところで、囲い込み工作が行われていた、と知ると少しだけ悲しくなった。


ただ、裏を返せば、そこまでしてでも、カズトに村に留まって欲しいと思われるぐらいには認められたということなので、ミィナとしては複雑な気分ではあった。


しかし、……とミィナは思う。


エッチなカズトではあるが、流石に子どものレイナ達には手を出さないだろう、と。


同時に、アイナ達に迫られたら、意外とアッサリ手を出してしまうかもしれない。


ミィナとしても、カズトに我慢を強いている自覚はある。

だからといって、身体を許すのは……実を言えば怖い。


それでもっ、と、先日のように勇気を出してみれば、カズトのヘタレが発揮して先へと進めない……その事にホッとしている自分が、少しだけ情け無くおもう。


だからだろうか?子作りに前向きな二人が眩しく見えるのは……。


自己嫌悪に陥りかけたミィナを救ったのは、耳元から聞こえるカズトの声だった。


『……るか?……ミィ……ナ……。』


「カズトさん?聞こえます。」


『良かった。いいか、もうすぐ盗賊たちがトラップゾーンに入る。5人から8人はトラップゾーンを抜けていくはずだから、今を持ってオペレーションCに移行。頼んだぞ。』


「わかりました………カズトさん、無事に戻ってきてくださいね。」


『まだ、ミィナとエッチもしてないのに、こんなところで、倒れるわけ無いだろ。』


「くすっ。だったら、無事に帰ってもらうためにも、ずっとお預けですね。」


『ぐわっ……し、しまった……いまのはナシで……。』


「無事帰ってきたら考慮します。」


ミィナはそう言って通信を切る。


このカズトが発案した、風魔法の『風の囁きウィスパリング』を付与することでできた魔道具……通称『通信機』は、それなりに魔力を使用する。

この先のことを考えると、あまり魔力のムダ遣いは出来ない。


ミィナは、アイナとマーニャの戦闘準備を告げると、予め用意しておいたソファーに座り目を閉じる。


自分が、この作戦の要になることは、よく理解している。だから失敗が許されない、といつも以上に気を張り詰めて、視覚同調を始めるのだった。

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