第16話 村の存亡をかけた戦い 後編

『ジョンさん、ベンさん、ソーンさん、F-8まで移動急いで。2分後に接敵。さらに2分後に後続が来るから、ソーンさんは接敵後1分したら、現場を離脱,F-9にて敵を足止めですっ!』


『アイナとマーニャはE-2で待機。3分後に接触するから、奇襲をかけて。』


通信機越しに、ミィナの指示が飛び交う。


EだのFだのという記号は、あらかじめ地図を仕切って付けた記号であり、決して女の子のサイズではない。


地図を作成し、仕切りを入れて作戦を説明してから、1日ぐらいしか時間がなかったはずなのに、よくやってくれていると思う。


この様子なら雑魚は任せておいても問題なさそうだ。


問題なのは……。


俺は物陰から、そっとターゲット……ボスの様子をうかがう。


すでに、周りの手下はいないというのに、ふてぶてしい態度は変わらない。

むしろふてぶてしさが増しているようにも思う。


多分、いくら手下を倒したとしても、コイツを倒さない事には解決にならないだろう。


「いるのはわかってるんだぜ、出てこいよ。」


ヤツが挑発するように吠える。


……落ち着け、ハッタリだ。


飛び出していきたくなる衝動をこらえ、俺は少しずつ場所を移動する。


俺の最大の攻撃技、シャドウスナップ。背後からの奇襲のクリティカル攻撃。

外したら大きな隙を作るので、絶対に外せない一撃必殺の技……これにかけるしかない。


俺は集中するために、通信の魔道具を遮断する。


ヤツは、わめきながら時々手にした大剣を振るっている。


剣圧だろうか?それても魔法が込められているのだろうか?詳しくはわからないが、やつが大剣を振るう度、離れた場所に灌木や草が薙ぎ払われている。


やつの動きを見定めながら、ジリジリと場所を移動すること10分あまり。


たかが10分だが、体感としては何時間も経ったように思える。


………ここだっ!


俺は絶好のポジションにたどり着くと、シャドウスナップを放つタイミングを図る。


シャドウスナップの原理をわかりやすく説明すると、まず発動時の第一歩で大きくターゲットの元へ近づく。

2歩目の踏み込みで大きくジャンプし、狙った場所……今回の場合は、ボスの延髄を、手にした小刀で切り裂く。

着地した3歩目で、進行方向とは別に方向へ飛び退き、気配遮断を発動。

という手順だ。

発動してから2歩目の切り裂く動作まで1秒もかからず、しかも背後から狙う為、躱すことは不可能………のはずなのにっ!


ガキッ!


延髄を狙った、俺の小刀が、振り返ったヤツの大剣の柄で防がれる。


奴は俺の姿を認めるとニヤリと笑う。


「気配を消すのは上手いみたいだが、殺気が駄々洩れだぜ。」


俺はとっさに飛びのくと、数瞬前まで俺の頭があったところを、大剣が薙いで行く。


……これはマズい。


こんな大男とまともにやり合ってかてるわけがない。と言うか、勝てるのなら、細々とホーンラビットなんか相手にせず、もっと大物を狙ってるっての。


俺は、収納からアイテムを取り出し、奴の顔目掛けて投げつける。


「グハッ!」


まさか物を投げてくるとは思わなかったのだろう。


至近距離で割れた小瓶の中身がモロに顔にかかる。


「おまけだっ!」


俺は足元に二つの小瓶を投げつける。


ドンっ! ボワッ!


大きな音とともに炸裂弾が炎と爆風を辺りにまき散らし、同時に煙幕弾が煙で視界を奪う。


「くッ、卑怯者めっ!」


「盗賊のボスからそんな言葉が聞けるなんてね、お褒めに預かり光栄だよっ!」


俺は、そう叫びながらナイフを投げる。


一本目、大きく首を振って躱される。

二本目、身体を捩ってギリギリ躱される。

三本目、捩った所に突き刺さるはずだったが、コレもぎりぎり躱され、体をかすめるだけにとどまる。


……クソッ、なんてやつだ。


ヤツが横薙ぎにふるった剣から、疾風が巻き上がり襲いかかってくる。


あれだけ体勢を崩しながらも、ちゃんと俺のいる場所を狙ってくる。


俺は、身体を伏せて躱しながら移動し、ヤツの死角から、再度ナイフを投げつける。


流石に時間差をつけずに範囲を広げた5本のナイフすべてを躱すことはできず、1本がヤツの太ももに突き刺さる。


しかし、ヤツはそんな傷をものともせず、剣を薙いでくる。


……まいったな。


ヤツに投げた投げナイフの刃には、麻痺毒がタップリと塗り込んであり、本来であれば、掠っただけで動きが取れなくなるという、とんでもないものなのだが、かするどころか、しっかりと突き刺さっているのに、ヤツの行動は鈍るどころか、ますます手がつけられなくなっていく。


計算では、この麻痺毒を使って、相手が動けなくなったところで、捕縛する予定だったのだが、相手がこんな元気では、予定変更せざるを得ない。


俺は、再度ナイフを投げ、気配遮断を解く。

するとやつは、向かってくるナイフを気に留めることもなく、俺目掛けて走ってくる。


俺は振り回される大剣を躱しつ、当初のルートへ、盗賊の頭を誘い込むべく、走り出すのだった。



……あまり良くないわね。


ミィナは戦局を見守りながら焦っていた。


当初の予定通り盗賊たちの分散に成功。


このエリアに侵入してきたのも、ボスを含めて5人のみ。


そして、ボスと手下達との引き離しにも成功し、後は各個撃破していくだけだった。


予定通り、ベン達は3人がかりで、盗賊を迎え撃ち、今が二人目に掛かっていて、倒すのも時間の問題だろう。



その一方、アイナとマーニャは苦戦をしていた。


最初は二人がかりで一人を相手にしていたので、問題はなかった。


しかし、決定的な瞬間で止めを刺すことにマーニャが躊躇ってしまい、その隙を突いた敵の反撃でアイナが手傷を負わされてしまった。


事前に渡していたポーションで、回復したものの、その間に、敵は後から来たものと合流、2対2の戦いになり、やや押され始めていた。



「アイナっ、マーニャっ!」


苦戦している二人の元にレイナが駆けつけ、弓で一人を打倒す。


「アイナ、大丈夫っ!?」


腹に深手をっているアイナの元に駆け寄り、手持ちのポーションを、半分傷口にかけ、残りの半分をアイナの口に含ませる。


「レイナちゃんあぶにゃいっ!」


物陰から、残った一人がレイナを狙っていた。


それに気づいたマーニャが、庇う様に飛び出す。


「にゃっ……。」


「マーニャっ!」


レイナは、マーニャを切りつけ迫り来る男の喉元にナイフを突き刺す。


盗賊はその場で絶命したが、レイナはそんな事はどうでもいいと言わんばかりに盗賊を払いのけて、マーニャの元に駆け寄り抱え上げる。


「マーニャっ、マーニャっ、しっかりしてっ!」


「……レイナちゃん……無事で……よかったにゃ……。」


ガクッと力尽きる様に身体の力が抜けるマーニャ。


「マァーニャぁぁぁぁぁ……。」


レイナの悲痛な叫び声が、戦場に響き渡った。




……そうだ、もう少し……。


俺は、ボスの動向を見ながら移動する。


気配は完全に遮断しているが、殺気までは消せてないという。


だったら、それを利用すれば、……。


と、俺はボスをある場所まで誘導していた。


……よし、ここだ。


俺は目的の地点まで行くと立ち止まり、ボスが近づいてくるまで待つ。


「へっ、そこにいるんだろ?殺気は隠しきれてねぇって言ったよなぁ。」


ボスはそう言いながら大剣を横に薙ぐ。


派生した真空の刃が俺に襲い掛かってくるが、来るのがわかっていれば避けるだけなら何とかなる。


「オラオラオラッ!」


ボスは剣を振りながら、一歩一歩、近づいてくる。


……いいぞ、あと一歩だ。


「いい加減、観……うわっ!」


「今だっ!『アクアボール』!」


足元のトラップに引っかかり体勢を崩したボスの顔目掛けて水の魔法を放つ。


「そして、『フリーズ』!」


水の玉がボスの顔を覆ったところで、それを凍らせる。


「むグググッ……」


「『フリーズ』『フリーズ』『フリーズ』『フリーズ』『フリーズ』……。」


息が出来なくなったボスは、顔に張り付いた氷を砕き引き剥がそうとするが、そうはさせまいと、俺はフリーズを連射する。


やがて、ボスの動きが緩慢になり、その場に崩れ落ちる。


「……『アイシクルランス!』」


俺は近寄らずに、氷の槍でボスの心臓を貫く。


……流石に、絶命しただろう。


氷の槍が心臓に突き刺さったままのボスを見ながらそっと息を吐く。


……ありがとう、ロリ女神ちゃん。今回も助かったよ。


俺が現在使える魔法は、4大属性の初心魔法だけ。火を付けたり、水を出したり、そよ風を拭かせたり、と、とてもじゃないが戦闘には使いようがないものばかりだ。


ちなみに、最初に覚えたのは風魔法で、そよ風で女の子のスカートをめくれないかなぁと、何回も繰り返し使っていたら自然と定着していた。


水魔法は、うっかりを装ってミィナを水浸しにし、透ける衣服を愉しんだり、そのままでは風邪をひくとか言って脱がせようとしていた……全部潰されたけどね。


まぁ、そんなことにしか使えない魔法しか持っていなかったから、今回は氷属性の魔法のギフトをロリ女神ちゃんに願ったのだ。


雷魔法と悩んだのだが、氷魔法にしておいて、結果的には良かった。


「っと、あいつらはどうなったかな?」


俺は遮断していた通信を回復させる。


『……える?……はやくっ!』


「どうしたミィナ。」


『よかった、繋がったぁ。早く戻ってきて!マーニャが、マーニャが……。』


切羽詰まったようなミィナの声に、俺は慌てて駆け出すのだった。

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