第14話 盗賊退治は、女の子には厳しかったようです。

……気まずい。


例の件があって、しばらくしてから、俺達は何事もなかったかのように探索を続けているが……レイナが口をきいてくれない。


……ウン、俺が悪かったと思うけど、何度も謝るのもなぁ。


「この辺りで少し休憩しようか?」


盗賊団がいると思われる場所から少し離れたところで、俺はそうレイナに提案する。


相手が移動しているとしても、まだ1時間以上の距離があるはずだから、安全に休める……逆に言えば、この後は休んでいる暇は無くなるので、ここらで一息入れておくのは大事な事だと思う。


「……ん。」


レイナは黙って歩みを止め、俺の横に座る。


本当であれば火を焚きたいところだが、流石に此処まで来ると、見つかる危険を考えて火は熾さないほうがいい。


……気まずいなぁ……。


黙ったまま、座っているレイナ。


それでも俺のすぐ隣に座る辺り嫌われてはないと思うんだけど……。


仕方がない。


俺はレイナの正面に回り、土下座をする。


「すまなかった。この通り謝るから機嫌を直してくれ。」


しかしレイナの反応はない。


……ダメか。


俺がそう思った時、頭上で、クスクス笑う声が聞こえる。


「カズトさん、何ですかそれ、カエルの真似ですかぁ?」


俺がそっと顔をあげると、レイナは口に手をあてて笑いをこらえていた。

……って言うか、完全に笑ってるじゃねぇか。


俺は憮然としながら体を起こす。レイナの機嫌が直ってくれるなら、それでいっかと思いながら。


座りなおした俺に、レイナがギュッと抱きついてくる。


「ゴメンナサイ。私が悪かったの。……許してくれる?」


レイナは小さな声でそう言うと、最近思っていたことをぽつぽつと語りだした。


最初は、どこからともなく村に来た怪しい二人組だと思ってた事。


森でイノシシを倒した際に追った傷をミィナのポーションで治してもらったことから、ミィナへの好感度が縛揚がりしたこと。


と同時に、ミィナと一緒に居る冴えない男(俺の事だ)が気になる……と言うか邪魔だと思ったこと。


なのに、その男が見せる、不器用な面が可愛いと思ってしまった事。


いきなりその男に嫁げと、父親に言われて複雑だったことなどなど……。


「えっとね……ちょっと、怖いけど、カズトさんが望むなら……。」


レイナはそう言って、俺の手を自らの胸にあて、顔を少し上げると目を閉じる……。


……コレって、アレだよな……そう言うコト……だよな?


俺は状況について行けず、しかも右手からダイレクトに伝わる感覚に、パニックを起こす。


……柔らかい……女のこの胸って、こんなにも柔らかいんだ……。


反射的に右手が動く。


「ぁんッ……。」


レイナの口から小さな吐息が漏れる。


……ヤバい、ヤバい、ヤバい……


俺は熱に浮かされたように、レイナの唇へ顔を近づけていく。


『待って、早まらないでっ!』


『いや、いけっ!女の子にここまでさせてるんだ、責任取るのが男ってものだろ?』


頭の中で、天使ちゃんと悪魔ちゃんがせめぎあうが、どうでもいい。


俺はそのまま顔を近づけ…………


ちゅっ


「へっ、なんで?」


レイナが、目を開け、ポカンとした顔で俺を見つめる。


その手は額……先程俺の唇があたったところにあてている。


「今はそれどころじゃないからな。」


「……ヘタレ。」


レイナがくすくす笑いながらそう言う。


……まぁ、今のはそう言われても仕方がないよなぁ?でも、震えてる女の子の唇を奪うなんて事出来ないじゃないかよ。


『偉いわ。それでこそ、紳士よっ!』


いい子いい子と天使ちゃんが撫でてくる。


『ハンっ!おじけづいただけだろ?ヘタレヘタレヘタレっ!』


悪魔君が笑いながら毒づく。


「クスクス、仕方がないですねぇ。私の唇はお預けですよ。」


レイナが唇に人差し指をあてて、ニマッと笑う。


その笑顔を見て、つくづく惜しい事をしたと後悔するのだが、すべては後の祭りだった。






「おお、いるなぁ。」


あれからしばらくして、俺達は探索を再開し、今は盗賊団が集まっている広場から少し離れたところで身を隠している。


「ひぃ、ふぅ、みぃ……18人か。」


事前に見た情報と変わりないのを見て安心する。


「……あの人達が……村を襲う……。」


レイナが青ざめた顔で広場の様子を見ている。


その身体はガタガタと小さく震えている。


……無理もないか。


広場の中央では、ボスらしい男が裸の女性を嬲って犯していて、それを周りの男たちがはやし立てている。


女性の瞳にはすでに光はなく、ただ生きているだけのように見える。


それでも体に与えられる刺激には反応し、艶めかしい喘ぎ声を漏らし、男たちを喜ばせていた。


「酷い……。」


「あぁ……。」


俺はレイナを引き寄せ、ギュッと抱きしめる。


……失敗したなぁ。


間違っても子供に見せるような光景ではない。


しかも、女の子だ。下手すればあのような事が我が身に降りかかってくるかと思えば、恐怖で身体が動かなくなっても仕方がない。


「大丈夫だよ。レイナは……レイナたちは俺が守る。」


俺がそう囁くと、レイナは俺の胸の中で、コクンと小さく頷いてくれる。


どれくらいそうしていただろうか?


身体の震えが完全に止まったレイナは、俺の胸を軽くそっと押し戻し、少し潤んだ目で俺を見上げてくる。


「本当に……守ってくれる?」


「あぁ、任せておけ。大体、俺が手を出してもいないのに、あんな奴らにいい気持にさせるなんて、許せるわけないだろ。女神ちゃんだってそう言うはずだ。」


「くすっ、そう言う時は「命がけで守る」って言うだけでいいんだよ。それだけで女の子は頑張れるの。」


「そういうモン?」


「そういうモンです……(……それで、全部終わったらキスしてくれればいいんだよ)」


ニコッと笑うレイナの笑顔に見とれて、彼女が後半に呟いた小さな言葉は聞き逃してしまう。



「よし、じゃぁ、そろそろ始めるか。」


レイナの笑顔がまぶしくて、照れ隠しにそう言う。


「ウン、まず何からやればいい?」


レイナが少し緊張した面持ちで聞いてくる。


「まずは俺が、今、離れた男を無力化してくる。同じように、離れた男を順番に無力化していくが、2人か3人無力化したところで、奴らはおかしいことに気づくはず。そうしたら俺は、騒ぎを起こして混乱に乗じて逃げ出して来るから、レイナは弓でその援護を頼む。」


俺はそう言って、特別製の矢をレイナに渡す。


これは鏃に強力な麻痺毒が仕込んであり、かするだけで、動けなくなるというシロモノだ。


悪人相手とはいえ、レイナ達、子供の手を汚させたくないという、俺とミィナの想いが込められている。


「うん、カズトさんは私が守ってあげる。」


「言ってろ。」


俺はレイナの頭を軽くなでて、その場を離れる。



「いたっ。」


俺は前方で小用を足している男の背後からそっと近づく。


……声を上げる間もなく、一瞬で殺らないと。


俺は気配を消したまま、背後から一気に攻撃を仕掛ける。


『シャドウ・スナップ!』


背後からのクリティカルで、男は声も立てずに絶命する。


……クソッ、気分が悪い。


覚悟は決めていた……なのに……。


吐きそうになる気分を無理やり押さえつけ、先ほどの光景を思い出す。


……そうだ、俺がやらなきゃミィナやレイナたちがあんな目に合うんだ。俺が踏ん張らないでどうする。


俺はぐっと唇をかみしめ、次の獲物が来るのを待つ。



「うぃぃ……。ひっく。ちくしょぅ、ボスばっかりいいよなぁ……。どこかに女落ちてねぇか。」


酔っ払い、よろよろしながら小用を足し始める盗賊の男。


俺はその背後から忍び寄って、その喉元を掻き切る。


……これで二人。


「おーい、まだかぁ?」


……しまったっ!もう一人いたのか。


「うぉぉっ、こ、これはっ!?グガッ……ぐっ!」


……しまった。


焦りの余り攻撃が浅かった。


俺は、再度止めを刺そうと迫る。


「敵だぁぁぁぁ……ぐぅっ!」


しかし、敵は絶命する前に大声を上げる。


「くっ!」


……こうなったら仕方がない。


俺は用意していた火炎瓶をいくつか敵が集まっている広場に投げつける


「グワッ!」


「敵?どこだ?」


「わ、わわっ、火がっ……」


突然上がった火の手に、盗賊たちが慌てふためく。


……よし、この混乱に乗じてレイナが……。


レイナの弓で一人か二人でも減らすことが出来れば、と思ったのだが、そのレイナの援護がない。


まさか!と思い、俺はレイナの隠れている場所へと急ぐ。


……レイナ、無事でいてくれよ。

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