第6話 先立つものが必要です!?
「クッ、このっ、このっ、このっっ!」
俺は、何度も何度も、手にした棍棒を振り回すが、相手はせせら笑う様に難なく躱す。
そして、棍棒を振るった直後に出来る隙を狙って突進してくる。
「グッ………。」
先程から同じことの繰り返しだ、しかし…………。
「甘いんだよっ!」
俺は、身体に衝撃を受けながらも、ぶつかってきた相手を抑え込み、手にした棍棒を一気に振り下ろす。
グシャ!
何かが潰れる感触が伝わってくる………この感触だけは未だに慣れない。
俺は、息の根を止めた相手………ラビットホーンを近くの木の枝に吊るし、その首を掻き切って血抜きを始める。
その枝の横には血抜きが終わったラビットホーンが同じ様に吊るされていて、それを収納にしまい込む。
「はぁ~、今日はここまでにするか。」
俺は、今倒したラビットホーンの血抜きがおわるまで休憩することにして、近くの樹の根元に腰を下ろす。
「いてて………。」
休憩ということで気が緩んだのか、今まで忘れていた痛みがまとめて襲ってくる。
俺は、収納からポーションを取り出してそれを飲む。
とりあえず傷は塞がり、痛みも少しは緩和される。
「おっ、今日のは結構効果あるな。」
このポーションは、ミィナが作ったものだ。
本人は任せて!と言っていたが、実際に調合したポーションは、ノーマルポーションのはずなのに、ハイポーション並みの回復量があったり、逆に、劣化ポーションほどの回復量もなかったり、と品質が安定していなかった。
ポーションは、一度作成すると、小樽一杯分出来上がり、それを小瓶に詰め替える。
その時に余ったポーションを、こうして普段遣いにしながら、品質の確認をしているというわけだ。
俺は空になった瓶を仕舞うと、収納から、ミィナが作ってくれたお弁当を取り出して、食べ始める。
………コレでミィナがエッチさせてくれれば、言うこと無いんだけどなぁ。
俺がこの世界に来てから2ヶ月が経とうとしていた。
ここはアインの街から少し離れたところにある『恵みの森』と呼ばれる場所で、俺達は今ここで暮らしている。
街から出た理由は…………。
いや、話せば長くなるんだが…………。
聞きたいのか?
そうだなぁ………、最初に言っておく。俺たちは頑張った。
そう頑張ったんだよ。
俺達の冒険者ランクは、最低のFランク。
登録したばかりなのだから仕方がないだろう。
そして、Fランクの冒険者が受けられる依頼などたかが知れている。
それでも、俺達は、溝浚いや残飯処理など、誰もが嫌がる仕事を笑ってやってのけた。
だけど、その結果が大銅貨1枚。
丸一日働いて、二人で銅貨1枚だったんだ。
宿の代金は前払いしてあるから、後1日は泊まれる。
しかし、手持ちは大銅貨4枚と銅貨7枚。
宿代が、食事込みで二人で大銅貨2枚だから、後2日は延長出来る。
1日大銅貨1枚は稼げることがわかったので、2日あれば、もう一日延長する分は問題ない。
だが、その後は?
5日後に俺達を待ち構えているのは、あの奴隷商………じゃなかった、ハローワーカーだ。
なんの能力も持たない俺は鉱山送り、ミィナは今度こそ娼館に売られるだろう。
「街を出よう。」
だから俺はそういったんだよ。
今の手持ちのお金で、最低限の野営道具を揃え、行けるところまで行こう!と。
…………そうだよ、金がないから、街で暮らせないんだよっ!
そして「行けるところ」が、街からすぐのこの森なんだよっ、文句あるかっ!
…………そりゃ、最初は酷いもんだったよ。
取り敢えず、雨風を凌げる洞窟をすぐ見つけることが出来たのはラッキーだった。近くに小川があって水に困らないのも良かった。
だけど、それだけだ。
何と言っても食べるものがない。
初日は、取り敢えず買っておいた非常食で何とか飢えをしのいだが、ストックはすぐに尽きてしまうだろう。
ここで役に立ったのが、ミィナの鑑定眼だった。
彼女のお陰で、毒の有無が見分けることが出来たため、食べられる山菜……そう、山菜なんだよ、雑草じゃないからな。俺が山菜と言ったら山菜なんだっ!
……山菜とキノコを煮込んだ鍋で、当面の食料事情は、何とかなりそうだった。
「そんなに落ち込まないの。食事も何とかなりそうだし。」
「うぅ、甲斐性無しでごめんよー。これも、女神のせいだ。」
「………えっとね、御主人様は頑張ってるよ?でも甲斐性がないのを女神様のせいにするのはどうかと。」
ミィナが困った顔で嗜めてくる。この世界の住人にとって、女神様はギフトを与えてくれる素晴らしい存在なのだろうが、俺にとっては現在こんな目にあってる元凶だ。賠償を請求する相手だ。
俺がエッチ出来ないのも女神の………
「痛っ!」
いきなり頭に誰かに殴られたような衝撃が走る。
『アンタがエッチできないのはアンタがヘタレのせいよ!』
「誰だっ!」
『ひっどーい。私の事、もう忘れちゃったの?このプリチーな女神ちゃんを忘れるなんて、これだからブサメンは……。』
「ブサメンじゃないやぃっ!」
俺は、見た目だけは超絶美少女のロリ女神に、現状の不満を含めて文句を言おうとするが、女神は、それを片手を突き出して制する。
『ハイハイ、忘れてたのは悪かったわよ。でも仕方がないじゃない。私好みのイケメンがいたんだから。』
ロリ女神の話によれば、俺を送り出した後、改めて召喚した勇者候補がイケメンだったらしい。
そのイケメンに、アレやこれとアフターフォローをしていて、俺にチート能力を授けるって言ったことを忘れていたのだそうだ。
しかし、神々の間でも……というか神々だからこそ、約束は神聖にて不可侵なものであり、それを破ることは許されない。
だから、俺との約束を思い出して……無理やり思い出せられて?……、こうして姿を現した、ということらしい。
『そのままテキトーにギフトを授けて放置でも良かったのよ?だけど悪いと思ったから、こうしてプリチーな姿を見せてあげに来たんじゃない。感謝して崇め奉っていいのよ?』
………クッ、確かに、見た目はどストライクのロリ女神だ。
一つ一つの仕草も、あざとくはあるが、それでもイイ!。
演技だろうがあざとかろうが可愛いは正義なのだっ!
今、このロリ女神様が、お願いポーズで、潤目で見上げながら、頼み事をしてきたら、何でも聞いてしまいそうだ。
『怒らないで………。許してくれゅ?』
………そうこんな風に。
「許す、許すに決まってるだろっ、コンチクショゥッ!………あ、でもチート能力はください。」
『チョロいわね~。そんなんじゃいつか女の子に騙されるわよ?……後涙くらい拭きなさいよ。』
そう言いながらハンカチを差し出す女神ちゃん。意外と優しいところがあるんだ。
「可愛い子相手なら、どれだけ騙されてもご褒美だ!」
俺はそのハンカチを握りしめながら、そう宣言する。
『………業が深いわね。』
「………放っといてくれ。それより本当の目的は何なんだよ?」
俺は、ズバリと核心に切り込む。
イケメン好きのロリ女神が、いくら俺との約束をまもるためとはいえ、ご執心のイケメン勇者を放って俺の所に来るはずがない。それこそテキトーにギフトを授けてお茶を濁すはず、それだけは断言できる。
それなのにわざわざ姿を見せに来るのは、なにか重大なことがあるに違いない。
『………ブサメンのクセに中々鋭いわね。』
「だから、ブサメンじゃないって。」
……イケメンとは言わないが、そこそこは見れるハズ……多分。
『あのね、聞いてくれる?………』
そこから始まったのはロリ女神の愚痴だった。
イケメン勇者の望みを叶えて、チートな能力を授けて無双させたり、好みの女の子とのセッティングをしたり、とにかく言われるがままに加護を与え続けたのだそうだ。
そうしたら、イケメン勇者は金と権力と女の子に溺れ、女神のことなんか見向きもしなくなったという。
しかも……
「世界を救う?なんでそんな事しなくちゃならないんだ?俺は今のままで満足なんだよ!」
と言って、勇者の役目を放棄しているという。
お陰で、ロリ女神は監督不行届ということで、上司のお説教を喰らう毎日。
俺へのチート能力を授ける約束があった、と、お説教から逃げ出して来た、というのが実情だった。
「くぅ~、チート能力でハーレム三昧?羨ましすぎるっ!しかも、こんな可愛い女神ちゃんを袖にする?クッソー、いらないなら俺によこせよっ!」
『ウンウン、やっぱりこうじゃなくちゃ。私は偉大なる女神。私の可愛さに悶え崇めるがいい。……あ、でも、アナタのものにははならないからね。』
「………いや、確かに可愛いが、偉大かどうかは……。後崇めるつもりもないし。」
『なんでよっ!可愛いは正義だって言ったじゃないのよっ!』
「確かに言ったが、今の女神ちゃんはTVでアイドル見てるのと変わらないし?俺は可愛い少女を見るのは好きだが、アイドルを崇め奉るような狂信者じゃないからな。」
『うぅ~、じゃぁどうすればいいのよ。』
「そんなん、現世ご利益に決まってるだろ?エッチし放題ムフフで最強のチート能力をくれよ。」
俺は、剥れている女神ちゃんにそう告げたのだった。
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