第11話 楽しみの始まり

「さて、始めるとするかね」

 一本の剣を携えて戻ってきたガーウェイ。

「一度確認するが、俺がこの街から出ればいいんだな」

「そうだね。

 ああ、そうだ。もう一つ追加で、朝まで逃げ切れたときもそっちの勝ちで構わないからね」

 さすがに朝までには終わると思うけれど。

「分かった。

 後、アズとダネルだが」

「それなら、別に一緒にいても構わないからね。何なら3人で好きなように抵抗してくれても構わないさね」

 ダネルの方は何ができるのか予想できないけれど、一人増えたくらいなら対処は問題ないだろう。

 アズの方は、子供なら大したことは出来ないだろうから数にいれる必要はないか。

「なら二人も連れて行く」

「好きにおしね。

 すぐに会って、私と一緒に帰るのだからね」

「お前とはこれでさよならだ。」

 行くぞとガーウェイが声を掛けると、その後をアズとダネルがついて行き、部屋には渡しとザイムだけになる。

「あのような賭けをして、本当によろしかったのですか?

 失礼ですがレーテ様お一人で、彼を捕まえるというのは」

「何、別に難しいことじゃないさね。

 昼ならともかく、夜ならどうとでもしようがあるからね」

「ならばせめて、護衛くらい雇ってお付けになられた方が」

「それこそ邪魔になりかねないね。

 まあ安心おしね、今夜中にはすべて終えて宿に戻るからね」

 まだ心配そうな顔をしているザイムを残し、私は夜の街へと出る。

 街はまだ賑わいを残しており、この中へとくり出したい気持ちを掻き立てる。

 けど今は、そんなことをしている場合じゃない。

 フードを外し、結っていた髪を解く。夜風が髪を揺らす感覚がなんとも心地良い。

「さて、探すのにちょうどいいのは……」

 うん、あの鐘楼が良い。高くて街中が見渡せそうだ。

 わたしは鐘楼を目指して、真っ直ぐにその方向へ歩く。大通りだろうが小さな路地だろうが、関係なく歩く。

 何度か路地を入った頃、急に声をかけられた。

「おい、お嬢ちゃん。一人で何してるんだ?」

「そんなキレイな服着て、どこの金持ちのガキだ?」

 数人の男が私の周りを囲んでいた。

 これから楽しみの始まりだと言うのに、興を削がれたような気分だ。

 適当に振り切ろうかとも思ったが、自分が思ったよりも渇いているのが分かった。

 ああ、ガーウェイ。早く捕まえてあげたい。

「なにか答えたらどうなんだ? それとも怖くて声が出ないか?」

 はぁ、やかましい。適当に人目のないところに誘って潰して……いや、こういうのを食前酒や前菜と呼べば良いのだろうか。

 久しぶりの運動になるかもしれないし、準備体操だと思えば悪くない。

 男たちを見る顔が、自然と笑みになるのが分かった。

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