第10話 アズのこと
「使えそうな武器はありますか?」
「そうだな」
街の鍛冶屋で剣を何本か試しに振るい、一番手に馴染んだものをダネルの方へ差し出す。
「これが一番手に馴染んだ。この剣がいい」
「わかりました。
店主この剣を、あと腰に下げるベルトもお願いします」
剣一本だが、素手でいるよりはいい。
「後はなにか服を」
「いや、今はいい。俺たち竜人の鱗はナマクラに傷付けられるほどヤワじゃないだろう。
服はくだらない賭けが終わった後でゆっくり選ぶさ。
そんなことより早く戻ろう。アズが心配だ」
そうですね、とダネルが短く答える。
そうだ、今のうちに聞いておくとするか。
暮れゆく街を歩きながら、俺は思っていたことを口にする。
「一つ聞きたいことがある。君は何なんなだ?」
「何なんだ、とは?」
「君は黒の部族なのに青の部族のアズと一緒にいた。なぜ黒が青と一緒にいる?
それとアズが言っていた先生とはどういう意味だ?」
「ああ、そのことですか」
ダネルが少し間をおいて口を開く。
「六年前、青と黒の村双方で病が流行りました。もともと魔術師や薬師が多かった黒の村は被害は少なかったのですが」
ああ、続きを聞かなくても嫌な予感しかしない。
「魔術師や薬師の少ない青の村は、大きな被害を受けました。
その時の青の族長が自身の首と引き換えに、黒の部族の薬師を青の村に招き入れました。俺はその薬師の息子です」
「そうか、族長が……自ら首を差し出したのか?」
「いえ、最後は黒の戦士と剣を交え戦い、死にました」
そうか、最後は戦いの中で果てたのか。ならまだ、本望だっただろう。
「アズ君、正確には彼の母親のシアラさんが俺達家族の世話役でした。だからシアラさんの手伝いをしていたアズ君とも交流と言いますか、そういうものがありまして……俺や父が魔術を教えていたんです」
「魔術を?! 青の子供なのにか?!」
「驚きますよね、そこは」
驚くなんてもんじゃない、青の子なら戦士として育ち戦士を目指すものだ。
「シアラさんは戦士ではないから戦い方は教えられませんでしたし、アズ君自身が自分のお父さんに戦士として鍛えて欲しかったらしくて、村の他の子達とあまり上手く行ってなかったんです」
「そうか、俺がいなかったから……」
「ガーウェイさんが自分を攻めることじゃありません。
でも、アズくんが魔術を使うことがあってもあまり驚いたり、叱ったりはしないであげてください。
あの子はあの子なりに、強くなろうと頑張ってたんです」
叱るもんか。シアラの、母親の手伝いをしながら自分が強くなる方法を探すような子だ。立派じゃないか。
ただそう思うと同時に、そのときに自分がいてやれなかったことが、何もしてやれなかったことが悔やまれて仕方ない。
八年か……八年あれば俺はあの子に、アズに何をしてやれたんだろうか。
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