第9話 今生の別れかもしれないのに
「レーテ様、良いのですか? あのような約束をしてしまって」
「別に構わないさね。賭けに私が勝てばいいだけの話なのだからね」
心配そうなザイムは置いておいて、三人の竜人を見る。
運ばれた料理を黙々と口に運ぶゴーヴァン、何も口にしようとしないアズ、落ち着きなさそうにお茶を飲むダネル。
「なにか話でもしなくてもいいのかね? これが今生の別れになるかもしれないのにね」
アズの肩が震え、ダネルが苦虫を噛み潰したような顔になる。
二人には悪いが、私もガーウェイが欲しい。何しろ長年求めていた逸材かもしれないのだから。
「そんなことにはならん。俺は息子を、アズを連れてシアラのもとへ帰る。それだけだ」
「おやおや、ずいぶんな自信だね。
でも私は疾いよ」
「なら俺はそれより早く走るだけだ」
いいね、何だか楽しくなってきた。
「でもそれだけじゃ、まだ、私のほうが有利だろうからね、武器を使っても構わないさね」
食事をしていたザイムがむせ返る。
「ゴホッ、な、何を言ってるのですか!
相手は剣闘奴なのですよ?! 武器なんて持たせたら、危険なんてものじゃないでしょう!」
「人を甘く見てるのか?」
「甘く見てるわけじゃないさね。
少しでもそちらが有利になるようにしてあげているだけさね。
一方的に勝っても、楽しくも嬉しくもないからね」
そもそも負ける気はないのだが。
「けれどそろそろ日も落ち始めている頃だし、店仕舞いする頃合いだね」
「なら、僕が武器を用意させてもらいます」
ダネルが手にしていたカップを置くと立ち上がり、カバンを片手に部屋から出て行こうとする。
「待ってくれ、武器を買うなら俺も行こう。自分で使うものだ、自分で選びたい」
「それはダメだね。
そう言って逃げてしまうかもしれないじゃないかね」
「俺がそんなことをすると思うのか?」
「お互い性格がよくわからないからね。念の為に、ガーウェイはここに」
「ぼく、ここでまってる」
私の言葉の途中でアズが声を上げた。
「おとうさん、いっしょに帰るって言ったんだ。だからぼくをおいて、一人でどこかに行ったりなんてしない」
おやおや、声を震えさせて健気なものだ。
「当然だ、一緒に帰ろう」
ガーウェイがアズの頭をなでてやると、泣きそうなそれでも嬉しそうな顔をする。
「急ぎましょう、必要な物があるなら早く買い揃えないと」
ガーウェイはダネルの言葉に一度頷くと、二人で部屋から出ていってしまった。
「行ってしまったね。ちゃんと夜までに、帰ってきてくれると良いんだけれどね」
「くるもん。おとうさんは帰ってくるもん」
「そうだね、帰ってきてくれないと私も困るからね。
それにしても」
思わず笑みがこぼれる。
「まだ幼いのに自分から人質になるなんて、大した子だね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます