賭け
所有物だと? 俺が?
「そう言うことだから、諦めてくれるかね?」
レーテはこれで話は終わりだ、と言いたげに息を吐く。
冗談じゃない。
「俺はこの子と行く。それを変える気はない」
「それはその子のために止めた方がいいと言っておきましょう。
この街は前時代的な法が多いのです。例えば盗人は右腕を切り落とす、そんな法がまかり通っています」
腕を、と言われアズとダネルの表情が変わる。
そんなこと、させてたまるものか。
だが、それならどうすれば。
「そんなにアズと一緒に行きたいのかね」
「当然だ、俺の子なんだぞ」
「金の足りない分は必ず払います。だからゴーヴァンさんを」
ダネルが頭を下げる。黒の部族のはずの彼が、どうして青の部族の俺をこうまでして?
「二人は本当に、どうしてもゴーヴァンを連れて行きたいのかね?」
二人は頷く。
「それなら、私と賭けをしないかね。
もしその賭けに勝てたら私はゴーヴァンを諦めようじゃないかね」
「賭け、ですか?
一体何をすればいいんですか?」
レーテが笑う。まるで毒蛇が獲物に向けるような、背筋を冷たくする笑いだ。
「別に難しいことは無いさね。
ダネルとアズはゴーヴァンを連れて、この街から出る、私はそれを追いかける。
ようは追いかけっこだね。子供の頃やったことはないかね?」
「随分と余裕そうだが、俺はアズを抱えて走ってもお前に捕まらない自信はあるぞ」
「ふふふ、そうだね。今やれば、簡単に私は逃げられてしまうだろうね。
だから夜になってからやろうじゃないかね」
「それなら今すぐにでもアズを連れて逃げても構わないぞ」
「そんなことをしたら、私はこの街の役人に知らせないといけないね」
こいつ……
「ダネル、君はこの街の地理にどのくらい詳しい?」
「この街には昨日ついたばかりで、決して詳しいとは……」
「それなら安心おしね、私もこの街の地理には詳しくないからね」
二人の言っていることが本当なら、条件は変わらないか。
しかしなぜ、夜になってからなんだ? 只人は夜目が効かないはずだ、昼の方がまだ有利に動けるはずでは?
俺がどうしたものかと考えていると、アズが俺の足を掴み、不安そうな目で見上げてくる
「おとうさん、大丈夫だよね」
こんな時、どう答えればいいんだろう。子供に俺の懸念していることを話しても理解出来るかわからないし、無責任に大丈夫などという言葉を使いたくはない。
「アズ、君はお父さんがこの人たちに捕まると思うのかい?」
ダネルがアズの方を向いて、言葉を投げかける。
アズは首を横に振り、なおいっそう強く俺にしがみついてくる。
そうか、そうだな。父親なら、自分の子供を不安にさせるようなことをするもんじゃないな。
「アズ、一緒にシアラの、お母さんのところへ帰ろう」
いいだろう、こいつの賭けに乗ってやろうじゃないか。
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