第12話 得体のしれない相手

 駆ける。アズを腕に抱き、駆ける。

「ダネル、街の城門はこの方角で良いのか」

「はい、間違いないはずです。

 僕たちは城門を通ったあと、この通りを通りました。

 間違いありません」

 夜とはいえ、まだ明かりがアチラコチラに灯されている通りに人は少なくはない。走るのに邪魔に感じながら、道を行く人々の間を縫うように進む。

「おとうさん、重くない?

 ぼく、じぶんではしるよ」

「アズくらい軽いもんだ。

 それよりアズ、あの少女は追ってきていないな」

「うん、おいかけてきてる人はいないよ!」

 よし、ならこのまま進むだけだ。

 そうしてしばらく走った頃、鼻を不愉快な臭いがつく。

「血の匂い?」

「見つけた」

 声の臭いのもとに視線を向けるとあの少女、レーテが建物の屋根の上に立っていた。

「今、そっちに行くからね」

 そう言うと屋根を蹴って飛び、軽やかな仕草で俺達の前に降り立った。

「思ったより早く追いついたね。

 さて、あとは捕まえたらおしまいだけど、息子とのお別れは済んでいるかね?」

 アズとの別れ? する必要なんてない。

 アズを下ろすと剣に手をかけ、レーテへ視線を向ける。

「おや、やるつもりかね?」

「お前がそこをどかないというのなら、力ずくで行く」

「こんな小娘相手にかね?」

「相手が誰であろうが関係ない。今の俺の邪魔をするなら、誰であろうと切り捨てる」

 レーテはクスクスと笑いをこぼす。

「いいね、そういう覚悟は嫌いじゃないさね。でもね」

 次の瞬間、レーテが目の前にいた。

 血の臭いが一層濃くなる。

「私も逃がすつもりはないのでね」

「っが!」

 胸に手を当てられた、そう感じた次の瞬間、胸に強い力を感じたかと思ったら俺は地面に体を叩きつけられていた。

「おとうさん!」

「ガーウェイさん!」

 素早く起き上がり、剣を構えてレーテを見据える。

 眼の前にいるのはどちらかといえば、痩せっぽちな只人の少女。俺を一撃で叩き倒すような力など、無いように見える。

「魔術士か」

「さあ、どうだろうね?」

「魔術? あり得ない!

 肉体強化の魔術は、本人の元の力量に左右されるはず。もし魔術によるものなら、既存の魔術とは異なりすぎてる!」

 なるほど、魔術師の可能性はない、か。

「なら問題ない。剣で切れる相手なら、恐れるものはない」

「おやおや、切るだなんて恐ろしいね。

 私はただガーウェイを捕まえに来ただけさね」

 クスクスと笑うレーテを無視し、周りに目をやる。

 後ろにはアズとダネル。周りにはまだ外にいる人々。

「安心おしね、これから我儘を言う奴隷へ折檻をするだけだからね。

 辛かったりしたら言っておくれね」

 俺は青の部族の戦士だ。こんな少女からの折檻で、いや、相手は見た目のとおりだと思うのは油断だ。

 あいつは、何かを隠している。そう考えて行動すべきだ。

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