第6話 俺が父親?

 少女と共にいた犬人に連れられ、俺達は街にある一軒の店に来ていた。

 店先に立っていたときから食事の匂いがしていたから飯屋なのだろうが、俺の目から見ても豪華、というより派手な装飾が目に付く店だった。

「店の者と話がつきました、入りましょう」

 犬人が店に入るのに続いて俺達も店に入る。

「ご案内いたします」

 ここで働いているのだろう只人が先頭に立ち、歩き始める。

 俺を見たとき、汚らしいものを見るような目をしていたが、気にせず歩く。

「どうぞ、こちらをお使いください」

 そう言って一つの扉を開けると真っ白な布がかけられたテーブルの周りに四つの椅子が置かれていた。

 俺達の人数は犬人、少女、青の子に黒の青年、そして俺の五人だ。どう見ても一つ足りない。

 店の者が椅子の一つを引くと、当然のように少女が座る。

「どうぞ、お二人もお掛けください」

 続いて犬人が座り、少年と青年に座るよう促す。

 俺が立っていろ、ということか。

 全員が椅子に座るなか、俺はそばの壁に背中を預ける。

「で、お二人なのですが」

「待ちなね、話をする前にお互いの名前くらい名乗ってもいいんじゃないかね?」

「分かりました。

 こちらはカランコルム大公の客人、レーテ様です。

 私、今回のお側仕えの任を大公より承りましたザイム・アッカーソンと申します」

 犬人、ザイムに紹介されながらレーテと呼ばれた少女はフードを外し結っていた髪をほどく。

「僕はダネルと言います。

 この子はアズ、8年前に行方不明になった父親を探してこの街へ来ました」

 父親を探して、か。まだ幼いのに大したものだ。

「で、二人はこの」

 少女が俺を見て言葉を止める。理由あっての手前の二人に対し、なんと呼んだものかと考えてでもいるんだろう。

 少なくとも、あの子のためには名乗るべきだろうな。

「ガーウェイだ」

「ガーウェイがその子の父親だというのだね?」

 俺の名前を聞いた二人の表情が、変わるのがわかった。

「アズ君」

「うん、おとうさんの名前だ」

 ナニ?!

「おとうさん! おとうさん!」

 少年は立ち上がると俺に駆け寄り、俺の足に抱きついてくる。

「ち、ちょっと待ってくれ。俺が父親? この子の?」

「何だね、身に覚えがないのかね」

 身に覚えも何も、こんなところに連れてこられる前は妻もいたんだ。身に覚えは十分ある。

「待って、待ってくれ。君、アズだったな。君のお母さんの名前を教えてくれ」

「シアラ。おかあさんの名前、覚えてるよね」

 覚えてるも何も俺の知っているシアラは一人だけだし、あの村には他にシアラという名前の女性はいない。

「じゃあ、君は本当に……俺の」

 この子は、俺の息子?

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