第2話 男は剣を振るう
呼吸を整え半身に構え、腰を低く落とす。
右手に持つ剣の切っ先を相手の眉間に向け、左手を柄に添える。
互いが睨み合い、どちらが先に動くかと硬直する。
来ないか、なら此方から行かせてもらうか。
半歩踏み出し、相手の首へ向け剣を振るう。
相手の手にした剣が、手首が、腕が、肩がどんな軌道で斬りかかるかを俺に教える。
踏み出した足が、歩幅がどこまで接近してくるかを知らせた。
振った剣を止め、尾でバランスを取りながら体を軽く右に倒し、振り下ろされた一撃をかわし、宙で止めた剣を弓のように引き絞り、今度は相手の心臓を狙い突き出す。
相手に俺の剣を切り上げ弾かせ隙をできたように見せる。
俺を袈裟懸けに狙ってくる一撃を受け流し、その勢いで地面を切りつけさせ、相手に体をつけるほど接近し首に刃を突きつけ、笑う。
「これで俺の勝ちだな」
「クソっ、やっぱりオマエにゃ勝てねえ!」
さっきまで切り結んでいた相手は手にした剣を手放すと、その場で手足を広げて倒れ込む。
「これが闘技場だったら首持ってかれたところだぜ」
「そんなことはないぞ。俺はこの街の連中が喜ぶような戦いはしたくない。
優秀な戦士を、くだらない戦いで死なせるようなことはしないさ」
手を伸ばし、起き上がるのに手を貸す。
「それでもオマエとは、あそこじゃ戦いたくねえもんだ。何もわからねえまま首切られて終わりなんざ、ゾッとしねえや」
軽口とも言えない軽口を叩き合いなら、相手は体についた砂埃を叩き落とす。
「しかし青い鱗は戦い好きって聞いちゃいたが、アンタはなんか違うな」
「そうでもないさ、剣を交えることは好きだ。ただ、意味なく相手の命を奪うのが好きじゃないだけだ。
特に、この街の闘技場のような場所ではな」
俺の言葉を言うねえと笑い飛ばし、水桶の方へ行き、頭から水をかぶり始めた。
俺もそれに続き、頭から水をかぶる
まださほど温まっていない体には冷たく感じるが、考えを切り替えるのには役に立つ。
服なんてはじめから来ていない、下履き一枚だから濡れたところですぐに乾く。
隣でまだ水を浴びている男を見る。全身を覆う緑の鱗、竜の頭と尾、竜人だ。
俺も隣の男と同じ竜人だが、鱗の色が違う。俺の鱗の色は、青だ。
黒は臆病、青は乱暴、緑は根無し、白は虚弱、なんて村にいた頃は言われてたが、そんなものは個人の差だと思っている。
現に俺の隣で散々水を浴びてさっぱりした顔をしている男は、生涯を仕えられる主人を探しているらしい。
すっきりとした頭でそよ風を感じていると、頭を割るのかというくらいやかましい音が響き渡る。
「お前達!集まれ!」
見張り番が鐘を何度も叩き、声を上げている。
「何だ? 飯の時間はまだだろ」
「どうせ、上客とかいう奴が来たんだろう」
下働き役の奴隷が柔らかそうな椅子と日除けを用意している。こういう時は、俺達を買おうと言う客、それも金払いがいい客が来たときの反応だ。
まあ、俺には関係のないことだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます