奴隷竜人、父になる

門音日月

奴隷竜人、父になる

第1話 少女は求める

「宜しいですかレーテ様、貴女は大公の客人として、それに相応しい品性を持って行動していただかなくては困ります」

 宿の一室で目の前に立つ、犬人の男の説教が続く。

 それを私は髪を弄りながら聞き流す。

「聞いているのですか、レーテ様。

 ただでさえ奴隷などという卑賤なモノを買うというのに、あのように市井の娘のようにはしゃぐなど」

「仕方ないだろうさね、私はこの街に来るのは初めてなのだもの。見るもの聞く物珍しいのだからね」

「だとしてもです。大公の名に恥を塗るような行為は謹んで頂きます」

 生返事を返し、窓の外へ目をやる。

 宿の窓から見える大通りには多くの人が行き交い、目に見てもわかる賑やかさはその場に混ざりたい誘惑を放っている。

 私にとっては人の群れというのは、違う意味でも誘惑的なのだけれども。

「レーテ様、貴女のご要望の品についてはこちらである程度用立てます。ですので、それまでここでお過ごし願います」

「ちょっと待っとくれね。

 宿の部屋で一人で何もしないで待つだなんて、退屈で頭がおかしくなってしまうさね」

「でしたら、宿のものを呼んでお茶やお菓子でも頼まれては?

 もし時間を持てましてしまうようでしたら、本などご用意しましょう」

 特大のため息が出る。

 ただでさせ壁の向こうには誘惑があるというのに、それをお預けされた上、つまらないお茶お菓子に本。たまったものじゃない。

「私がはしゃぎすぎたのは分かったし反省するから、せめて一緒に連れて行っておくれね。

 一人で待つなんて、私には耐えられないさね」

 犬人は疑うような目で私を見る。

「はしゃいで関係のない店になど行こうとなさいませんか?」

「ああ、約束するさね。目的の場所につくまで大人しくしてるさね」

 相手が小さく息を吐くのを見て、期待が胸に芽生える。

「分かりました」

 その言葉を聞いて、私は思わず飛び跳ねそうになるが堪える。

 ここで品良くしておかなくては、本当に留守番をさせられなかねない。

「じゃあ、早く行こうじゃないかね」

 犬人がため息をついているような気がするが、無視しておく。

 一応、少しでもそれらしく見えるよう着ているドレスの裾を直し、無駄に飾り付けられたフード付きのマントを身に着けて、部屋の扉に向かう。

「さあ、早く行こうじゃないかね。時間は無駄にしたらいけないからね」

 いけない、嬉しさで走り出してしまいそうだ。

 でも、ああ、初めて訪れる場所というのはやはり、どこか楽しい気持ちにさせてくれる。

「さあ、早く私に使えるに相応しい戦士を探そうじゃないかね」

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