第54話アルベルト視点

 それからすぐにルミドブール家の屋敷に馬車を走らせた。

 俺は屋敷に着くとクレティオス帝より先に屋敷に駆け込む。

 「トルーズ!トルーズ。どこにいる?」

 「旦那様、どうされましたか。こんな急にお帰りとは…今知らせを向かわせようと…」

 「シャルロットはどんな様子だ。お客人を案内して来た。コンステンサ帝国のクレティオス帝がシャルロットに会いたいと言われている。すぐにシャルロットに支度を、急げ!」

 「それが、シャルロット様は出ていかれました。部屋にはこんな手紙が置かれていて」

 トルーズが差し出した手紙を見る。

 どういうことだ?結婚を辞退するだって?

 「それでシャルロットはいついなくなったんだ?」

 「昼食は取られたんです。私は用に出かけてベルとルナもちょうど買い物に出ていたらしく、3時にベルがお茶をお持ちした時にはもう姿がなかったと」

 「行き先に心当たりはないのか?まだ身体もしっかりしていないのになんて脱茶なことを…すぐに探してくれ…ヨーゼフの所は行ったのか?」

 「はい、すぐにヨーゼフ先生の所には伺ったのですが、いらっしゃいませんでした。先生もご存じなくて、今ベルたちが市場のあたりを探しているところです」


 そこにクレティオス帝が来た。

 「アルベルト殿、それでシャルロットはどこに?」

 「クレティオス帝、申し訳ありません。今朝は屋敷にいたのですが、どうも勝手に出て行ったらしくて今探させていますので」

 「もしかして何者かが連れ去ったという可能性はないのか?シャルロットの身に何かあったら…」

 「ええ、ご心配はもちろんです。ですが取りあえずどうぞ中にお入りください」

 「いや、それどころではない。すぐに手分けして探してくれ。私の部下にも手伝わせる」

 クレティオス帝も居ても立っても居られない様子で指示を飛ばす。

 俺はそんなクレティオス帝をリビングルームに案内してソファーに座ってもらう。



 そこにベルが帰って来てリビングルームに急いで入って来た。

 「ベルどうだった?シャルロットは見つかったか?」

 「いえ、どこにもいらっしゃいません。ですが馬車乗り場で一人の若い緋色の瞳をした女性がムガル行きの馬車に乗ったと…何でもトランクを抱えてリンドウ色のマントを深くかぶって顔は良く見えなかったらしいのですが…」

 「リンドウ色のマントだって?」

 俺の記憶が蘇る。

 シャルロットに一番最初に出会った時、彼女は確かにリンドウ色のマントを羽織っていた。かわった色だったから記憶に間違いはない。

 きっとシャルロットはムガルに…そうか!カロリーナの家に戻ろうとしているのかも知れない。

 彼女の育った家で唯一彼女の帰る場所なのかもしれない。

 カロリーナは亡くなったから家を出たのだろうが、こんなひどい目に遭って嫌になったのだろうか?

 でも、シャルロットは俺との結婚を承諾してくれたじゃないか。なのにどうして…


 「トルーズ。シャルロットにお客はなかったか?」

 「そう言えば、バーリントン伯爵がお見えになりましたが…」

 「バーリントン伯爵が?」

 議会で結婚の話をした時の事が頭に浮かぶ。頭の古い貴族たちはシャルロットがどこかの王女とか貴族のお嬢様でないことが気に入らないらしかった。

 もしかしてバーリントン伯爵も余計なことを言ったのでは?

 「トルーズ。バーリントン伯爵を探してシャルロットに何を話したか聞きだしてくれ。急いで、私はムガルに行く支度をする」

 「はい、旦那様すぐに」



 その様子を見ていたクレティオス帝が割って入る。

 「アルベルト殿、それでシャルロットは?」

 「多分ムガルに向かったのだと思われます。ムガルの森の奥に彼女がカロリーナという女性と暮らしていた家があるんです。きっとそこに向かったのだと…急いで後を追うようにします」

 「そう言うことなら私も同行したい」

 「ですが、あのように数が多くては…私が先に馬で追います。クレティオス帝は後からムガルを目指していただけますか?」

 「う…アルベルト殿の言う通りかもしれん。私ひとりでの行動は無理だろう。あなたが言う通りに、それではカロリーナの家に行く道筋を教えておいてくれないか?」

 「ええ、もちろんです。すぐに道筋を書きましょう」

 俺はムガルからカロリーナの家に行く道筋を紙に書いてクレティオス帝に渡した。


 「クレティオス帝、今一度シャルロットのところに来た伯爵の話を確認して私は出発しようと思います。では支度をしますので少しの間失礼します」

 クレティオス帝にお茶を出すようにルナに言いつけて俺は支度をしに自分の部屋に行った。

 馬に乗るし国境を超えるから騎士隊の服がちょうどいいだろう。

 服を着ながら寝室のサイドテーブルにうっかりエリザベートがはめていた腕輪(守護の宝輪)を置いていた事に気付く。


 エリザベートはあの後、忌まわしい腕輪とでもいうような顔をして腕から放り出したのだ。

 俺はあの時思った。

 この腕輪はアドリエーヌ以外の者は守らない。いや、逆にアドリエーヌ以外のものがつけると付けている人間を傷つけるのだと。

 エリザベートはそんな事もわからないで今までこの腕輪をはめていたのかと思うといかに彼女が無能だったかと思った。

 そうだ、これはもともとアドリエーヌ様の腕輪だったはず、ちょうどいいクレティオス帝に返しておこう。

 何げなくその腕輪を騎士隊服の上着の中に入れた。


 すぐにトルーズがドアをノックした。

 「旦那様、ヨーゼフ先生のところにバーリントン伯爵がいらっしゃいましたのでこちらに来ていただきました」

 「入ってもらってくれ」

 俺はバーリントン伯爵から話を聞いた。思っていた通りだ。

 シャルロットはそれで結婚を辞退するなどと考えたのか?

 俺がそんな事で結婚をやめるとでも?

 どうして相談してくれなかったんだ。勝手なことをして!

 心配が今度は腹立たしさに変わる。

 俺がどれほど君を欲しているか、それをシャルロット君はわかっていない!


 イライラは頂点に達してた。

 クレティオス帝に断りを言うときに俺はかなり頭に血が上っていた。

 それにすぐに出発するつもりだった。

 だが、ひとり出発する事にという訳にはいかなかったようで。

 レオンとリンデンが駆け付けて護衛について行くと言って聞かなかった。

 「いいから心配ない。俺ひとりで行く。これは個人的な事なんだ。お前たちに関係ない!」

 いい加減にしろ!今までは何をするのも自由だったので、いきなりの不自由さに俺はいきまく。


 「個人的な事だろうと何だろうとおひとりでいかせるわけにはいきません。アルベルト様あなたはもうおひとりの身体ではないのです。万が一のことがあるとも限りません。私たちはあなたのそばを離れませんから!諦めて下さい」

 くぅぅ!これも皇王ゆえの?

 

 そうこうしているうちにやっと出発出来たのはもう夕暮れ近くなったころだった。仕方がない今夜は野宿でもするしかなさそうだ。

 シャルロットどんなことがあっても君を連れ戻す。

 俺と結婚してくれるまで絶対に俺は君から離れないからな!




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