第53話アルベルト視点

 俺は正装をしてコンステンサ帝国のクレティオス帝を出迎えた。

 謁見の間ではあまりにも堅苦しく、クレティオス帝を下に見ているようにとられても困ると思って貴賓室に通すことにした。

 王城で客をもてなすための部屋は大きな広間で床は大理石、壁には金糸銀糸で装飾が施され、天井には美しい絵画が描かれてクリスタルのシャンデリアが煌めいている。

 ソファーやテーブルも豪華で調度品も金の装飾が施してある立派な部屋だ。


 「これはこれはクレティオス帝。ようこそお越しくださいました。前もってご連絡いただければお迎えにも行けましたのに、とにかくこちらにお座り下さい。今飲み物を」

 「この度は急な用向きなのにご丁寧なもてなしをして頂き申し訳ない」

 侍女がお茶をもって入って来た。テーブルには薫り高いアールグレイのお茶や果物、ハムやチーズの盛り合わせやサンドイッチなどが置かれた。

 「さあ、まずはお茶でもいかがです」

 「ああ、いただこうか」

 クレティオス帝は一息ついて気持ちを落ち着けさせるためかカップを手に取ってお茶を飲んだ。


 「それで今日はどのようなご用件で?」

 俺はクレティオス帝が一体何の用向きでここに来たのかと気が焦っていた。

 彼はカップを置くとそう言われるのを待っていたかのように、話を矢継ぎ早に始めた。

 「ええ、実は今日デルハラドに伺ったのは、シャルロット・ジェルディオンという女性を訪ねるためでして…個人的な用向きなのですが急を要することだったのでこんなかたちになってしまい申し訳ない。本当はここに招かれるほどの事でもなかったのだが、まあ一国の王が来れば仕方がない事でしょうが、本当にお手間を取らせて申し訳ない」

 俺はシャルロットの名前を聞いてどきりとしたが、カッセルではないのでシャルロットとは別人だと思った。

 「いえ、私もお会いできて光栄です。それでそのシャルロット・ジェルディオン嬢はどちらにいるかはわかっているのですか?」

 「彼女はヨーゼフという医者の所に身を寄せているはずなのですが、知り合いから聞いたところ彼女の身が危険な目に遭ったらしいと伺ったものですから、失礼を承知で来たのです」

 「シャルロット・ジェルディオン嬢ですか?どちらかのご令嬢でしょうか?」

 ヨーゼフの所に身を寄せているシャルロットだなんて、彼女しか思い当たらないが…

 クレティオス帝の眉が上がる。

 「いや、私としたことが…そう言うあなたはどちらの?出来ればランベラート皇王と直接彼と話をする方が早いというものですが…」

 彼は苦虫を噛み潰したような顔をした。


 まあ無理もないはなしだ。俺は表向きな公式行事には顔を出したことがなかったし、顔を知られていないのもわかる。

 「実はクレティオス帝。ランベラートは退位しまして次の皇王には私、アルベルト・ルミドブール・エストラードが即位したばかりでして…すぐにでもコンステンサ帝国にはご挨拶に伺うつもりでした。クレティオス帝、何卒よろしくお願い申し上げます」

 「いや、それは失礼した。アルベルトということはコステラート皇王のご子息という事ですか?」

 今度は驚いて目を大きく見開く。

 「はい、今までの事、色々不都合があったようで本当に申し訳なく思っています。今後あなたの国とはますますの取引をして行きたいと考えておりますのでどうかよろしくお願いします」

 「いや、そういう政治的な話はまた次回に、今は一刻も早くシャルロットの無事を知りたいのです」

 「私の屋敷の近くがヨーゼフの屋敷ですがシャルロット・ジェルディオンという女性は存じません。そもそもジェルディオン家に女性はいないはずですし…もしかしてシャルロット・カッセルという女性ではないのですか?その女性の事なら、今、私の屋敷におりますが…」

 「そのシャルロットは緋色の瞳、淡い桜色の髪でしょうか?」

 「はい、そうですが」

 「では名前を変えてそちらの屋敷にいるという事でしょうか?できればその女性に会わせていただけませんか?ぜひ無事を確かめたいのです」

 「ええ、もちろん構いませんが、あの…クレティオス帝とその女性とはどういうご関係でしょうか?」


 コンステンサ帝国のクレティオス帝がわざわざこんな所にまで出向いてくるほどの事だ。よほどのことに違いない。

 でも、シャルロットとどういう関係なんだ?

 俺の胸には嫌な予感が込み上げてくる。

 でも彼が会いたいというものを知らんふりをする訳にもいかない。


 「それは、今は言えない。許してほしい。勝手なことを言ってばかりだがいずれ時が…いや、待ってくれ。先ほどランベラートは退位したと言われたがで国の政治に関してランベラートとエリザベートはもう関わらないという事なのか?」

 「はい、そうです。今までの政治はすべて過ちでした。私の決断が遅れてコンステンサ帝国にもご迷惑をおかけしました。それを今後は正していくつもりで」

 「ではシャルロットはふたりを倒したという事か?いや、シャルロットではなくあなたが?」

 ぶつぶつとやっと聞こえるかのような声が聞こえた。


 「こんな風にうまく行くとは予想もしていませんでしたが、時が来たとでも言いましょうか。みんなの協力で実現できたのです。私一人だけではとても無理でした。彼女…いえ、シャルロットには最初から驚かされてばかりでした。彼女がいなかったらこんなに早く事が運ばなかったでしょう。私が決断できたのも彼女のおかげですし、彼女は実に素晴らしい力の持ち主で…」

 シャルロットのすばらしさを話始めたらもう止まらなくなった。

 彼女は清く強く美しくとても素晴らしい女性で…


 「では、シャルロットはかなりの力を発揮したという事なのですか?それであんな目に?」

 「それはどういう事でしょうか?」

 「いえ、実は彼女には見守るものを付けておりまして、そのものからシャルロットが牢に入れられたとおまけに無実の罪で、何やら怪しげな医者が毒を投与いているらしいと一刻を争うと思いましたが助けられたと聞きました…それでもいてもたってもいられなくなって…彼女は無事なんですか?いいから今すぐにシャルロットに会わせていただきたい!」

 クレティオス帝の心配は異常なほどで私はすぐにシャルロットのところに案内することを決める。



 「ええ、シャルロットはもちろん無事ですから安心して下さい。ではすぐに私の屋敷にご案内しましょう」

 「レオン来てくれ」

 私はすぐに控えていたレオンを呼んだ。

 クレティオス帝の馬車でルミドブール家に戻ることになった。

 さすがにコンステンサ帝国の帝王クレティオス帝の馬車だった。

 車輪は金で出来ていて馬車のあちこちに金が張り付けてある。

 馬も素晴らしい白馬の4頭立てで、御者のほかに護衛の騎馬隊の兵士も十人は下らなかった。





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