第35話
私どうしたのかしら?
あれ?身体が動かないわ。それにまぶたを開けようとするのにまぶたはピクリとも動かないし…
脳は目覚めているらしく、人の気配や声は聞こえてくる。
そうだわ。私は夜会でたくさんの人が倒れて行くのを見て、何とかしようと魔力を目いっぱい使ったんだったわ。
それでこんなに身体が動けないほどになってしまったってわけね。
じゃあ、しばらくすれば動けるようになるかしら…
もう恥ずかしいったら、きっとみんなに取り囲まれて見られてるわ。
何だか気ぜわしく女の人の大きな声がして、近衛兵に連れて行くよう命令している。
きっとこの人エリザベートに違いない。
もしかしてこんなことをしたのはエリザベートなの?
そんな事を思っていたら私の事を反乱分子と手を組んだ悪党みたいに言っている。なんて失礼なの!
あなたが国を乱している張本人じゃない!
頭に来て怒鳴ってやりたい気分だが声すら出ない。
もう、こんな事ならあのお守りを探してでも持ってくるんだった。
あの櫛があったらきっと魔力も早く回復出来て、こうしている間に身体も動けるようになったかも知れなかったのに…
それに給仕係って…まさかヨーゼフ先生も捕まったの?
そんな…彼らこそ正義の味方で…周りの貴族の人たちはどうして何も言わないの?
ヨーゼフ先生がどんなにいい人かちっともわかってないんだわ。
ああ…何とか声だけでも出せたらいいんだけど…
口を開こうとしてみるが、まるで痺れ薬でも飲まされたみたいに何も動かせなかった。
絶望的な気持ちになりかけた時、アルベルト様の声がした。
彼は私が皆を助けてくれたって、私を誰にも渡さないって言ってる。
嘘…彼はそんな人じゃないって思ってたのに…
アルベルト様は近衛兵たちに命令している。
自分は次期皇王になるべき人間だと言い、そして私を客室のベッドに運ぶように命令してくれた。
ああ…アルベルト様、やっとあなたはご自分のやるべき事を自覚されたのですね。
良かったわ。あなたがその気になったのならきっともう安心です。
私は不安でたまらなかったが、彼が付いていてくれると思うとこのまま意識を失なっても心配ないと思うほどほど安心した。
これでもう大丈夫ですわ。
私もきっとじきに身体が動くようになるはずですしヨーゼフ先生たちもきっとご無事です。
私はベッドの上に寝かされるとほっとして何だか全身の力が抜けたようになりました。
おまけにアルベルト様が私の名前を呼んでしっかりしろと言ってくださっていて…
いきなり顔のそばに温かい息が拭きかかり私の心臓は飛び出るかのような勢いで跳ねました。
もうほんとにどっきりしましたわ。
そうでなくてもアルベルト様はやっぱり頼りがいのある素敵な人だと…
いえ、ずっと前からお慕いしてましたけど、これほどな急展開に脳がついて行けません。
本当は今すぐに目を覚まして彼を安心させてあげたいと思っていますけど。
まだ身体が思うように動かなくて、いえ、全く動けないんです。
あっ、誰なの?
私のドレスをゆるめているのは…もしかしてアルベルト様が?
動けない私に何をするのです?
このど変態!!
って思ったら女性の方でした。
声を掛けて下さって優しくドレスをゆるめて下さっておかげで息をするのがずいぶん楽になりました。
そして今度は彼がしっかりと手をつないでくださって、これはこれですごくうれしいです。
動けないのも悪くはありませんね。
でもアルベルト様がすごく心配しているので、何とか早く意識を取り戻したいです。
そしたら医師が見えてアルベルト様は追い出されてしまいました。
仕方ありませんわ。診察に同席されたら私の心臓が持ちませんから…
先生、私を早く動けるようにして下さい。私は出ない声でお願いしました。
フランツとかおっしゃった医師は、私に何かを飲ませました。
動けないんですもの、私はその液体を流し込まれるままでしかありません。
いきなり胸が熱くなって、さっきよりさらに苦しくなってきました。
おかしいです先生。これは一体なんですか?
「悪いねシャルロット。エリザベート様の命令なんだ。君はしばらくこのまま動けなくなる」
えっ?どういう事なの?私をどうするつもり…
あっという間に意識が遠のいて行った。
どれくらいの時間が経ったのだろう。背中にひんやりとした感触がした。
さっきと同じようにまぶたを開けることも指先一本動かすことも出来ない。
でも、意識は戻って来た。でもさっきよりも朦朧とした感じで、うーん、お酒を飲んだようなふわふわした感じ。でも気持ちよくはなくてどちらかと言えばむかむかして気分は悪かった。
どこからか話し声が聞こえて来た。
「よくやったわ。シャルロットにはしばらくここで我慢してもらうしかないわ。彼女が私たちの味方になればこれほどいい事はないんだけど…でも一体どこからこんな力の魔女が…それよりフランツ、彼女が目を覚ましたり動けるような心配はないの?」
「もちろん大丈夫です。ドクウツギはほんとに良く効く薬草で、定期的に決まった量を投与すれば、ずっとこの状態のままです」
「そう、良かったわ。これで一安心だわ。全く驚いたわ。あの計画が失敗しするなんて。まあ仕方がない。こうなったら別の方法を考えるしかないわ。じゃあ、フランツこの子から目を離さないでちょうだい。それにしてもこの子アドリエーヌに似ているわ…まさかこの子、いえそんなはずはない…」
ふたりの会話からして女はエリザベートに違いない。
アドリエーヌの子供だと気づかなかったらしくほっとしたのも束の間。
信じられないわ。ドクウツギってあの猛毒の薬草じゃない。下手をすれば激烈な痙攣をおこして呼吸停止するというあの毒草……
思考が停止しそうになる。
恐い。
いっそ意識を失っていた方が良かった。
少し前までは身体が動かなくてもあんなに安心できたのに、今あるのは恐怖しかない。
アルベルト様…早く助けに来て…
そうよ!アルベルト様はどうしたのかしら?
彼は部屋の外で待つように言われて、真面目なアルベルト様は医師の言うことを聞いて素直に従ったのよね。
もう、この王城にいる人たちを信じるなんてお人好しもいいとこだわ!
それにしても背中が痛い。冷たくて硬くて何でもいいからベッドに寝かせて欲しい。
フランツ医師は私が完全に意識を失っていると思っている。だからこんな所でも関係ないと思ったのだろう。
これなら意識がない方がましかもしれないわ。
こんな苦痛がいつまで続くのだろう。
考えるのも恐ろしいわ。
それにあの猛毒を飲まされると思うと、心臓が凍り付きそうだわ。
何とかして毒を飲まずに済む方法がないかしら、毒さえ飲まなければそのうち身体も動くかもしれない。
そうすればここから逃げることも可能かも…
でもどうやって動けない私にそんな事が出来るのだろう…
先の見えない不安に押しつぶされそう‥
ああ、お母様もこんな不安を抱えてきっと恐かったに違いない。
こんなところで死んだら…
ううん、絶対に助かる方法があるはず。
落ち着いて考えるの。どうすればいいかを…
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