第33話(アルベルト視点)
「アルベルト!あなたは下がってなさい。私はこの子に用があるのよ!」
エリザベートはいきり立ったような金切り声で叫ぶ。
「近衛兵、この子を連れて行きなさい」
「はい、かしこまりました」
6~7人の近衛兵がシャルロットを抱え上げて連れて行こうとする。
「待て、どこに連れて行く気だ?彼女はみんなを助けたんだぞ。エリザベート彼女をどうするつもりだ?」
俺はそれ以上シャルロットに触れたら許さないとばかりにエリザベートの前に立ちふさがった。
「まあ、今すぐに倒れているものをどうにかしようなどと考えていないわ。でも彼女には反乱分子と手を組んだらしいと国家情報隊からの情報もあるのよ。気が付いたら話を聞かなくてはならないわね。近衛兵、あっちの給仕係に化けた男たちも捕らえて連れて行きなさい。そいつらは牢に入れておいて、後で取り調べをすることになるから」
捕らえられたのはヨーゼフとその仲間5人で、みんな夜会の給仕係の格好をしていた。
「ちょっと待て、俺はこの人と話がある」
アルベルトはヨーゼフ先生たちを連れて行く近衛兵を止めた。
「ヨーゼフ先生?どうしたあなたがこんな所に?まさか…シャルロットに何かさせる気だったのか?」
「こんなことになるとは思ってもいませんでした。私たちはただロベルト様から真意を聞きたかっただけで、こんな恐ろしいことなど企んではいません。どうかアルベルト様私たちは無実だと掛け合ってください。このままではあいつらに罪を擦り付けられて死刑にされてしまう…」
ヨーゼフの顔色は真っ青だ。彼の心配は深刻だった。今までにも何人もの人間が犯してもいない罪で投獄され処罰されてきた。
今回の事はどういういきさつで起こった事かはわからないが、シャルロットやヨーゼフに罪を擦り付ける事くらいはエリザベートのやりそうなことだった。
「エリザベート。とにかく今回の事で勝手な真似は許さない。どうしてこんなことが起きたのか真実をはっきりさせるまではこの人達の処罰は認めないからな!」
「まあ、アルベルト、あなたいきなりどうしたの?今まで何一つ口を挟んだことなどないのに、あなたは黙って下がってればいいのよ。あなたが関わればどうせろくなことにならないわ。呪われた皇太子のなりそこないのくせに…邪魔よ!いいから私にはこの人達が企んだことが分かってるのよ。もう言い逃れなんか出来ないんだから黙ってなさい!」
「何を言ってるんだ?みんな見てたんだ。彼女がいなかったら死人が出ていたかもしれないんだ。誰が正しくて誰が悪いかなんてわかり切っている。とにかくシャルロットは渡さない!」
こうして言い合いをしているうちにシャルロットを連れた近衛兵たちはどんどん王城の中に彼女を運び込もうとしていた。
「待て、どこに行く?俺も一緒に行く。まず手当だ。お前たちだって見てたはずだ。彼女が皆を救ったのを…彼女はすべての力を使いきったはずだ。ベッドに運んで介抱するのが当然だろう。お前たちだってそう思わないのか?」
俺は近衛兵たち問う。
「ですが、エリザベート様が何とおっしゃるか」
「エリザベートは関係ない。この俺が命令する。俺は前王の息子だ。本当なら俺が皇王になっていてもおかしくはないんだ。この俺が命令すると言ってるんだ。いいから彼女を客室のベッドに運べ」
俺は自分でも何を言ってるのかと思った。
でも、シャルロットをエリザベートの手に預けるなんて出来るはずがない。
ずっと彼女を見て来た。
いや、ずっと目が離せなかったと言った方が正しい。
彼女を見た瞬間息が停止した。
なんて美しい…
淡いグリーンのドレスのシャルロットは美し過ぎるデコルテのラインを露わにしておまけに胸元には色とりどりのユリの花が揺らいでいて、あの淡いピンクの髪にも同じユリが差し込まれていて…
俺の心を鷲掴みした。
デルハラドに帰って来て初めて彼女に会った時生きていたとどれほどうれしかったか。
でも彼女が嘘をついていると知って、またどれほど気落ちしたか。
でも正直に謝れば彼女は俺のもとに帰って来てくれると信じたかった。
でも、違った。彼女はヨーゼフ先生が好きだと言って…
俺がどれだけシャルロットの事を好きかも知らないで…
だが、俺は人の嫌がる真似なんかしない。彼女がヨーゼフを好きなら諦めるしかないと、どれほど気持ちを押し殺してきたか…
それなのに、シャルロットは昨晩俺がけがをしたのを見てすごく心配してくれてあのすごい魔力を使って傷をあっという間に治してくれた。
俺の為にだ。
あんなことをしてもらうと勘違いしそうになる。
もしかして俺の事がまだ好きなんじゃないかって…
でも、今日はマールにエスコートしてもらって式典に現れるなんて、おまけにあんなに美しく華やいだ姿で…
彼女の隣にいていいのは俺だけなのに…
あんな場所でなかったら怒鳴りつけて俺のそばにいろって奪い取ってやりたい!
はっ、来たいなら一言相談くらいしてくれても良かったんじゃないのか?
俺がいくらでもエスコートしてやれたのに…
クソッ!クソッ!クソッ!
腹立たしくてイライラしていたらあの騒ぎが起きて、まさかシャルロットがあんな力を持っているなんて想像もしていなかった。
倒れた彼女のそばにいたのはマールで、あいつ支えにもならなかったじゃないか。
マールは何をやってたんだ。すぐそばにいたのに…近衛兵に押し倒されて…ったく!
シャルロットは倒れたんだぞ!男ならすぐに手を差し伸べて身体を床に倒れないように支えるべきだろう?
それにエリザベートの好きにさせるなんて、まあそこは俺が許さないが。
今までエリザベートのやることに口を出そうなんて考えたこともなかったが、もう黙ってはいられない。
シャルロットの事は好きになんかさせないからな。
俺の中で今ほど王としてやるべきことがあると思わずにいられなかった。
シャルロットのためにも、国民みんなのためにもこんな腐った腐敗の温床は排除しなければ、いつまでも知らないふりをしてはいられない。
これが出来るのは自分しかいないのだから…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます