第11話(アルベルト視点)
俺はあいつらを追ってカロリーナの家を出た。
うかつだった。あいつらだ。
俺は瞬時に状況を判断した。
カロリーナの事を知られたらあいつらはきっと彼女の命も狙うかも知れない。
何とかカロリーナに危害がないようにと、俺はとっさに彼女の家から飛び出した。
あとふたり、今までこんなに人を殺す気になったことなどなかった。
でも、今は彼女を守るためならどんなことでもする気になっていた。
こいつら生かして返すわけにはいかない。
俺は力の限り剣を振るった。
そして数人いたすべての賊を殺した。そして誰にも見つからないように森の茂みの中に隠した。後で穴を掘って埋めなければ。
あいつらの乗って来た馬はムガルの街で売り飛ばし、穴を掘る道具を買ってそいつらを埋めて隠した。
もう一度カロリーナに会いに行きたかった。
でも、もし誰かが見張っていたらどうする?
クッソ!そのために見張りを巻いてきたつもりだったのに、俺としたことが…
俺にはいつもそんな危険がつきまとっている。彼女をそんな事に巻き込むなんて出来るわけがない。
俺はカロリーナを諦める事しか思いつかなかった。
彼女に危害が及んだら、俺は後悔してもしきれない。
俺の生まれた生い立ちに今日ほど嫌になった日はなかった。
もし、生まれ変わったら必ず一緒になりたい。カロリーナ俺を許してくれ。
彼女にいい加減な男だと思われたくはない。
でも、君を守るためなら俺は憎まれても仕方がないんだと何度も言い聞かす。
でも、脚は彼女の家の中に入って行く。
部屋の中はぐちゃぐちゃになっていて、クッションが転がり、さっき彼女が煎れてくれたカップも床に落ちて割れていた。
マントを拾い上げて肩にかける。
ふっと何かが滑り落ちてキラリと輝く。何だ?それに目が行く。
あれはなんだ?
俺は近づいてそれを手に取った。
それは金色の櫛だった。
櫛には美しい彫り物が施してありところどころには宝石が散りばめてあった。
彼女はこれを毎日使っているのだろうか?
あ、あの彼女の美しい髪を…
俺は女性のこんなものに触れたこともなくてそれを想像しただけで卒倒しそうになる。
櫛を戻さなければと思う。
でも、もうカロリーナに会えないと思うと、櫛を握った手を広げることが出来なくなった。
そしてついズボンのポケットに押し込んだ。
俺はそのまま急いでその場を走り去ってしまった。
一気に国境を越えてクトゥールの街に入る。
そして白ユリ騎士団の第一部隊本部に帰った。
門をくぐるとレオンが急いで走って来た。
「隊長どうでしたか?
「それどころではなかった。カロリーナのところで賊に襲われた。心配するな。全員ぶった切ったから、カロリーナの事は漏れてはいない」
「やっぱり隊長は狙われてるんじゃ?気を付けたほうがいいです。これからは騎士隊を出るときは必ず護衛を付けてください。それでカロリーナはなんて?」
「話しどころじゃなかった。いきなり襲われて…だから何も頼めていない」
「そんな…でも今はまずいですよね。彼らにカロリーナの事を知られたら…また時期を改めたほうがいいですね」
「ああ、そうしよう」
俺はカロリーナの事を話すのが照れ臭かった。
彼女の事を思い出すだけで胸が高鳴る。こんな気持ちをレオンに気づかれたくはない。
その夜もカロリーナが使っていたと思う櫛を見てしまうとなぜか彼女との行為を思い出し熱くなった。激しい衝動をこらえきれないほど…
こんな事は初めての事だ。
カロリーナを思い出すだけで体中の血液が沸騰してしまう。
でも、彼女はこんなことはいつもあることみたいに言ってた。そりゃそうだ。カロリーナはも120歳なんだし、まあ俺に取ったらこの際そんなの関係ないって思う。
要するにお互いの気持ちだ。彼女だって俺の事覚えてくれてたし、きっと嫌いじゃないはずだ。
だってそうだろう?普通嫌いならあんな事するか?
でも、今は我慢だ。いずれ時期が来たら…って考えるだけで脳みそパンクしそうだ。
俺っておかしくなったのか?
翌日、執務室の椅子に座ってカロリーナの事を思い出す。
そろそろ訓練の時間だというのに全く元気が出てこない。
俺は深いため息をつく。
そっと取り出すのはあの櫛。こんなものを持って俺は何をする気だ?
22歳になるまで女っ気のなかった俺が一度の交わりで、こんなに彼女の虜になってしまうなんて…
ああ…寝ても覚めても思い出すのは君のことばかり。
カロリーナ君の事は絶対に諦めない。未来永劫俺の愛する女だ。
黙って持って来たことは悪いがこの櫛は俺の宝物にする。
そこにレオンが入って来た。
俺は慌てて櫛を上着のポケットに突っ込む。
「隊長?どこか具合でも悪いんですか?」
「いや、いたって健康だ」
「そろそろ訓練の時間ですが…隊長いつも一番にグランドに出て隊員たちにはっぱ掛けるのが日課じゃないですか」
「ああ、そうだな。レオン悪いが今日の訓練は君を中心にやってくれないか?」
「ちょっと失礼します」
レオンはアルベルトの額に手を当てた。
「熱はないようですが…隊長ほんとに大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。そう言ってるだろう」
アルベルトはまたため息をついた。
「た、隊長…もしや恋の病とかじゃぁ?」
「ま、まさか、いい加減なことを言うんじゃない!いくらレオンだからと言って…コホン」
アルベルトは真っ赤になった。
「やっぱり、そうなんですね?誤魔化しはききませんよ。それでお相手は?」
「聞くな。いいから早く行け」
「では、訓練の後で詳しく教えてくださいよ、じゃあ訓練に行っています」
レオンはくすくす笑いながら執務室を出た。
あの体調が?あの奥手なアルベルトが?
13歳の頃から知っているが今まで女性の話を聞いたことなど一度もなかった。
それに呪われているなどという噂もあってアルベルトに近づく女性なのいなかったからな。
しかしあいつ純情すぎるからなぁ。大丈夫か?
レオンは口元をほころばせて自分の事のように喜んだ。
その頃アルベルトは机に肘をついて祈っていた。
ああ、神よ。我を助けたまえ…
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