第3話

それは半年ほど前のある日。

 森の奥の私たちの家の中で私は大きな声を上げていた。

 このところカロリーナはめっきり老け込んだ。

 少し動くと疲れるのかすぐに横になる日がもう3か月も続いていた。

 私は少しでも彼女の役に立ちたいと思った。



 「カロリーナ!どうして私には魔力を使わせてくれないの。このままじゃ私は何の役にも立てないわ!」

 「いいのよシャルロット。あなたは魔力を使えない方がいいんだから。あんなもの人間の汚い企みに利用されるだけで、そんなこと出来ない方が幸せになれるわ。何度もそう言ったでしょう?私との約束を忘れたわけじゃないでしょうシャルロット」

 「忘れたわけじゃ……そんな言い訳ずるいわ。私だってもう19歳よ。あなたの手伝いがしたいのに、私が魔力を使えればいろんなことが楽になるじゃない!私は少しでもあなたの役にたちたいだけなのに…カロリーナなんか大っ嫌いよ!」

 私はそれっきり家を飛び出して走り出した。


 カロリーナは言った。

 この力は私を不幸にするから、これは使っちゃだめだって、それでカロリーナは母の形見の指輪に私の力を封印したのだ。

 今もその指輪は私の首にかかっているが、そのせいで私は魔力が使えない。代々私の一族には魔法を使える能力があって母親もその力のせいで聖女になり死ぬような運命をたどったのだと。父親になるはずだった人は母をかばって死んだのだと。

 でも、そんな事をいつまでもくよくよしていても仕方がないわ。シャルロットあなたは幸せにならなきゃいけないの。って…


 カロリーナは私に何でも教えてくれた。

 アップルパイやチキンの香草焼きの作り方も。

 パンの焼き方やハーブの育て方やハーブティーの入れ方も。

 大好きなカップケーキの作り方も。

 薬草の名前も作り方もこの国の一部の人が魔女を嫌っていることも何でも教えてくれた。

 でも魔力の使い方だけは絶対に教えてくれなかった。

 もちろんカロリーナの言いたいことはわかるわ。でも私だってもうちゃんと出来るのに!

 人に魔女だって知られたら困ることくらいよくわかってるわ。

 私をいつまでも子ども扱いするカロリーナに我慢できなくなって。

 それに魔女を思われるのはカロリーナと一緒だからで、私にそんな力はない。

 そんな憤りがどうやっても収まらなくって。


 道沿いに走って走って、気づいたらムガルの街はずれまで来ていることに気づいた。

 ふと、通りを見上げると人が行きかう姿が見えた。

 私は人と接するのがすごく苦手だった。



 それは幼いころの記憶がそうさせるから。

 これでも学校には行った。

 ムガルにあるみんなが通う教会の学校だ。6歳から10歳まで信仰についても国の歴史や外国の事、計算や文字も勉強した。

 でも、生まれながらにして緋色の瞳を持っていた私は魔女だとからかいの対象になった。

 みんながそう言うのは緋色の瞳には不思議な力が宿るとされているからだ。

 現にカロリーナの瞳も緋色だったし、私以外にそんな色の瞳を持っている子供はいなかったのも事実だった。


 ううん、コンステンサ帝国の王族の人にはそんな人達がいるらしい。何でも遠い昔、西の国から不思議な力を持った人がやって来てこの土地に住み着いて国を作ったと学校で習った。

 だから王族は魔法が使える特別な存在で私たちとは違うんだと。

 でも、平民である人間が緋色の瞳を持つなんてありえないのだ。それは悪魔の使いだと言われていた。

 もしくは魔女だとも…


 王族以外の人がその瞳の色を持つことは、とても弊害のあることらしい。

 でも、カロリーナは…?だからこんな森の奥で暮らしているのだろう。

 ううん、彼女は魔女だったわ。でも、カロリーナは言っていた。

 魔女でも人のために働くのは良き魔女は白い魔女だと、悪しき考えを持った魔女は黒い魔女だとも。



 私は学校でいつもいじめられてばかりだった。

 あれは10歳になったころだったと思う。遊び場でみんながわたしを取り囲んでいつものように汚い言葉を浴びせかけた。

 買ってもらった文房具を取り上げられてすごく腹が立って、とうとう立ち上がって手のひらをみんなに向けて、思いっきり心の底から憎いって思いっきり力を爆発させた。


 その瞬間!

 私は何かの力を発動したらしく、みんなが一斉に吹き飛ばされた。

 そしてみんなあちこちに怪我を負ってしまった。

 校長のマザーシスター。ローズマリーは呆れたように言った。

 「あなたのような子供はうちではもう面倒見切れません!」って。

 でも、私を助けてくれたことなんて一度でもあっただろうか?



 すぐにカロリーナに連絡が行って私は退学になった。

 それからはずっとカロリーナが私のそばにいてくれた。まるでお母様みたいだって私は思ったものだ。

 ううん、カロリーナは私にとってかけがえのないただ一人のお母様だった。





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