第2話 全力でお膳立てした私は、婚約破棄を申し出ます
「よし! 2人とも視線を逸らして頬を染めているから、間違いなく一目惚れしたわね!」
ミナに笑顔で話しかけるアーノルド様を見て少しだけ胸が痛んだけど、これも断罪回避のためよ!
入学式で殿下とヒロインが運命的な出会いイベントを済ませたのを物陰から見ていた私は、両親を唆してミナをカーフェイン公爵家の養子として迎え入れた。
「初めまして、私の名前はレイナ・カーフェイン。今日からあなたの義姉になるわ。よろしく」
「えっ、ええっと……ミナです。よろしくお願いいたします」
う~ん! おどおどしている姿も可愛い! さすが乙女ゲーのヒロインね! でも……
頭を上げたミナにそっと近づいた私は、彼女の華奢な両肩に両手を置いた。
「ところであなた、好きな殿方とかいらっしゃる?」
「えっ!? えぇ、まぁ……」
「それって、貴族の方かしら?」
「そ、そう、なりますね……」
あ~もう! そんなに頬を染めちゃって可愛いじゃない!
頬を赤く染めながら視線を逸らすミナに内心悶えつつ、私は悪役令嬢らしくゆっくりと口角を上げた。
「そう、それならあなたを立派な淑女にしないといけないわね」
「えっ?」
不思議そうに小首を傾げたミナに、私は笑みを潜めると彼女から離れた。
「あなたは、今日からこの由緒正しきカーフェイン公爵家の一員。なので、我が家の恥になるような態度、そして好きな殿方に恥をかかせるような所作は断じて許されないわ」
「っ!!」
背筋を伸ばしたミナを見て、私は貴族令嬢らしい笑みを浮かべた。
「なので、今日から私自らがあなたに淑女としての何たるかを教えます。正直、かなり厳しいものになると思うけど良いわね?」
「はい! よろしくお願いいたします!!」
「えぇ、よろしく」
そこから、義妹になったミナを元平民から一流の淑女にするために、私自らが彼女に淑女教育を施した。
「ほら、そんなみすぼらしい挨拶では殿方の妻になんてなれないわよ!」
「はっ、はい!」
「あと、一々おどおどしない! そんなことでは、他の貴族令嬢からなめられるわ!」
「はい!!」
ろくにカーテシーも出来ないミナに対して容赦なく言葉の鞭を打つ私は、まさしく悪役令嬢そのもの。
ちなみに、ゲームでの私はミナに対して物理的に鞭を打っていたが、可愛いヒロインにそんなことが出来るはずがない私は、速攻却下した。
正直、学園でも屋敷でも彼女を厳しく指導していたため、『これで断罪フラグが立ってしまったのでは!?』と思ってしまったことは一度や二度ではない。
でも、そこはさすが乙女ゲーのヒロイン!
どんなに私が厳しく指導しても、好きな人のために教えられたことをものにしようと必死に頑張っていた。
また、学園でミナに淑女教育を施していると、ほぼ必ずアーノルド様から苦言を呈されてくる。
「レイナ、ミナ嬢に対してもう少し優しくした方が……」
「お言葉ですが、それでこの子が他の貴族達に失礼を働いた場合、この子だけじゃなくてカーフェイン家も恥を掻くのですよ?」
「っ!?」
ヒロインに優しい殿下。正しく、乙女ゲーで何度も見た展開ね。
「ミナ嬢、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。アーノルドさ……」
「ミナ、アーノルド様は私の婚約者ですよ」
「っ!? そう、でした……申し訳ございません、アーノルド殿下」
「ミナ嬢……」
そうそう、そのまま頑張っているヒロインを優しく気遣って頂戴な。
そして、陰でミナを呼び出して虐めている貴族令嬢に対しては見つけ次第、得意の悪役令嬢スマイルで一人残らず叩きのめした。
「レイナ様の手を煩わせるなんて、これだから平民は……」
「あなた、ミナが私の義妹であり、私と同じカーフェイン公爵令嬢であることをお忘れ?」
「っ!!」
「レイナ様! 私たちはあなた様のことを思って……」
「あら、誰がそんなことをお願いしました?」
こういう輩がシナリオの強制力を働かせ、何もしていない私に対して冤罪にかけて断罪ルートまで連れて行くのよ。
そんなの見過ごすことなんて出来ない! あと、可愛い義妹を虐めるなんて許せない!
こうして私は、ミナに淑女教育を施しつつ、前世の知識を使って陰でアーノルド様とミナの距離を縮ませた。
そして3年後、ろくに礼儀作法が出来なかったミナは、学園を卒業する頃には貴族達から認められる立派な貴族令嬢に成長し、社交界ではアーノルド様の婚約者を私からミナにした方が良いのではと囁かれていた。
フフフッ、これで全ては整った! あとはアーノルド様に婚約破棄を申し出るだけ!
機が熟したと判断した私は、応接室で楽しく会話をしていたアーノルド様とミナの中に入ると、アーノルド様に婚約破棄を申し出た。
「アーノルド様……いや、アーノルド王太子殿下。私、レイナ・カーフェインとの婚約を破棄していただいてもよろしいでしょうか?」
アーノルド様とミナが2人だけの世界に入ってしまったので、小さく咳払いをして2人を現実に戻した。
「精霊の愛し子と王族が結ばれるのは、この国の習わしです。そして、アーノルド様とミナの仲は、社交界では周知の事実であり、皆が認めております。最近では、お忍びで街をデートされていたとか」
「っ!? お義姉様! それは……」
「ミナ、あなたがアーノルド様の隣に座っているのは、私が気遣っていることを分かっているわよね?」
口を噤んだ義妹に小さく溜息をつくと、笑みを浮かべたままアーノルド様に目を向けた。
さて、後は殿下から了承を得れば……
「ご安心ください。国王陛下と王妃様には、私と父が話を通して……」
「嫌だね」
「えっ?」
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